矢島卓郎と大久保嘉人のポジショニングに感謝する小林悠ではあるが、それにしても、鮮やかなボールカットだった。前半4分。東京Vの甘めのパスに対し「トップスピードでプレスを掛け」た小林がインターセプトに成功。そこから持ち出して絶妙なクロスを入れる。
「ディフェンスとGKの間が空いていたので、そこを狙いました」とその場面を振り返る小林のクロスは、走り込む矢島の足元にピンポイントで入り、川崎Fが幸先良く先制点を奪った。
消極的に戦い、完敗したヤマザキナビスコカップ準決勝の浦和戦をどうやって払拭するのかが問われていた。直近の公式戦3試合で相手に押し込まれていた川崎Fは、もう一度攻撃的な戦いに回帰しようと練習を組んでいた。そして、ケガのため戦線を離脱する中村憲剛の穴を埋めたのが大久保嘉人だった。中盤で先発した大久保はパスを引き出し、プレスを掛けてくる相手をものともせずにボールキープ。そして前を向いてはドリブルで仕掛け、ラストパスを通した。リーグ戦では得点王争いのトップに立つストライカーとしての特性に加え、ゲームメーカーとしての役割を高いレベルで果たせることを証明する前半だった。川崎Fは9分にも大久保がPKを決め、立ち上がりに2点をリードする願ってもない展開となる。
東京Vは、立ち上がりこそ、前からのプレスを試みるが、それをかわされると為す術なく守勢に回り、川崎Fの攻撃をひたすら凌ぐ時間が続いた。
前からの守備でボールを奪い、大久保に預けて試合を組み立て、両サイドバックが高い位置を維持する。それによって東京Vを押し込む川崎Fにとって理想的な試合は、しかし前半30分ごろから停滞を始めていたようである。川崎Fの攻撃機会は前半30分ごろから減少しており、それに反比例するかのように東京Vが前に出た。そんな東京Vの攻勢は、追い風となった後半に顕著となる。後半開始時にジェシに代わりピッチに立った實藤友紀は「風の影響もあって、前半にベンチから見ていても後半は押し込まれるんだろうなと思っていました」と述べ、後半の守勢はある程度覚悟していたようだ。いずれにしても、徐々に東京Vが落ち着きを見せた前半終了間際の時間帯を経て始まった後半は、東京Vペースで推移することとなる。
後半の川崎Fは、1トップだった矢島のポジションに大久保を並べ2トップへとシステムを変更。これにより試合を組み立てていた大久保がボールを触る機会が減り、川崎Fは試合を組み立てることが難しくなる。また前半の積極的な試合運びの影響により、川崎Fの選手は疲労とも戦わなければならなかった。例えば大車輪の活躍を見せた大久保は「キープして繋いで、一人剥がして抜いて、とやればすごいチャンスになりますが、やっている方は体力的にきつい。常にボール触ってますからね」と話し、自身の前半の疲労について述べている。もちろん他の選手も前からの積極的な守備が続いたこともあり疲労の色は隠せない状況があった。気候や疲労、システムなどの複数の要素が組み合わさわり、後半は東京Vが主導権を握った。
後半に入り攻勢を強めた東京Vは、前半は消えていた中島翔哉を中心とした攻撃が奏功し、川崎Fゴールを襲い続ける。後半開始早々の1分には右サイドを突破した森勇介がマイナスのクロス。これをつなげた中島のシュートは、GKを抜いて川崎Fゴールを目指すが、そこに飛び込んだ田中裕介に弾き出される。際どくゴールを死守した川崎Fはそのまま守備のペースを掴むこととなった。
ほとんどチャンスらしいチャンスが作れない川崎Fは77分、巻誠一郎へのクサビを伊藤宏樹がチャレンジしてボールカット。ここからの速攻でレナトへとボールをつなげ、強引なシュートを放つと、これが相手DFの体に当たりゴールネットを揺らした。「ちょっとコースはなかったんですが、思い切って打ったら相手に当たりボールも入ってくれました」とレナトが振り返るラッキーな3点目となる。
後半開始早々の決定機をものにできなかった東京Vは試合終了間際の90+1分に鈴木惇がこの日2枚目のイエローカードをもらい、退場に。後半に限れば良い攻撃ができていた東京Vではあるが、川崎Fの粘り強い守備の前に1点も返すことができず、結局無得点のまま試合終了のホイッスルを聞く。試合は3−0で終了。川崎Fが、16強へと進出することとなった。
試合結果は0−3となったが、東京Vは後半の試合内容については胸を張っていいだろう。ただ、“いい試合”を、“勝ち試合”に転換する決定力がなければこれからも苦労することになりそう。天皇杯では敗退したが、J1昇格プレーオフ圏内を目指すリーグ戦では、もうひと暴れしてほしいところだ。
以上
2013.10.17 Reported by 江藤高志
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