優勝という大目標を見据えた時、ポイントとなるのは何か。
もちろん、直接対決に勝利することが何よりの早道ではあるが、それだけでは勝てない。例えば昨年、広島・仙台・浦和の後半戦の直接対決は、それぞれが１勝１敗ずつ。ただ、仙台は第29節における浦和との直接対決に勝利した直後から、磐田・Ｃ大阪・鹿島・新潟・Ｆ東京と優勝争いには絡んでこなかったチームに一度も勝てず（３分２敗）に、優勝争いから脱落。浦和はＧ大阪・札幌・神戸といった、Ｊ２降格を余儀なくされたチームに全敗したことが、優勝を逸した最大の要因と言っていい。彼らとの対決で浦和が全勝していれば、第32節の広島との直接対決は勝点で並んでいる状態で行われていたわけで、優勝の行方は全くわからなかった。一方の広島は、降格3チームに2勝1分と結果を残し、中位チームとの対戦でも勝点を重ねたことが、栄冠へとつながっている。

つまり、中位から下位に沈んでいるチームから、貪欲に勝点を奪いとることが、最終的には優勝という宝物を手にできる。大相撲でも強い横綱、例えば白鵬などは、驚くほど取りこぼしが少ない。勝てる試合を確実にモノにするからこそ、最終的な勝者になれるのだ。

清水はここ5試合で4勝1敗。鹿島・名古屋・甲府と逆転勝利が続いているなど、状況は上げ潮だ。ラドンチッチ・大前元紀・高木俊幸の前線3人も、最近5試合で合計10得点（大前・高木俊が各4点、ラドンチッチが2点）と好調を維持。Ｆ東京と並んで今、最も勢いに乗っているチームと言っていいだろう。

ただ、現実的な順位でいえば、清水は11位。広島とは勝点にして12、首位・横浜FMとは14ポイントの差が現実として存在する。現状の好調ぶりや個々の能力の高さを「あえて」無視してデジタルな計算だけでいえば、ＡＣＬ圏内への希望は捨てていない清水とはいえ、広島は優勝のためには絶対に落とせない相手である。勝てば、首位・横浜FMと差を広げられることなく、最低でも勝点2差のままで次節の直接対決を迎えられる。そういう意味でも、非常に重要な一戦だ。

思い出すのは昨年の第20節、広島ビッグアーチ（現エディオンスタジアム広島）での対戦である。開始早々、広島が佐藤寿人のゴールで先制。さらに清水に退場者が出たこともあり、ホームチームの勝利は固いと思われた。しかし途中投入された高木俊に同点弾を喫し、さらに大前に逆転ゴールを奪われての敗戦。追加点を求めた広島のリスク管理の甘さが浮き彫りになった一戦となった。

今年の第4節で広島は清水に4-0と快勝。しかし当時は清水の状態が悪く、しかもラドンチッチ・大前・本田拓也ら現在の主力は在籍していなかった。今の清水は当時とは全く違うチームであり、大前にしても高木俊にしても、広島にはやりやすさを感じているはず。「彼らには、失うものはない」と佐藤が指摘しているとおり、大きなプレッシャーを感じていない清水の伸びやかなプレーが、個々の能力を存分に発揮できる可能性はおおいにある。

ただ広島は、相手に合わせサッカーをするチームではない。
「清水の中盤は強いし、攻撃力も前線3人は持っている。明日の試合では、ボランチが一人なのか二人なのか、どういう形で戦ってくるのかも、よくわからない。でも、どういうやり方で来ても、自分たちのサッカーを表現できれば問題なく崩せる。うまくいかなかったにしても、試合の中で修正できればいい。いつもどおりのサッカーをやっていくこと」
淡々とした表情を崩さず、森崎和幸は語る。清水・ゴトビ監督にとって、広島のやり方は先刻承知だ。左サイドバックに吉田豊を投入し、河井陽介を左ウイングで起用するという情報もあるが、それは清水の事情というよりも広島の右サイドを勘案した上での布陣だろう。しかし、どんなやり方で戦ってこようと、広島のやり方は変わらない。相手の数々の対策を受け、苦しみ、それでも戦い抜いてきた自信が、森崎和の言葉を支えるバックボーンである。

連勝中の広島だが、決して盤石の内容ではない。しかしそれでも、後半戦は結果を残している新潟・鳥栖を連破できたことは、強さの証明でもある。今節も好調チームが相手だが、この試練を乗り越えることが、過去に3クラブ（Ｖ川崎（現東京Ｖ）・鹿島・横浜FM）しか達成していない「連覇」という偉業達成への条件。実力者・清水との対戦は「熾烈」となる。

以上

2013.10.04 Reported by 中野和也