奇跡は起こらなかった。いや、奇跡を起こすほど際どい展開にすら持ち込めなかった。力の差をまざまざと見せつけられ、柏のアジアの頂点を目指した戦いは、ここで終焉を迎えた。
ネルシーニョ監督は前日の記者会見で大逆転への“秘策”があることを明かしていた。システムの大幅な変更なのか、それとも選手の抜擢なのか、あれこれ想像を巡らせていたが、それは中盤をダイヤモンド型にした4−4−2、栗澤僚一をアンカー、右に茨田陽生、左にジョルジ ワグネル、トップ下に田中順也を置く並びだった。
「相手のサイドバックが攻撃的でかなり上がってくる。うちの中盤の数が相手と同数以上になるようにダイヤモンドにして、サイドにスペースが空くが、そこに誘い込んでボールを奪い、上がってきたサイドバックの背後を突く」
それがネルシーニョ監督の意図だ。
だが、この狙いは無残にも外れることになる。
サイドのスペースに罠を張るどころか、そこをいいように使われ、サイドで数的不利を作られてしまう。広州はサイドで詰まっても、キープ力のある外国籍トリオがサポートし、そこでタメを作って、今度は空いた逆サイドへ揺さぶられる。
16分の先制弾は、右サイドのスペースを突かれ、辛くもクリアで逃げたが、そのCKからエウケソンに決められている。柏は攻めも機能せず、選手間の距離が離れてしまって、ボールを奪っても前線にロングボールを蹴り込むだけ。工藤壮人は「2、3列目がどんどん上がってくるイメージを持っていた」と話しているが、攻撃に参加するのは工藤、クレオ、田中で、ジョルジですら広州に押し込まれたために高い位置取りができず、前半の柏には得点の気配がほとんど感じられなかった。
したがって、後半に4−2−3−1に戻したのは当然の流れだ。前半にリードを奪った広州はもはやリスクを負わず、彼らが守備的に戦ったことも影響しているだろうが、後半の柏はボールが回り始め、敵陣深くまで押し込む展開が続く。
しかし、それこそ広州の思うつぼだったのかもしれない。試合後の会見で、マルチェロ リッピ監督が「付け入るスペースを与えなかった。守備も堅くできていた」と満足げに話していたように、広州は7人でブロックを作り、柏の攻撃をガッチリと遮断する。柏に決定機はあるにはあったのだが、67分=ギャップを突いた工藤、71分=スルーパスを引き出した太田徹郎、83分=工藤のミドルシュートをGKが弾き、それを詰めにいった澤昌克と、いずれの決定機も精度に欠け、GKに阻まれるか、枠を逸れ、ネットを揺らすには至らなかった。
対する広州は、7人が守り、ボールを奪うとエウケソン、ムリキ、ダリオ コンカに預け、3人が迫力のあるカウンターで何度も柏ゴールに襲い掛かった。近藤直也、鈴木大輔、菅野孝憲もよく食らいついていたとは思うが、この次元の違うアタッカーを相手に数的同数の場面を作られたり、スピード勝負に持ち込まれてはひとたまりもないだろう。57分にコンカ、79分と87分にムリキと、第1戦同様またしても外国籍トリオに決められ、4−0とスコアを大きく離された。
これは「決めるところで決める」という差だけではない。柏がカウンターに転じた時、数的に同数でも前への推進力がないため、スピードが上がらず、結局はスローダウンして相手にブロックを作られてしまう。少ない人数で手数を掛けず決定的な形にまで持って行ける広州とは対照的だ。さらに柏はフリーの場面でも、シュートに限らず、クロスやパスの精度に欠け、組織的に応戦しても広州の守備ブロックを崩せなかった。
そこには明らかな実力差があったと、認めざるを得ないだろう。
ただ、今季ほどアジアの頂点を意識し、本気でAFCチャンピオンズリーグのタイトルを狙いに行ったことはなかった。出場するだけで精一杯だった昨季とは大きな違いがあるし、アジアの頂点に立つためには何が必要なのか、それを知ることができたのはACLの舞台でベスト4まで勝ち上がってきたからであって、グループリーグで敗れていては、それすら知らずに終わるところだった。
確かに屈辱を味わった。だが同時に、個人に足りないもの、組織として欠けているもの、選手たちは各々、それらを見出したのではないだろうか。すなわちそれを手にした時にこそ、柏はアジアの頂点に立てる可能性が一段と高まることになる。
今年のアジア挑戦は終わった。しかし、アジアの頂点を目指す柏の戦いはこれからも続く。この敗戦を糧として今後の戦いに生かすためにも、来季のACL出場権を必ず獲得し、またあの舞台へ戻ろう。
以上
2013.10.03 Reported by 鈴木潤
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