負けない熊本が帰ってきた兆しか。
シーズンはラスト8試合。プロフェッショナルとしての自分たちのプライド、そして成績がどんなに芳しくなくても支えてくれる地域のために1つも落とせない戦いが続くなか、7位の札幌をホームに迎えた熊本は苦しいゲーム展開を耐え、最後まで耐え抜き、勝点3を手にした。札幌の攻撃は圧倒的で、そのスピードと豊かなアイデアはまさに脅威だった。スペースを衝く内村圭宏の鋭い飛び出し、砂川誠の配球の妙、前田俊介の強さ、そして終盤に投入されたフェホの高さ、それらに肝を冷やす場面が何度もあった。最終的に勝利を決定づけたのは片山奨典の豪快な1発である。だがそれをたぐり寄せたのは、紛れもなく前半の1失点に抑えたチーム全体としての身を挺した守備であり、スタジアムに集った勝利を望むサポーターの凝縮された思いだ。この時期、最も必要な結果を、彼らは自らつかみ取ったのだ。
そもそもの入りから、札幌の勢いはプレーにも現れていた。開始20秒には内村がファーストシュートを放ち、その後1分には右から前田、内村とつなぎ荒野拓馬がゴール前に持ち込む。熊本は「しっかり5-4-1で守備のベースを作ってから奪って出よう」(池谷友良監督)という狙いでブロックを敷いたものの、ボールに対して、またボランチと最終ラインの間のスペースを間断なく動き回る札幌の選手に対して、効果的なプレッシャーをかけられない時間が続いた。リスタート時にアラートしておらず完全に対応が遅れる場面もあり、集中力の欠如さえ見え隠れする。全体が低いため、攻撃に転じても自陣からの押し上げに時間がかかってスローダウンし、高い位置でポイントが作れない状態。ボールサイドではまずまずの距離感を取っていても逆で準備ができていなかったり、横に動かす時に引っ掛けたりで、ハーフタイムに池谷監督が述べている通り有効なサイドチェンジもほとんど見られず、立ち上がりから実に厳しい展開だったと言わざるを得ない。
だが17分、養父雄仁が倒されて得たFKから、思いがけず熊本に先制点が生まれる。ボールがセットされた場所は、再試合となった31節の北九州戦で直接決めたのと同じような位置。大迫希が送ったインスイングのボールに合わせたのは齊藤和樹だ。高いキックではなかったため身体を曲げるようにして齊藤がすらしたボールは、そのままファーサイドへ伸びて、札幌GK曳地裕也の手をかすめてマウスに吸い込まれた。
しかし札幌はリードを許しても一切慌てず、むしろ勢いを増す。22分と23分のコーナーキックからのシュートは枠を捕らえきれなかったが、24分、砂川からのフィードに抜け出した上原慎也は、深い位置で残して寄せにきた大迫をかわし、右足でのシュートを選択。ボールへの寄せとコースの遮断とも熊本の対応が中途半端で、また内村が合わせに入ってきたことでGK南雄太にとってはブラインドになった可能性もあるが、思い切った判断と正確なスキルで狙った上原のシュートはニアを抜き、札幌があっという間にゲームを振り出しに戻した。直後の26分にも砂川から内村へつないでの決定機を作り、逆転こそできないながらも完全にペースを掴んだ。
後半に入ると流れはさらに札幌へ傾く。前述の通り熊本のプレッシャーがかからず、砂川や宮澤裕樹がボールを受けては自由に前を向き、ワイドのプレーヤーは中へ入る動きを見せてマーカーを引っ張りながらサイドバックが出て行くスペースを作る。三上陽輔に代わって197cmのフェホが投入された67分以降は高さも加わってバリエーションが広がった。熊本にとってこれは「(気になっていたバイタルでのワンツーやフリックが減って)高さが出たことでラッキーだった」(池谷監督)という側面もあったが、69分の砂川のフリーキック、70分の日高拓磨のシュート等、GK南の好守がなければ逆転を許していたことは明らかである。
65分に仲間隼斗と黒木晃平が入ってから少しずつ札幌陣内へ運ぶ場面が増えたとはいえ、その瞬間がくるまで後半はシュートすら打てていなかったのも事実。だが、今までであれば使えていなかったそのたった1度のチャンスを、熊本は遂に得点に結ぶ。79分、右サイド深い位置でボールを納めた仲間がサポートへ入った大迫へ落とすと、大迫は迷わずダイレクトでクロス。枠を捕らえた養父のヘディングはGK曳地が弾いたが、そこにはウーゴと片山が詰めていた。「前半にも同じような形があって、2回めだったので気付いてくれたと思う」(片山)と、ウーゴは相手選手をブロックして片山が打ちやすい状況を作り、片山は「ミートすることだけを意識して」ふかさずキッチリと、得意の左足で逆のサイドネットに突き刺す。当然のように見える得点も、複数の選手の狙いと相互理解があってこそ。アディショナルタイムの4分に入ってから迎えた2度の決定機を沈めて突き放すことはできなかったものの、最後は高橋祐太郎を入れて全員で守り抜いた熊本が、したたかに勝ちきった。
敗れた札幌は順位を1つ下げたが、攻撃の迫力はJ2でも屈指であることを証明した。だがだからこそ、財前恵一監督が述べたように、質の安定が不可欠。もっともサイドから崩してフィニッシュに持ち込む回数自体が少なかったわけではないため、「数センチ、数十センチというところの差というか、精度」(砂川)を継続して追求し、再びプレーオフ圏に迫りたい。
熊本にとっては、文字通り勝点を拾ったゲームである。当然、狙いとすることができなかった点は修正すべきで、この試合の内容を是としていては、決して先は明るくないし、それは選手たち自身もじゅうぶん理解しているはず。しかしそれでも、どんなに不格好でも、勝利を求めて戦い抜いた姿勢には、見るものとして敬意を表したい。勝点差の近いチームが総じて勝ったこともあり順位は変わらず、何も状況は変わっていない。最後まで難敵との戦いが続くが、この試合のように執着すれば、道は拓ける。これからが熊本の季節、まだ進むのだ、その先へ。
以上
2013.09.30 Reported by 井芹貴志
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