2点を先にとったにもかかわらず、連携ミスで栃木に1点を与え、追加点のチャンスも何度も逸して相手に勢いを与え、逆転を許す。それでも、後半アディショナルタイムで同点に追いつき引き分けに持ち込む。状況が次々と変わる点取り合戦となったが、内容にも様々な要素が詰まっていた。
前節の長崎戦敗戦を機に、三浦泰年監督はメンバーを大幅に入れ替え、さらにシステム変更まで施した。特にDFライン3枚は総交換。ケガから復帰したキローラン木鈴、刀根亮輔に加え、右にはぺ デウォンを今シーズン初めて、しかも先発で起用した。また、中盤もこれまでの3ボランチではなく、中後雅喜、西紀寛を並べたダブルボランチ、両ワイドに森勇介、前田直輝を配し、トップ下のような形で安田晃大、2トップは高原直泰と飯尾一慶という布陣を敷いた。これが、機能した。
開始から、久々の先発となった安田、中後が積極的にボールに絡み、リズムとテンポを生み出していく。すると、前半7分のことだった。両チーム合せて最初のシュートを、東京Vがゴールに直結させた。ペからパスを受けた安田が相手DFの間に入れた絶妙なボールを、ペナルティエリア内で飯尾がしっかりキープし、スリッピーなピッチに足を滑らせた相手DFを交わして中へ。GK榎本達也との球際勝負で一瞬先にボールに触り高原へ。エースは、右足インサイドできっちりと決めた。
そして、チームにとって非常に喜びが大きかったのが前半33分に訪れた2点目だろう。「中後さんのボールが本当に良いボールなので、ヘディングがしやすい」。日頃から練習し続けてきた、中後のクロスに頭で合わせるという得意の形で、ぺがJ初ゴールを決めた。不慮のアクシデントなどから、開幕前から大きな困難を乗り越えてきた苦労が報われた瞬間だった。「何より、デウォンが点を取れたのがチームにとってプラスに働くと思います」と、中後も価値あるゴールと位置づけた。が、本人は「結果がしっかり出たとは思わないです。得点は取ったけど、失点のシーンの時、ぼくが関係してしまったから100%良かったとは思わないです」と、不満の表情を浮かべていた。今後の成長が期待できそうだ。
先制、追加点と理想的な形で試合を進められていたが、前半36分、思わぬアクシデントが起こる。DFとGKの連携ミスによってバックパスがオウンゴールとなってしまうのである。それまでほとんどチャンスらしいチャンスを作られていなかっただけに、実にもったいない失点であったことは言うまでもない。「2−0と2−1で折り返すのとでは全然違うので、前半のうちに2−1にできたのはよかった」と近藤祐介が振り返ったように、栃木の選手を勇気づける形となってしまった。
とはいえ、後半も東京Vが立ち上がりからどんどんチャンスを作っていた。だが、ラストパス、クロス、そしてシュートの精度を欠く場面が連続し、自分たちから流れを手放してしまう。そうなると、自ずと栃木にリズムが出てくるというものだろう。そして、そんな時、最も曲者となるのが菊岡拓朗だ。後半25分、栃木のゴール前、東京Vの攻撃で安田が高原の抜け出しに合せて出したスルーパスをGK榎本がキャッチした流れからだった。攻撃に転じた栃木が速攻。チャ ヨンファン、菊岡と渡ったところで、攻撃で上がっていた東京VのDFラインの裏に抜け出したクリスティアーノへスルーパス。鮮やかに通り、同点とした。クリスティアーノ自身、3試合連続弾となった。
さらに栃木は、意気消沈した東京Vにたたみかけていく。後半39分、入って1分後の湯澤洋介が積極的にドリブルでしかけ、自ら強烈なゴールを突き刺した。湯澤にとってもこの逆転弾がプロ初ゴール。「肩の力が抜けた」としながらも「でも、そのゴールだけ。途中から出ている選手としては、相手をかき回して、2点目3点目を狙えるようにならなければいけない」。東京Vのぺ同様、今後へ向け向上心溢れる言葉を残した。
まさかの逆転を喰らったが、それでも東京Vは諦めなかった。アディショナルタイムに入ってからのことだ。中後のCKからのボールを、ファーサイドで刀根が滑り込んで中へ送り込み、中央にいた高原が後ろ向きのまま左足かかとで流しこんで、なんとか勝点1をもぎとった。土壇場で敗戦を免れたことを、チームの成長と捉えられるか訪ねると、熟練エースは「成長というよりも、それ以前に、2点先に取りながらもこういう展開にしてしまったことの方が大きな問題。1人で5点は決められるチャンスがあったのに、点を取る立場の選手として迷惑をかけてしまった」と、誰よりも自分に厳しかった。高原がここまで強い責任感を口にするのは、三浦監督が記者会見で語っていた「みんなでつないでつないで、みんなで作って、みんなで努力してきたトーレニングの総決算が最後のシュートである、ということが感じられないようなシュートによって、なかなか自分たちがいい状況にもっていくことができなかった」との言葉の意味を深く受け止めているからに違いない。それぞれが苦しみながらもGK、DFが守り、MFがつないで組み立てて作った最後の大事なフィニッシュを、しっかりと結実させることがFWの役割ということだろう。恐らく、FWに限らず、“最後”を担った選手は、チームメイトたちの思いも背負っているのだという意識をより高めて、翌日からのトレーニングに励むに違いない。互いの労をプレーでも労い合えるチームへと成長できれば、得点力は自ずと上がってくるのではないだろうか。
栃木としては、「0−2でスタートしたことを考えると、勝って終わればあまりにも運が良すぎるというか、それにはおこがましい試合だったと思う」と、松田浩監督は語る。相手のミスによって1点が入る幸運に恵まれ、一時は逆転する最高の形を作りながらも、セットプレーから、しかも残り5分間での失点と、これまでも課題としてきたことを再び繰り返してしまった。傍から見れば勝利していてもおかしくはないように見るが、「今日は、勝てる試合でもあったけど負ける可能性もあったから、引き分けは妥当かなという感じ。相手もチャンスをたくさん作っても外してたし、東京Vも引き分けの試合だと思っていると思う。両方とも「もったいない」という試合だったと思います」という菊岡の言葉が核心をついてるのかもしれない。
ただ、結果としてみると、「3点取れたことはよかったと思うけど、ウチはそういう(大量点を取る)チームじゃないと思っています。1−0、2−1などの接戦に競り勝つチームだと思っているので、3点をとれたことよりも、3失点したことの方が重大な課題だと思います」(近藤)。
栃木の次節は順位が1つ上、4位・京都との直接対決で、勝てば順位が入れ替わる大一番である。この試合を教訓に、自分たちらしい戦いでさらなる順位上昇を目指す。
以上
2013.06.23 Reported by 上岡真里江
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