第19節（６月15日）・熊本戦では、クラブ新記録でありＪ２最多タイ記録でもある７ゴールの快勝。シュートが決まるたびに、本城はお祭りのような大騒ぎだった。
ただ、この日一番声援を浴びたのは、２ゴールを決めた小手川宏基より、復活ゴールを飾った池元友樹より、ベンチ入りしたＧＫ松本拓也が、試合後に会場一周した時に掲げた背番号18の黄色いユニフォームかもしれない。

６月13日にクラブから内藤洋平の負傷についてのリリースが出された。10試合ぶりの勝利でチームが登り調子になるキッカケを掴んだ古巣・京都戦（第17節、６月３日）で、約２カ月ぶりにケガから復帰したばかりだった。

予感はしていた。実はリリースが出た13日、新門司の練習場に向かっていた際に、私の車の前を京都ナンバーの車が走って行ったのだ。時計を見ると練習開始の15分前。「遅刻したのかな？」とそのときは思ったのだが、練習場には神妙な表情でトレーナーと話す内藤の姿があった。チームトレーニングはスタートしたが、その中に内藤の姿はなく、午後にクラブから出されたリリースですべてを理解した。

本城は、記者室の前にちょうどホームチームのベンチがある。熊本戦のキックオフ前、そこに「18」の背番号のユニフォームが掛けられているのを目にした。
後日、松本拓也に聞いてみると「あれは（冨士）祐樹さんの提案だった。祐樹さんも同じようなケガを２回していて、その辛さをわかっているから。初めはユニフォームはベンチの中だけに飾っていたんだけど、ゴールを決めた時にみんなで喜んでいる姿を洋平に見せたかったし、あのユニフォームをスタンドのお客さんにも見せたかった。だからスタッフの方にお願いして、いつでも自分が使えるようにベンチの外にも置いてもらったんです」と明かしてくれた。

前回、内藤が負傷した際に、入れ替わるように先発出場を果たし、熊本戦でもゴールという結果を残した森村昂太は、新たな決意を語った。
「チームとしても、とても残念な知らせだった。リハビリも長くかかるだろうから、洋平の分もみんなでやろうと話していた。試合前の整列の時に祐樹さんから『一緒にユニフォームを持ってくれないか？』と言われたので、もちろん快諾した。同じポジションを争っていたので、自分としては彼の穴を埋めたいとは思っていない。自分らしいプレーを続けて、チームのために戦うことが大事だと思うし、それが洋平のためにもなる」

ケガから復帰し、熊本戦で今季初ゴールを決めたエースの池元友樹も「ようやく復帰して、これからって時だったから、チームも彼（内藤）もショックが大きかった。自分も同じようなケガを繰り返して、リハビリの大変さはわかっているつもり。彼は才能もあるし、熱い気持ちも持っているプレーヤー。みんなが彼を待っているし、彼がプレーできない分、どんな試合も自分たちは全力でプレーする、諦めずに最後まで戦う。プレーできる喜びをかみしめながら、これから残りの試合をみんなで戦っていきたい」と約束してくれた。

最後に、ユニフォームをベンチに飾ることを提案した冨士は「リハビリは長くかかるし、洋平自身も経験のないくらい辛い戦いが待っている。自分の時もチームメイトが同じことをやってくれて、それを見た時にうれしかったのでやった。元気な姿で戻って来てほしいとみんなが思っているので、頑張ってほしい」とエールを送った。

７対０と大勝しただけに、試合後の記者会見でも得点をあげた選手に対する質問が飛び交う中、あえて内藤についてのコメントを柱谷幸一監督に求めた。数秒前の笑顔から一転した柱谷監督の表情からも、内藤の離脱が大きなショックだったことがうかがえたが「しっかり治して、今以上の選手になってほしい」。
取材を終えてスタジアムを去ろうとした時に、この日スタンド観戦していた内藤本人に会うことができた。「リハビリ頑張って」と声を掛けると「はい、頑張ります」と笑顔で答え、彼はもうすぐ始まるチームとは別の戦いに向かって歩き出した。

これからしばらく、ピッチ上で彼の姿を見ることはできなくなるだろう。しかし今季、京都から加入して、その卓越した技術からの数々のプレーで北九州のファン・サポーターのハートを真っ先に掴んだ18番・内藤洋平。次にピッチに帰ってくる時には、もっと我々を驚かせてくれるに違いない。一回りも二回りも大きくなった18番の帰りを、我々はずっと待っている。

以上

2013.06.20 Reported by 坂本真