第18節で唯一、日曜日に行われたこの試合。90分の戦いが終わって勝利を手にしたのは、後半からきっちりと修正を施した京都だった。
試合を決めたのは、「練習試合でもよくシュートが撃てていた」と、その状態の良さから大木武監督が6試合ぶりに先発に起用した19歳の久保裕也である。「悪い時にはシュートを撃つところまでまでいかないが、先週の練習ではよく“足が振れて”いた」と指揮官が語った通り、数少ないチャンスを思い切った判断と高い技術で確実にものにして、熊本を沈めた。
とは言え前半の内容はまったく対照的で、前半の45分を終えた時点では「熊本にいつ先制点が生まれるか」と期待させる展開だった。この試合に向け、「相手の良さを出させず、自分たちの良さを出す」(吉田靖監督)という狙いをトレーニングに落とし込んできた熊本は、立ち上がりこそ京都の勢いに押され思うような展開には持ち込めなかったが、15分過ぎからペースを握ると、逆に京都を自陣にはり付かせるほどに終止押し込んだのだ。
熊本が優位に試合を進めることができたのは、高い位置からのプレッシングとボールへの速いアプローチ、適切な距離感を保ってルーズボールやスペースをケアしたポジショニング、そして攻撃に切り替わってからは広いエリアへと展開する判断の共有と、京都の寄せをかわすテンポの良いパスワーク等、この一戦でやるべきことをピッチで表現できていたから。実際、京都の田森大己も「前半は、相手の中盤を誰が掴むかハッキリしないと、その状態で裏に蹴られるので難しかった」と振り返っているように、立ち上がりをしのいでからは中盤でも優位性を保ち、ほぼ一方的に攻めたてた。
13分には齊藤和樹が右からえぐり、14分のコーナーキックには橋本拳人が頭から飛び込む。17分にも左から右へ動かして堀米勇輝が鋭いグラウンダーのクロスを送り、27分には仲間隼斗、堀米とつないだスイッチプレーから橋本がミドルを放つ。しかしいずれも枠を捉えることはできず、また京都GKオ スンフンの好判断によるセービング等でゴールは割れなかった。結果的には、「我々の良さが出ている、その時に点を取れなかった」(吉田監督)ことが、後半に影を落とすことになる。
一方、熊本のプレスに対して後手を踏み、ビルドアップもままならない状態でシュート2本にとどまった前半を受け、大木監督は「ディフェンスは一歩遅れている」と指摘。さらに「つなぐのか裏を狙うのかハッキリする」ことを指示し、選手たちを後半のピッチへ送り出している。この言葉が即座に効果を表したとは言えないが、わずかなきっかけを逃さず先制点に結んだことが、その後の流れを一変させた。
49分、右からのパス交換で久保が倒されて得たFK。福村貴幸がゴール前へインスイングの軌道で入れたボールに対し、熊本のGK南雄太はキャッチングの体勢に入った。一度はその手に触れたボールはしかし、南の手には収まらずにこぼれる。ファーに詰めていた久保は、落ち着いて頭で押し込むだけだった。
残り時間を考えれば、熊本はまだ慌てる必要はなかった。だがスコアが動いたことで落ち着きを取り戻したのは京都であり、1点のビハインドを負って前半にできていたことを執拗に繰り返さなくてはいけなかった熊本が、逆に落ち着きを失った。藤本主税の投入で原田拓を下げ、中盤の構成をダイヤモンド型へシフトしたことも、それまでDFラインの前にフタをしていた機能が弱まったことに影響したのか、逆に京都のカウンターが威力を増す。64分の安藤淳からのクロスに合わせた2点目、そして中央から横谷繁のふわりとしたパスに抜け出した3点目と、久保のその後の2得点はまさしく大木監督の指示通りに、シンプルに熊本DFの裏を狙って奪ったものである。
2点目を失ったあと、熊本は71分に北嶋秀朗、78分に藏川洋平と交代カードを切って反撃に出たが、中盤の変化もあって前半に見られた流動性は発揮できず、77分の北嶋など決定的なチャンス自体は何度か作ったものの、88分に齊藤が入れたクロスからオウンゴールで1点を返すにとどまった。自らのミスで先制を許した南は「自分が流れを変えて、試合を壊してしまった」と唇をかんだが、後半に入ってからはリスキーなミスも目につくようになっており、吉井孝輔が話したように後半の守備についてはチーム全体として見直す必要がある。
勝った京都は、自動昇格圏の2位とは勝点差が6あるが、4位をキープ。押し込まれた前半を耐え、後半に修正して戦い方をハッキリさせて流れを引き寄せた点は、チームとしての地力を見せつけることにつながった。しかしながら、攻撃面での前節の課題、すなわちビルドアップから前につけて崩すという形が表現できたわけではない。また守備においても、局面では粘りを見せたものの前半に押し込まれた中での修正の必要性について大木監督が言及しており、ピッチ内でどう判断するかが今後も問われていくことになる。
力の差を感じさせないどころか、自分たちの力を見せた前半と、逆に繊細すぎるほどの脆さを露呈した後半。この試合での熊本の姿は、前後半でまるで別のチームのようにさえ映ったが、どちらも今の熊本の一面であることも確か。道のりはまだ近くないが、少しずつでも逞しさを増していかなくてはならない。週末に迫った北九州との一戦で見せてほしいのは、言うまでもなくこの日の前半の姿である。
以上
2013.06.10 Reported by 井芹貴志
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