立ち上がりを制したのは、ボランチに秋本倫孝と姜成浩を入れ中盤の構成を変えた京都だった。4分、コーナーキック崩れのプレーで山瀬功治の前線へのクロスをバヤリッツァが落とし、サポートの三平和司が秋本に預け、山なりのパスを再び三平。すべてワンタッチでつないだ決定機はGK常澤聡のセーブに阻まれたが、17分にも横谷繁がドリブルで中央から右サイドへ流れてそのままシュートを放つなど、2トップの馬力とスピードを生かし、山形ディフェンスラインの押し下げを狙った。18分、スペースへ飛び出した横谷から中央の三平へマイナスのクロス。21分には中盤で三平が潰れ、そのこぼれ球を拾った工藤浩平がドリブルで持ち運んだあとスルーパス、ダイアゴナルに走り込んだ横谷がフリーでシュート。ここも常澤が落ち着いて跳ね返したが、決定機がいつ得点につながってもおかしくない展開だった。
決定的なピンチをしのぐ山形も、30分頃から徐々に攻撃が形になる回数が増えていく。前線では林陵平がヘディングで競り勝ち、中島裕希や山崎雅人、伊東俊がそのままシュートチャンスをつくる機会こそ少なかったが、たとえ拾えなくても勢いのまま相手にプレッシャーをかけることで京都のパスワークの自由を制限していった。その中で存在感を増していったのが中島。33分には西河翔吾のくさびを受けたあとの突破でバヤリッツァのファウルを誘い、その10分後には中央から左サイドに流れながらコースを空けると強引にミドルシュートを放った。そして45分、センターサークル付近で足元で受け、前を向くと、林とクロスオーバーしながらゴールへ向かいそのままドリブル。左からの染谷悠太の圧力も、右からの福村貴幸のスライディングタックルもかわしてペナルティーエリアに進入すると、スローダウンしながら相手キーパーを凝視。軽くフェイントを入れたあとに右足を振り抜き、先制ゴールを突き刺した。
後半の立ち上がりこそペースを握ったが、京都のパスや飛び出しに対して、徐々に出足の鈍さが目立ち始めていた。その流れを決定づけ、山形にさらなるダメージを与えたのが64分、駒井善成の投入だった。代わった三平のポジションにそのまま入った駒井は、すでにルーズになった山形の中盤まで下りてボールを受け、さばいては前線へ飛び出す動きを繰り返した。投入直後にはボールを預けた山瀬からのパスで横谷が決定的なシュートシーンも演出している。68分、山形は山崎に代えて投入した石井秀典をボランチに送り、ロメロ フランクを1列上げたが、直後にはセンターバックのイ ジュヨンが疲労から足をつり、そのまま退場。イと交代で入ったのはフォワードの萬代宏樹。石井が本来の持ち場であるセンターバックにそのまま下がり、ロメロ フランクは再びボランチに戻った。山形は77分までに3枚目のカードを立て続けに切ったが、奪ったあとに飛び出すパワーはすでに失われ、サポートを得られない前線ではラフに送られるボールをキープすることも困難になっていた。そして自陣でも、セカンドボールのほとんどが京都の選手にさらわれていた。
その押し込まれた時間帯、自陣でのクリアに手間取るなかで、途中出場の久保裕也にミドルシュートを決められ、87分、京都がついに同点に追いついた。山形は44分、カウンターから萬代が決定機を迎えたが、オ スンフンに抑えられると、4分と表示されたアディショナルタイムが3分を過ぎたあと、安藤淳が山形の裏のスペースへゆるいボールを送る。追いかける駒井よりも2、3歩ボールに近い位置にいた石井はタッチにクリアするよりもゴールキックを得てマイボールから始めるほうを選び、体で進路を塞いだが、小回りの利く駒井がゴールライン手前でボールをさらい、ゴール前に流し込んだ。待っていたのは「足止めずに、こぼれ球狙ってました」という工藤。パスは少々ズレていたが、駒井に引きつけられたゴール前はガラ空きで、修正できるだけのゆとりは十分にあった。京都逆転。終了の笛とともに、山形の選手がバタバタと倒れた。
「山形の選手がだんだん落ちてきたときにもうちの選手はわりと、平然としてとまでは言いませんけれども、そのなかでうまくやれてる感じはしますね」。大木武監督はフィジカルの差を勝因の一つに挙げたが、それを実現するのにもう一つ重要な要素を挙げた。「(失点)1点ぐらいでという部分で、凹まずにやり続けることができるかということがすごく重要だと思います。結果的には2点取れたんですから、それができたんじゃないか。内容を見ればいろいろあると思うんですけれども、勝ち方としては非常によかった」と今季初の3連勝を振り返った。
「相手のタフさという部分に押し切られたような形」。今季2度目の逆転負けをホームで喫した奥野僚右監督の指摘もまた同じだった。ロングボールから一気に押し上げる戦術は、現在の山形に得点機をもたらすもっとも効果的な方法だ。しかし、それ一辺倒でもうまくいかないことが、この試合の教訓となった。堀之内聖が振り返る。「自分たちの攻撃でゆっくりつなぐ時間帯もなかったので、それも含めて疲労につながったのかなというのもありますし、今後の課題として、自分たちが主体的にパスをつないで時間をうまく使うというサッカーも必要なのかなとは思います」。奥野監督は「全体としてもできることを突き詰めていかなければいけないですし、それは技術も体力も精神力もすべて、メンタルの部分も含めてチームがいい結果を残せるように取り組んでいきます」と決意を語った。
以上
2013.05.27 Reported by 佐藤円
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