サッカーとは、必ずしも内容が結果に結びつくものではない。納得のいくプレーをしても必ずしも勝つとは限らず、また、その逆もある。時として「これもサッカー」という言葉が聞かれるのは、そうしたサッカーの特質を物語っているものだ。そして、この日の福岡のサッカーは、まさに「これもサッカー」と言えるものだったかも知れない。

「今日の我々のパフォーマンスは最悪とも言えるもの」と試合を振り返ったのはマリヤン プシュニク監督。その言葉通り、この日の福岡は「らしさ」を全く見せることが出来なかった。守備を固めてカウンターを狙う岐阜に勝利するため、試合前にプシュニク監督が指示したのは、グラウンダーのパスを少ないタッチでつなぎ、シンプルにボールをつないでゴールを目指すというもの。だが、立ち上がりの福岡から躍動感は感じられない。時間の経過とともにボール支配率は上がっていったが、全く攻め手が見つけられない。「すべてを難しくしようとしすぎていた。トレーニングとは逆のことをやってしまった」と話すのはプシュニク監督。１トップ気味の城後寿の後ろに、坂田大輔、金森健志、石津大介と攻撃的な選手を並べる布陣も、岐阜の３バックに、ことごとく潰されていく。前半にあったゴールチャンスは、パク ゴンが、約30メートルの所から放ったロングシュートだけだった。

後半も、福岡はリズムを取り戻せない。70分には、森安洋文の退場で10人になった岐阜からPKを奪って先制したが、その３分後には、岐阜の分厚い攻撃の前に、あっさりとゴールを許して同点に追い付かれるなど、悪い流れは最後まで続いた。最終的には、86分にCKから西田剛が起死回生の決勝ゴールを奪って勝利を掴んだが、厳しい言い方をすれば、この２つのシーン以外に、見せ場らしい見せ場を作ることはできなかった。
それでも、２つのゴールシーンに目をやれば、PKは、石津の持ち味であるゴール前での積極的な仕掛けが生んだもの。決勝ゴールは、尾亦弘友希の正確なキックと、西田の特長である、体ごとゴールに飛び込んで行く姿勢から生まれたもの。それは「福岡の形」から奪ったゴールだった。一瞬の中に自分たちの特長を凝縮して手に入れた勝利であることも間違いない。

一方、岐阜にとっても「これもサッカー」と言える内容だった。「ゲームの入り方に関しても、そんなに悪くはなかった。相手チームの激しいプレーにも負けずによく戦ったと思う」と行徳浩二監督は試合を振り返ったが、90分間に渡って、やりたいサッカーを展開していたのは岐阜であったことは間違いない。それはゲームスタッツにも現れる。福岡との間に差はほとんどなく、CKの数は福岡の３本を６本も上回った。
相手ボールには素早く帰陣して５バックでゴール前を固め、福岡が足元でつなごうとすると、前からプレッシャーをかける。その守備は福岡を最後まで苦しめた。10人になってもチームのパフォーマンスは落ちず、最後まで数的不利で戦っていることを感じさせなかった。同点ゴールを挙げたシーンは、勇敢に前からプレッシャーをかけて、一次、二次と連続攻撃を仕掛けて福岡の守備網を崩した末に奪ったもの。２点目を奪われた後も諦めることなく、前へ、前へと仕掛ける姿勢を見せた。岐阜サイドに立てば、足りなかったものはゴールだけ。思惑通りに試合を進めていただけに悔やまれる敗戦だったが、「これもサッカー」と結果を飲みこむしかない。

両チームに共通することは、この日のゲームの価値は、次節の試合結果によって決まるということだろう。サッカーで何よりも優先されるのは結果。しかし、長いリーグ戦を勝ち抜くためにはコンスタントに結果を残すことが必要で、そのためにはサッカーの質と内容は不可欠だ。苦しい状況の中で得た勝点３を、どのようにして内容の向上につなげるか。それが福岡に求められていることだ。
そして岐阜にとって大事なことは、この日の試合を続けるということ。福岡に敗れて２連敗となったが、この日の内容は、決して下を向くようなものではなかった。思うように勝てない悔しさと、最下位という順位は、時として自分たちのサッカーに影響を与えるが、出来つつある自分たちの形を堅固なものにするためには継続することが必要不可欠。その中で、足りないものを身に付けて行くことが、現状を打開する近道だ。

以上

2013.05.27 Reported by 中倉一志