2010年2月24日、サンフレッチェ広島の「アジアデビュー」戦は、苦い味に終わった。シュートは16本放ち、決定機も量産した。しかし、ビッグチャンスを自らのミスで失い続け、最後はセットプレーでの失点。ACLの経験豊富な山東魯能(中国)のしたたかさに、広島は膝を屈した。この開幕戦での敗戦が大きく響き、広島はACL3連敗。後に3連勝と息を吹き返すが時は既に遅く、決勝トーナメント進出の夢は、初戦で既に砕かれていたのかもしれない。
思い返せば、あの時の広島はチームとしてまだ、幼かった。主力に怪我人が多く、コンディションも万全ではなかった。だが、戦術的に見ても技術的に見ても上回っていた相手に対し勝点1すら取れなかったことは、戦い方として稚拙。「アウェイではまず、負けないこと。守備にウエイトを置いた」という敵将(イバンコビッチ監督※当時)の言葉が記者会見場に響いた時、広島の担当記者たちは唇を強く噛み締めた。「狙い通りに事を運ばれ、狙い以上の成果を相手に与えてしまった」と。
だが、今の広島は違う、と思いたい。FUJI XEROX SUPER CUPではチームの成熟度の違いを見せつけて柏を圧倒。1−0というスコア以上の「現時点での」差を見せたこのチームが、3年前のような稚拙さを見せるとは考えにくい。
3年前、怪我のため出場できなかった青山敏弘は言う。
「相手がどんなサッカーを仕掛けてきても、僕らのやるべきことは変わらない」
広島の選手たちがいつも言う言葉ではあるが、その想いを実践することは難しい。対峙すれば、相手がやってくることが気になる。形や闘い方に気持ちを奪われ、やるべきことよりも、相手への対応に追われてしまいがちになる。
昨年の広島は、相手にどんな対策を講じられても「自分たちのサッカー」を貫いた。極端なマンマークでも、引かれても、前からプレスを仕掛けられても自分たちの戦い方を変えず、そして結果を出した。その現実が、広島というチームと個々の選手たちを一回り大きくさせた、と青山は言う。
「優勝して、自分たちは一回り大きくなれたと思う。相手が自分たちに合わせてくれば、逆にやりやすいって感じる。心の成長っていうか、精神的な強さは去年の戦いで培えたと思っています」
ブニョドコルのチーム情報は柴村直弥選手の手による最高のレポートがあるので、ぜひ参照して頂きたい。そのウズベキスタンの雄を率いるミルジャラル・カシモフ監督は、ウズベキスタン代表監督も兼務するほどの高い能力を持つ指揮官。昨年のACLグループリーグでは、G大阪にアウェイでは敗れたもののホームで見事に雪辱。開幕3戦で1勝2敗というネガティブな状況から決勝トーナメント進出を果たす強さを見せた。そこから城南一和やアデレードを破り、ベスト4進出を果たしたブニョドコルの粘り強さは、カシモフ監督の巧みなチーム運営が支えている。
彼らは先週から来日、広島県第2の都市である福山に逗留して調整を続けているわけで、FUJI XEROX SUPER CUPでの闘いぶりは映像でチェックしているはず。一方の広島は、昨年のACLにおける彼らの戦いぶりのビデオは入手できているものの、今季のチーム状態についての情報は希薄、情報戦では必然的にブニョドコルの方にメリットがある。十分に収集した広島の特徴に合わせた戦い方を構築し、ホームチームのストロング・ポイントを消すプレーを徹底させる。アウェイということもあり、指揮官がそんな「負けない闘い」を選択する可能性は十分にある。それがどういう方法なのか、情報は全くない。彼らが補強したという外国人選手の能力も含めて。
一方で、広島の選手たちにも前回大会のような緊張は見えない。情報が少ないからといって焦る様子もなく、ACLを特別視するような雰囲気も、相手をリスペクトしすぎることもない。昨年の優勝、さらにクラブ・ワールドカップでの闘いが、彼らに大きな自信と経験を植え付けている。
「ACLを制覇し、もう一度、世界の舞台に立つ」という千葉和彦の言葉も「Jリーグ王者の誇りを胸に、決勝トーナメント進出は絶対にやらねばならないこと」と語った森崎和幸の想いも、チーム全員の共通認識。そのためには、昨年のベスト4チームとはいえ、ホームで遅れをとるわけにはいかない。FUJI XEROX SUPER CUPから中3日と厳しい日程ではあるが、「その時点で戦えるベストメンバーを投入する」と森保一監督は明言。世界に向けての第一歩となる闘い、ぜひ熱い声援をお願いしたい。
以上
2013.02.26 Reported by 中野和也
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