大宮も湘南も、昨年から監督が続投し、主力も多く残ったことで、戦術的に大きな変化はない。互いに「今のチーム状況でどこまでできるか」をテーマに戦ったプレシーズンマッチは、8年連続でJ1に生き残っているチームが、昇格組に対し貫禄を見せて4−1で完勝した。
大宮はズラタン、菊地光将と攻守の重要なピースを欠いて臨んだが、菊池大介と遠藤航を欠いた湘南もそれは同じ。大宮は右サイドバックに今井智基、センターバックに高橋祥平の新戦力を起用し、湘南は前線に武富孝介、梶川諒太を先発させた。序盤、湘南がJ2で鳴らしたハイプレスで大宮を押し込み、ボールを奪うと素早く攻撃に切り替えてウイングバックとボランチ、シャドーの3枚でサイドを崩していく。ただ、「切り替え(の速さ)だけで崩そうと思っても難しかった」と曹貴裁監督が振り返ったように、J1の守備を相手に湘南はなかなかシュートまで持ち込めなかった。そして攻撃においても大宮が、J1のクオリティを見せる。10分、金澤慎の見事なサイドチェンジからトップのノヴァコヴィッチにボールが入る。湘南は2人がかりでつぶしに行き、大宮のチャンスはそこでついえるかに見えたが、ノヴァコヴィッチがしっかりキープし、混戦の中から長谷川悠を経由して最後は「FWに当ててそのスペースに入っていこうと思って出て行った」という青木拓矢が先制ゴールを決めた。
今までやられたことのない形での失点に、湘南は多少、動揺した。さらに22分、スローインから易々と長谷川にペナルティエリアをフリーで突破され、PKを献上。ノヴァコヴィッチが落ち着いて決め、2点差となったことで湘南に迷いが生じ始めたように見えた。プレスにアグレッシブさが消え、かといって引いて守りを固めて失点を避けるでもない。逆に大宮は今シーズン取り組んでいる、高い位置からボールを奪う守備も機能し始める。38分、前線からプレスをかけ、湘南の緩いバックパスに長谷川がキーパーにプレッシャーをかけると、キックは中央にフリーでいた金澤の足元へ。すかさず金澤が右前方のスペースへ展開し、追いついた渡邉大剛から大外を駆け上がった今井がクロスを上げ、中央で待つノヴァコヴィッチがヘディングでサイドネットに流し込んだ。さらに41分には青木から一発のロングボールでノヴァコヴィッチが抜け出し、湘南DFに後ろから倒され2本目のPK獲得。1本目とは逆に長谷川が決めて4点差とし、前半だけで試合はほぼ決まった。
大宮にとって後半はテストの意味合いが強くなった。金澤に代えてカルリーニョス、渡邉大剛に代えて鈴木規郎を投入し、チョ ヨンチョルが右サイドハーフに移った。湘南も島村毅に代えて鎌田翔雅を投入してスタート。ハーフタイムに指揮官から「これが現在の立ち位置だ。ここから何点取れるかやってみろ!」とハッパをかけられた湘南だが、序盤のようなアグレッシブなプレスに回帰したわけではない。「相手ボールになったときにエネルギーを持って仕掛けていく」(曹貴裁監督)のは変わらないが、やみくもに前へ出るのではなく、「裏を取られたりするのは今までにもなかったので、個人個人にしっかりと意識を払おうと」(永木亮太)したことで、大宮に前半のようにはボールを動かす自由を与えなかった。また大宮にとっては、風上になったことで、裏へのロングボールが使いにくくなった。
「雑になってしまった。距離感も良くなくてボールが回らなくなった。ダレてしまった部分もある」と青木拓矢が語るように、またベルデニック監督も認めるように、大宮の後半は「あまり良い出来ではなかった」。富山貴光、上田康太らも順次ピッチへ送り出されたが、後半から出場した選手たちのアピールしたい意識が強すぎたためか、チームとしてはバランスが崩れていった。65分過ぎからは中盤が空き始め、湘南にチャンスを作られる場面が出てきた。そして72分、途中出場の荒堀謙次が右サイドから放ったクロスが流れて大宮ゴールに吸い込まれ、湘南が1点を返す。そのまま試合は4−1で終了した。
終了後、湘南の選手たちは口々に、「パスが出るタイミングが全然違う。動き出し、動き直しも速かった」と、J1との真剣勝負で感じた差を語った。その差を公式戦に近い雰囲気の中で、肌で感じることこそが重要であり、その意味では試合の目的を十分に達したと言っていいだろう。ゆえに選手たちの口ぶりはあくまでもポジティブだった。特に、クロスボールがそのままゴールに飛び込んだ1点よりも、32分と43分に見せた、ショートカウンターから荒堀のクロスに逆サイドの高山が飛び込んで合わせた2度のチャンスが、いずれもゴールネットを揺らすことはなかったとはいえ、得意の形をねらい通りに出せたという点で大きな自信となったに違いない。「我々が目指すところを表現はできた。その結果に対して向き合いながら、今日出た課題を突き詰め、自分たちの良かったところをさらに伸ばして、挑戦者のつもりでシーズンを送っていきたい」と、曹貴裁監督も来るべき開幕を見据えた。
一方の大宮はこの試合の目的として、今シーズンの新しい取り組みの達成具合のチェックと戦力のテストに比重を置いており、こちらもその目的は達した。ただベルデニック監督は湘南とは対照的に、「結果に対して非常に満足しているが、内容に対してはそれほど満足していない」と、厳しい言葉で引き締めた。「今日のゲームで自分たちが犯したミスは、これがもっと強い相手や、ミスを突いてくるチームには通用しない」と。前半と後半の出来に差があったことで、菊地とズラタンのところを除けば、チームの形はこれでほぼ定まったように思える。開幕まであと2週間、2つの練習試合をこなしながら、さらに完成度を高めていく。
以上
2013.02.17 Reported by 芥川和久
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