試合後の会見で水戸の柱谷哲二監督は熊本について「今まで3勝しかしていないチームとは思えない」と評したが、実際にスタンドから見ていても、守備の明確さとスムースなコンビネーションを駆使した攻撃の展開は、18位という成績が嘘のようなクオリティの高さを感じさせた。何より、玉際でのボディコンタクトなどひとつひとつの局面に表現されていたアグレッシブな姿勢は(結果として水戸に20回以上のフリーキックを与えるファウルの多さとしても表れてしまったが)、今シーズンでも屈指だったと言える。ホーム2連勝を飾った熊本は暫定で17位に浮上、夏場の攻勢に弾みをつける勝点3を得た。
流れをつかむきっかけとなったのは、開始2分の先制点である。養父雄仁からの大きな展開を端緒に左サイドで相手のパスミスからボールを奪った片山奨典が原田拓へ預けると、ルックアップした原田は山なりのクロスを中央へ。これに合わせたのはFWとして3試合目の先発となった高橋祐太郎。キム ヨンギに競り勝って放ったヘディングシュートはGK本間幸司の手に触れたが、ポストギリギリのところでマウスに吸い込まれた。
その後も熊本の優勢は変わらない。守備に関しては前からのチェイスでコースを切りながら水戸の中盤にもしっかりとアプローチをかけ、切り替わった時に自由にさせないという狙いを実践。最終ラインは鈴木隆行ら水戸の前線を適宜受け渡しつつ、左右のウイングバックも献身的なアップダウンを繰り返してスペースを埋める。こうした熊本の対応に水戸は思うようにボールを動かせず、マイボールにしても前に運ぶ段階でミスを頻発。トップに入る場面も含めてタテにつけるボール自体が少なく、小澤司、島田祐輝の両サイドも効果的なサポートに入れない。
逆に熊本は原田と養父が水戸のプレスをはがして間で受けてはさばくという仕事を全うし、片山と藏川洋平がタイミングの良いスペースランニングでボールを引き出す。加えて、高木琢也監督も振り返っている通り、高橋、西森正明、武富孝介の前線の3人が非常にバランスよくポジションを取って連携を構築。サイドを起点にしながらも、前節の横浜FC戦、あるいはここまでのゲームで物足りなかったボックス内への侵入で厚みを出した。そうした連携と、プレビューで触れた「確率が高い方を選ぶ冷静さ」という養父の言葉が結実し、28分に追加点が生まれる。高橋からの縦パスを受けた西森は、「シュートもあったけど、タケ(武富)がいい動きをしてくれた」と、より可能性の高い武富へ落ち着いてワンタッチで流す。本間について「GKコーチからも『横を埋めるのが上手い』と聞いていた」という武富もまた冷静に、左足でループ気味の柔らかいシュート。前節のPK失敗を糧にして決めた今季6点目は、前の3人の距離感と受けるためのサポートの動きが連動した美しいコンビネーションから生まれたものだ。
後半に入るとしかし、一転して水戸のペースに。柱谷監督が左サイドバックの岡田祐樹に代えて岡本達也、さらにボランチの村田翔に代えて鈴木雄斗を送り出したことで、水戸は攻撃が活性化、前半よりも高い位置でボールが動くようになる。だが熊本も押し込まれたとは言えバイタルは閉じ、左右からのクロスやシュートに対してもしっかりとコースに入ってブロック。88分にFKから岡本に決められて1点返されたものの、4分のアディショナルタイムもしのぎきった。理想を言えばカウンターから追加点を奪って試合を決める勝負強さが欲しいところではあったが、高木監督も述べているように「ぎりぎりまで集中を切らさず耐えた」という点は評価に値する戦いぶりだった。
前節、北関東ダービーを制して乗り込んだ水戸だったが、「熊本の得意な形にまんまとはまった」(柱谷監督)。本来の持ち味である玉際の強さや攻守の切り替えで後手を踏み、前半のうちに2点のビハインドを負ったのが悔やまれるが、それでも後半の45分で流れを修正した点は、チーム力の向上を裏付ける。まだまだ昇格圏は手の届く所にあり、より安定感を増していくことが求められる。
一方の熊本は、後半の戦い方に課題を残したものの前節から攻守において改善を見せ、確実に結果を出したことが何よりの収穫。この日、試合に先立ってサポーターに挨拶した北嶋秀朗は、昇格を実現するには「勝つことに慣れる」ことが必要だと、加入会見の席で話した。この日できたことを継続しながら少しずつ修正を加え、残りの24試合を実りあるものにしていきたい。
以上
2012.06.08 Reported by 井芹貴志
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