三ツ沢を愛するサッカーファンであれば誰もが心にその印象をとどめているであろうフットボーラーは、長い日本のサッカー史で何人もいるだろう。その中でも、山口素弘はその代表格と言って過言ではない。その山口が、横浜FCの監督として戻ってきた。「三ツ沢が似合う男、山口素弘」が、この甲府戦で監督としての初陣を飾る。

横浜FCは、開幕3試合で1分2敗と低迷し、岸野靖之前監督を解任。田口貴寛ヘッドコーチの指揮のもと、極限の状況で臨んだ前節東京V戦では、再生の第一歩として3ラインを揃え、ブロックを作る守備組織で東京Vの攻撃を完封。得点はできなかったものの、後半には決定機も数度作り、守備と攻撃のリズムの基礎を再確認することができた。しかし、これはあくまでも緊急避難的な試合であり、山口素弘監督が練習で指揮を執るようになって3日間の練習で、少しでも上積みと山口監督のカラーを出していきながら甲府戦に臨むこととなる。その山口カラーがチーム向上の出発点となることを確認できるかどうかがポイントとなる。

練習が3日間と短いこともあり、キャンプから積み上げてきた基礎、そして前節に得た自信をベースに戦っていくこととなるだろう。その上で、どのポイントに山口カラーを加えていくか。山口監督は就任記者会見で、「今のサッカーは守りきって勝点を奪える感じではない。今のJ2はしっかりしたチームが多いので、そういった点では相手より点を取って勝つということ」と述べている。対戦する甲府は、間違いなくしっかりしたチームの代表格であるが、そのチームに対して相手より点を取って勝つ、つまり攻撃に色を付けていくことを目指していくと思われる。山口監督の始動日の2部練習では、様々な状況を想定したメニューが取り入れ、前日には横浜FCでは5年ぶりとなる非公開練習で細部を詰めた。前節の後半で打開の糸口を得た攻撃陣が、山口監督の指導でさらに躍動感を加えられるか。カイオ、大久保哲哉とポストプレイ、キープ力、そしてゴールをする力を持ったFWも控えている。4試合で挙げたゴールは開幕戦の1点だけであり、この試合でゴールして勝つことが、山口監督就任の意味を表現する最良の方法となる。前節の引き分けで満足してはいけない。あくまでも目標は試合に勝ち続け、J1へ昇格すること。その第一歩として、山口監督が「いろいろな思いが詰まっている」と表現しているニッパツ三ツ沢球技場に集う思いを持ったサポーターに初勝利と上昇への確信をプレゼントしたい。

そのニッパツ三ツ沢球技場に乗り込むこととなる甲府は、間違いなく昇格候補の本命の1つ。前節の山形こそ、FKでのファインゴールの前に勝点を逃したが、開幕から3連勝を果たしており、内容も安定している。甲府の強みは、ダヴィと高崎の強力な2トップと攻守に渡るチーム全体での連動性だ。ダヴィは現在得点ランキングトップとなる5得点を開幕3試合だけでたたき出しており、その決定力は脅威。さらに、ダヴィ、高崎の2人とも恵まれた体格を生かしたポストプレーは大きな武器となっている。そして、連動性の点では、ボールが中盤やサイドに入ったときのプレッシングのやりかたが徹底されており、その後の攻撃に転じるまでが非常にスムーズだ。城福浩監督を迎え、まさに「J1仕様」のサッカーを表現している。前節負傷で途中退場したドウグラスの出場は微妙だが、山形戦でも代わりに入った選手が遜色のないプレーを見せており、ドウグラスが欠場したとしてもサッカーの質は大きくは変わらないだろう。城福監督は、前節の試合後記者会見で「勝点0は受け入れがたい試合」と、結果が残せなかったことに対する悔しさを相当にじませている。

その甲府に横浜FCはどう立ち向かえばいいのか。前節の山形は、守備には最大限気を使いつつも、特に後半は甲府のストロングポイントを恐れることなく積極的に戦った。攻守に渡ってチームが連動しているということは、その連動の裏には必ず穴ができる。その見極めをチームで行っていくことが重要になる。現役時代、いつでもチームの頭脳だった山口監督が、ゲーム中、そしてハーフタイムの指示でどのように戦い方に変化をつけられるかにも注目したい。甲府としては、その見極めをされる前にリードをしてしまい、横浜FCに付け入る隙を与えないようにすることが大事となる。新監督の初試合だけに、過去の実績などから展開を予想するのは難しい。それだけに、両監督の試合中での動き方が、結果を左右するだろう。

3連戦の最終戦ということで、普通であれば運動量が落ちてロースコアのゲームになることが多いが、この試合については必ずしもそう言い切れない。フレッシュな気持ちでホーム三ツ沢で今季初勝利を挙げることに全身を傾ける横浜FCと、前節連勝が途切れた悔しさをぶつけてくる甲府のどちらも、この試合に200%の意欲を注いでくるだろう。局面での攻防と勝点3への執念がぶつかり合う90分になることは間違いない。山口サッカーが出現し、城福サッカーと火花を散らせるニッパツ三ツ沢球技場に、是非足を運んで頂きたい。

以上

2012.03.24 Reported by 松尾真一郎