土砂降りのブリスベンスタジアムの一角が青赤に染まっていた。その数は約300。遙か7000kmを旅してきたサポーターに、ブリスベン在住の日本人。その声はスタジアム中に響き渡った。まさかこれほどのサポーターが来ると思っていなかったブリスベンの観客は試合前から驚き、サポーターにカメラを向けた。放送局のレポーターもサポーターの中に入り、取材を行なっていた。

その光景はＦ東京の選手も同様だったらしく、権田は「本当にビックリしました。まさかあんなにたくさんの応援があるとは思わなかった」と語り、ACL初参戦のクラブを文字通り支えた。試合は序盤からＦ東京ペース。地元のブックメーカーのオッズでも、「ブリスベンの勝ち：1.6倍」「FC東京の勝ち：5.5倍」「引き分け：3.75倍」と、圧倒的にオーストラリア王者の勝利を予想していたブリスベンのサポーターたちは、今度はＦ東京のサッカーに驚くことになった。

ブリスベンの選手たちが試合の序盤、緊張していたのに比べ、Ｆ東京の選手たちは立ち上がりから普段通りのサッカーを見せた。石川が「ウチのホームに近い雰囲気を作ってくれた」、そして森重が「すごいサポーターがいて嬉しかったですし、モチベーションも上がりました」と語るように、サポーターの存在が、いい試合の入り方を生んだのかもしれない。試合は果敢にボールへアプローチするＦ東京が圧倒、前半終了間際には谷澤がゴール。ブリスベンの夜空に「東京ブギウギ」が流れると、まるで味の素スタジアムにいるかのように錯覚する。

後半も10分に長谷川のゴールで2-0としたＦ東京。アディショナルタイムに「眠らない街」が歌われると、そのまま試合終了。ACL初勝利、そしてポポビッチ監督の初勝利を飾った。恒例の「シャー」は谷澤、長谷川とゴールを決めた2人と、ポポビッチ監督。監督は少しアンダースロー気味のシャーでサポーターと勝利を祝った。「長い時間移動して足を運んでくれたサポーターの皆さんに楽しんでいただけたと思う。熱い応援を受けてそれをプレーでお返しできた」と笑顔だった。

その後、ACL勝利を祝ってサポーターみんなで記念撮影を実施。高々と「東京」のゲーフラを掲げ、最高の笑顔をしたサポーターがファインダーの先にあった。その夜、ブリスベン中心街はＦ東京のサポーターたちが食事やビールを求めてうろうろ。恐らく、アウェイのグルメを食べつくす「イナゴ」と呼ばれる食欲を存分に発揮したに違いない。

そして翌日の朝、「これでブリスベンも終了」とつぶやき、ホテルをチェックアウトする私の前で、コインランドリーの場所をホテルの人に聞くＦ東京サポーターの女性が2人。その手にはたくさんの横断幕が入ったビニール袋があった。「昨日の雨でずぶ濡れです。部屋で広げて乾かせるものは乾かしたんですが、なんせ数が多くて（笑）」。ブリスベンでのＦ東京サポーターの戦いはまだ続いていたのだった…。


Reported by 小野寺俊明（ナノ・アソシエーション）