12月14日(水) TOYOTAプレゼンツ FIFAクラブワールドカップ ジャパン 2011
柏 1 - 3 サントス (19:30/豊田ス/29,173人)
得点者:19'ネイマール(サントス)、24'ボルジェス(サントス)、54'酒井宏樹 (柏)、63'ダニーロ(サントス)
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敗戦という結果は確かに残念なのだが、敗戦の脱力感と同時に充実感に近い感覚をも抱いた試合など経験したことはなかった。スタンドからピッチ上の選手を眺めながら、今までにない不思議な感覚に捉われていた。
ムリシー ラマーリョ監督の持つネルシーニョ監督への警戒心か、それともリスペクトの念かは定かではない。ただ、サントスは予想に反して序盤から“威嚇”の攻勢を仕掛けず、思いのほか慎重に試合を進めてきた。「良い入りができた。モンテレイとやっていたことで、イメージがしやすかった」(大谷秀和)。5分に近藤直也のクリアミスがポストを叩き、ヒヤリとした場面こそあれ、それ以降はピッチ全体をワイドに使う柏らしいボール回しが見られる。8分にジョルジ ワグネル、11分にレアンドロ ドミンゲスがシュートを放った。スタンドから見ていて「ある程度やれている」という印象を持った矢先。19分、それまで左サイドに開いていたネイマールが中央のスペースに入り、ガンソから縦パスを受ける。大谷のスライディングを軽快なステップでかわした後、全くボディバランスが崩れることなく、瞬時に放った左足シュートが鮮やかな放物線を描いてゴールへと吸い込まれていった。続く24分にもボルジェスがバイタルエリアで仕掛ける。増嶋竜也、近藤とマークがうまく引き渡されたようにも見えたが、ボルジェスはわずかな間合いの隙を突いて高精度のシュートを突き刺す。
「シュートまでの速さなど、Jリーグにはいないレベルだった」(近藤)。この言葉にも象徴される通り、この2つの失点シーンをはじめ、サントスの選手らが繰り出す局面での光る個の能力は、おそらく柏の選手にこれまで味わったことのない衝撃を与えたことだろう。例えば、中盤の低い位置まで降りてボールを捌くガンソは、大谷や栗澤僚一がファウル覚悟で激しく体をぶつけても、頑強なる体幹の強さと懐の深いキープ力でボールに触らせもせず、いとも簡単にパスを供給していく。ネイマールの曲芸のような足技には、2、3人が瞬時に囲い込んでもいなされる場面すら見受けられた。
前半から好プレーで右サイドから良い攻撃を繰り出していた酒井宏樹は、後半に入るとさらにその勢いが増した。かつては自信のなさゆえ、ポテンシャルは高くても試合で実力を発揮し切れなかったこの若者は、南米王者相手に自分のプレーが通用する確信をつかんだのだろうか、サントスの左サイドバックのドゥルバルとのマッチアップを制し、グイグイとダイナミックなプレーで右サイドを席巻していた。敵将をして「ドゥルバルは少し問題があった」と言わしめるほど、酒井の突破は際立ち、54分には高い身体能力を生かした打点の高いヘッドで反撃の狼煙を上げた。この活躍に、試合終了後の記者会見の場にてブラジルメディアから「サカイ」の言葉が頻発して飛び交ったほどである。
反撃ムードも束の間、63分、サントスが得たゴール正面のフリーキック。ダニーロの蹴ったボールは、壁の外から柏のゴール右下隅を捉えた。おそらくボール1つ分のコース。1ミリでもキックするポイントがずれていれば、絶対に入らないとまで断言できる繊細なキックのシュートである。これも個の能力が光った1点だった。
リードしたサントスは無理をする必要はない。決勝戦に向けて体力を温存しておきたいという気持ちが生じても不思議はないだろう。したがって後半は主に守備的に試合を進め、ネイマール、ボルジェス、エラーノが虎視眈々とカウンターを狙う。ただ、それを差し引いても柏の組織力はサントスと対等に渡り合った。「我々はチームとして整っている。リズムも悪くなかった。サントスの前線を抑え、カウンターを阻止できた」とネルシーニョ監督が評したように、柏は守備のバランスを崩さず、サントスの縦へのボールを消し、激しい球際の競り合いからボールを奪っては、ジョルジ ワグネル、レアンドロ ドミンゲス、酒井を中心に攻撃を仕掛ける。68分にはレアンドロ ドミンゲスの浮き球スルーパスから北嶋秀朗がゴールを狙うもシュートは枠を大きく逸れ、75分にはスルーパスに抜け出した澤昌克のシュートは左ポスト直撃。82分にもレアンドロ ドミンゲスの低いクロスに対し、ファーサイドへ澤がフリーで飛び込んだが、この絶好機も逸してしまう。ポゼッションは柏が上回り、柏の14本に対し、サントスは8本とシュートも数多く放った。
「我々はフィニッシュの能力が高かった。サッカーとはこういうこと。能力の差が結果の差になる」(ラマーリョ監督)。この言葉が全てであろう。多くのチャンスを作りながら決め切れなかった柏と、少ないチャンスでも高い決定力を発揮して確実に得点にしたサントス、それが1−3という結果となって表れたのである。
「僕らのサッカーはできた」。試合後、北嶋はそう話している。柏の組織力をもってすれば、サントスという南米王者を向こうに回しても十分渡り合えることを証明してみせた。しかし、それでも勝てなかったのはやはり個々の能力に差があったからだ。「無理だとか、かなわないとか、そういう差ではなかった」と北嶋は続ける。間違いなく世界との差はある。だが手の届かないところではない。それを知らしめたサントス戦の敗戦は、強豪クラブへの変貌を目指す柏にとって、進むべき道を見出してくれたクラブ史上に残る一戦だった。
以上
2011.12.15 Reported by 鈴木潤
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