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【J1:第33節 甲府 vs 新潟】レポート:大量得点は叶わなかったが新潟に連勝した甲府。浦和との得失点差14が残留に向けて極めて厳しい数字だということは分かっている。しかし、心では分かっていないから次に進むことができる。(11.11.28)

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11月27日(日) 2011 J1リーグ戦 第33節
甲府 3 - 0 新潟 (13:03/中銀スタ/13,361人)
得点者:37' 片桐淳至(甲府)、66' 養父雄仁(甲府)、82' 柏好文(甲府)
スカパー!再放送 Ch181 11/30(水)後04:00〜
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大抵の人は分かっていた。だが、ゴール裏のサポーターが「わかっているが」、「わかるわけにはいかん」と2枚の横断幕を掲げていた。最初は後者のバナーしか見えなかったので何のことか分からなかったが、前者を見て分かった。でも、試合後に片桐淳至と話をして分かっているようで分かっていなかったことがあることが分かった。サポーターもファンも記者も奇跡でも起こらない限りJ1残留が不可能だということは頭で分かっていた。でも、頭では分かっていても、心では分かっていないのが選手なのかもしれない。

試合開始前、山梨中銀スタジアム周辺は予想以上に人が多かった。土曜日に浦和が勝ち、甲府のJ1残留が絶望的になったことで観戦を止める人が多くいるかもしれないと思っていたがそうではなかったし、新潟サポーターもアウェイ・ゴール裏を全部埋めてくれた。ホーム浦和戦が国立開催だったので、今季の山梨中銀スタジアムでは新潟が一番の動員力を持つチームとなった。応援も迫力があってスタジアムを盛り上げてくれた。で、来年も新潟と同じリーグでやりたい…と少しさみしい気分にもなった。甲府はモチベーションの作り方が新潟以上に難しくなると思っていたが、予想に反して溌剌とプレーしているように見えた。「残留の可能性がほぼなくなり、肩の力を抜いてプレーができるようになった」と理解していたが、実際はそうではなかった。それが分かったのは37分の片桐淳至の先制ゴール。決めた直後はガッツポーズをしてから自陣に戻りかけたが、新潟にキックオフを急がせるためにボールを取りに行った。つまり、何点でも取るという意思表示。そこには片桐だけでなく井澤惇もいた。「点が入ればボールを取りに行こうと最初から思っていたけど、思い通りのゴールだったので嬉しくて一瞬頭が真っ白になって忘れていた」と片桐。それでも記者席では17点の得失点差が16点になっただけとシニカルに見ていた。浦和が福岡に引き分け以下だったなら甲府がピンチになると心の中で「ウアッ、ヤバイ。スライディングで止めろ」なんて叫びながら見ていたはずなのに、ピンチになっても冷静に見ていた。

後半になると新潟はジンクスなのか先発では結果がなかなか出ないFW・川又堅碁に代えてアンデルソンを投入。これが効いて新潟は前半とは違うチームになるが、次のゴールを決めたのも甲府だった。新潟にはこのゴールが痛かった。66分、山本英臣のミドルシュートに養父雄仁がちょこっと足を出してコースを変えてゴール・イン。82分にはパウリーニョがヒールで柏好文のスピードを活かすパスを出して柏がゴール。ハーフナーマイク不在でも、今季ノーゴールだった片桐、養父、柏の3人がゴールを決める素晴らしい3得点。片桐と柏はJ1初ゴールでもあった。そして、苦手オレンジの新潟に今季は2連勝。しかし、隣に座っていた新潟担当のスポーツ新聞の記者が「昨日浦和が負けていたら(残留争いが)面白かったのにねぇ」と、さらに隣の新潟担当の記者に話しかけたのが聞こえてきた。養父のゴールが決まった時点で「6〜7点取れれば…」と期待していたので、この言葉は結構効いた。(そうだよねぇ)。残り時間が10分を切っていたから完全に現実に引き戻された。そして、新潟のゴールも甲府の追加点もなく、得失点差は14…のまま。

新潟から6〜7点取れていれば話は違うが、やっぱり無理だ。こう思って片桐のTV用のコメント取材を横で聞いていた。「子供じみたことを言っているのかも知れないが、最終節(対大宮)で(浦和が柏に大量失点で負ける可能性もあるので)10点取れればいい。プロの世界で得失点差14という数字をひっくり返されるという可能性は1%以下。でもみんなで立ち向かっていきたい」という趣旨の話をしていた。カメラがなく本音が出やすいペン記者の囲み取材では、「降格が決まったわけじゃないから誰も諦めていなかった。ロッカーでは『来週は10点取ろう』って声も出ていた。J1に昇格した年にJ2降格が決まるのはつらい。もっとこの場所にいたい。90分間の中で後悔しようと思う」と話した。「90分の中で後悔」の意味が分らず聞くと、「(残留の)可能性を言えば0.01%だと思うよ。でも、俺は地域リーグからJ1に這い上がってきた選手。ずっとJ1でプレーしてきた選手がどうかは知らないけれど、這い上がってきた選手は(残留の可能性がゼロに近くても)自分たちやチームにとって少しでもプラスになることがあればそれをやって後悔できる。大宮との最終戦を勝って後悔して納得したい」と話した。勝点差や得失点差14という数字を33試合のツケと考えるとシーズンを通じた問題点や反省になって、この新潟戦も最後の大宮戦も「勝っても(残留できる可能性がゼロに近いから)意味がない」という記者的な視点にしかならない、ということだけは分かった。

選手バスの出発時間が迫っていたので、その場では分かったフリをして後でノートを見返して汚い走り書きの文字を何度も読み返してカボチャ頭で考えた。片桐は――1試合・90分間で得失点差14をひっくり返すことを目指した戦いをし、できなければこれを1試合のことと捉えて、悔やんで納得したい――という意味で言っていると理解した。J2降格が確定しているのならこの考え方は当てはまらないが、甲府には僅かでも可能性がある。地域リーグからJ1に這い上がってきた選手としてJ1の試合を価値のある戦いとし、1試合でも無意味なものにしたくないという思いが詰まっている考え方なんだと思う。「プロだから」、「サポーターのために」という聞こえはいいが、聞き慣れた言葉を安易に選ばなかった。片桐のモノの考え方には、18歳(02年)で「高校サッカー選手権得点王」という勲章を胸につけて名古屋に加入したものの、20歳前後の重要な時期を有意義に過ごすことができなかった後悔が根底にあって、転落するように移籍した地域リーグから再びJ1に這い上がってきた自負がそれを後悔で終わらせていない。

少し肌寒いものの晩秋の晴れ渡った1日は気持ちいいはず。しかし、今にも冷たい雨が降ってきそうな曇り空を見ているような気分で過ごしてきたが、試合後はそんな1日の続きではなくなっていた。時間が経てば経つほどJ1残留の可能性があることが幸せに思えてきた。神様に祈ることには害はないが、祈れば願いが叶うとは限らない。でも、残された僅かな可能性を価値あるものにするか、無価値だと投げ捨てるかは人間が決めることができる。最終節・アウェイ大宮戦。頭では分かっているが、心でそれを拒否する。もう1試合「分からず屋」で戦おう。

以上

2011.11.28 Reported by 松尾潤
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