期待のストライカーがようやく火を吹いた。今年、岐阜に加入した若きストライカー朴基棟が、10月23日のアウェイ・岡山戦で待望のプロ初ゴールを叩き込んだ。
韓国の名門・スンシル大学からやってきた彼は、大きな期待を受けていた。彼の出身校であるスンシル大学は、古くからサッカーの強豪と知られ、韓国大学サッカー界で大きな存在感を放っていた。
その名門校で昨年、彼はエースストライカーとして注目を浴びていた。191cm、83kgという恵まれたフィジカルを生かし、前線での制空権を握ると、抜群の俊敏性を持ち合わせ、ゴール前で鋭い反転とドリブル突破で、強引にゴールをこじ開けることが出来る選手だ。特にゴール前で浮き球に対するトラップ&ボールコントロールがうまく、ゴール前へのロビングやクロスに対し、彼はヘッドで直接狙うことはもちろん、うまくDFに対し身体を当て、巧みにコントロールしては、シュートとパスを選択できる状況を作り出し、よりゴールへの可能性を高めることが出来る。
こうした能力を買われ、昨年、韓国大学選抜に選ばれ、エースナンバー10を背負った。昨年3月のデンソーカップでは、全日本大学選抜の前に大きく立ちはだかった。開始早々の2分にヘッドで先制点を叩き込むと、後半開始早々には決勝弾を右足で叩き込み、試合を決定付けた。彼の活躍で全韓国大学選抜が3-1で勝利し、彼は最優秀選手賞に選ばれた。この勢いを借りて、彼の活躍でその後の韓国大学選手権も制覇し、たちまち彼は韓国大学サッカー界の最注目プレーヤーになった。
そんな彼が進路に選んだのは、J2の岐阜であった。正直、彼が加入すると聞いて、筆者は驚いた。韓国のドラフトに掛かると思っていたし、まさか岐阜にやってくるとは思わなかった。岐阜では片桐淳至が昨季途中に甲府に移籍し、空き番号となっていたエースナンバー10を任され、まさに鳴り物入りで岐阜に加入した。
しかし、まさか初ゴールがJリーグも佳境に入った第31節に訪れるとは、本人も思ってもみなかっただろう。彼は慣れない地で大いに苦しんだ。彼を苦しめたのは、足首の怪我だった。加入間もない3月に怪我をすると、それが長引き、開幕以降も別メニュー調整を余儀なくされた。
「怪我があって、思い通りに行かない日々が続きました。僕は外国人助っ人なので、結果を残さないといけないのに」。
ルーキーイヤーにして、彼の中には早くも焦りが生じた。『自分は外国人』という自覚が、逆に彼を苦しめ、思うように行かないリハビリの日々を、より苦しいものにした一因となってしまった。
リハビリが長引き、焦りもあって、なかなか100%のコンディションを取り戻すことが出来ず、出番を与えられても結果を出せない悪循環に陥っていた。4月25日の第8節の千葉戦でベンチ入りした以降は、再び負傷し、戦列を離れることとなってしまった。
2度目の離脱で、彼の中に変化が生まれた。まずは焦らず、100%の自分を取り戻そうと考えられるようになった。そこから彼は、いつかトンネルから抜け出すことが出来るときを信じて、焦る気持ちを抑えて、100%のコンディションになることを目標に、岐阜での日々を過ごした。焦っていても始まらない。岐阜で過ごした8ヶ月という日々が、彼に精神的な成長を生み出していた。
そして、そのときはやってきた。第30節の愛媛戦で、7試合ぶりにベンチ入り。そして岡山戦の76分にMF西川優大に代わって投入されると、1-2で迎えた89分、MF永芳卓磨の放物線を描いたクロスが、ファーサイドで待ち受けた朴の下へ。浮き球のボールは、彼の胸に吸い込まれ、巧みなトラップから、豪快に右足を強振。ゴールラインで構えていたDFに当たるも、彼の気迫がボールに乗り移り、勢いが殺されること無く、ゴールに突き刺さった。
「僕は背が高いので、どうしてもヘッド、ヘッドと思われてしまう。確かにヘッドも大事だけど、僕は技術を追求したい」と語る彼は『得意の形』で初ゴールを刻んだ。
ようやく訪れた待ちに待った瞬間。彼はその場でひざまずき、何度も喜びをかみ締めた。我慢に我慢を重ね、ようやくサポーターに正式な『挨拶』をすることが出来た。彼は岡山の地で大きな一歩を踏み出した。
「最初のミスで精神的に苦しいと思ったけど、何とか点を取りたいという気持ちがあった。大事なのはチームの勝利。次は自分の点がチームの勝利に繋がるようにしたい。チームが勝つための点を取りたいです」。
もう迷わない。期待に応えるのはこれからだ。
ようやく吠えたコリアンウルフの本領発揮はこれからだ。
以上
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