５月９日のＪ２リーグ戦第12節福岡戦。１−１の状況下の89分、ネットに代わって林丈統がフクアリ（フクダ電子アリーナ）のピッチに立つと、千葉サポーターの大きな歓声が聞こえた。それにはゴールへの期待はもちろん、４年を経て千葉に、フクアリに帰ってきた林を改めて歓迎し、応援する思いがこもっていたのではないだろうか。そんな光景を、そして千葉のユニホーム姿でプレーする林を、筆者もまた感慨深い思いで見ていた。

林が全国高校サッカー選手権大会得点王の肩書きを引っさげて千葉（当時は市原）に加入したのは99年。持ち前のスピードを生かした俊敏な突破やトリッキーなボールコントロール、思い切りのよいシュートが魅力の林だが、スタミナや好不調の波のコントロールに課題があり、目標のスタメン定着はなかなか達成できずにいた。それでも短い時間でもゴールを奪うスーパーサブとしての活躍、観客を魅了するプレースタイルもあって林は千葉サポーターに愛され、交代出場する際はいつも期待に満ちた大きな声援が送られた。
2003年から2006年６月まで千葉を率いた名将イビチャ・オシム元監督も林の才能を高く評価し、試合後の記者会見で次のように話したことがある。
「林はボエーム（フランス語で、この場合は「他の人とはとても違ったことをやって、すごく興味を持たせようとする者」の意）だ。林は長い間、自分が持っている才能だけでやってきたような気がする。彼は市原だけでなく日本のサッカー界の中でも、とても才能を持った選手だと思う。もっと才能を利用していくべきだ。ただ真面目に戦い続けている選手もいるわけだが、彼は自分のサッカー人生をちょっと楽しみすぎているような気がする」
そのイビチャ・オシム元監督の言葉を、当時の林はとても謙虚に受け止めていた。
「世界で実績を残してきた監督に誉められて、素直にうれしかった。でも、自分ではそんなふうに思っていないし、自分と似たタイプの選手にまだまだ負けている。うれしい半面、なんでそこまで誉めるのかなと思う。変におごるのではなく、監督にそう言い続けてもらえるように、そして誰からもそう言われるように、もっと努力していい選手になりたい」

しかし、努力を重ねてもスーパーサブという立場は変わらなかった。そのため、林は環境を変えて挑戦すべく千葉を出ることを決断。移籍する際、ファンやサポーターへの感謝の思い、決意の胸の内を綴った直筆のメッセージを千葉のオフィシャルサイトに掲載し、クラブハウスのホワイトボードに「みんな　ありがとう」と書いたのは、日頃から周囲の人を大切に思う林らしかった。自分の気持ちに正直なため気分屋のところがある林だが、情に厚く、チームメートの言動が常識を欠くと「それはおかしいやろ」と直接指摘するなど男気のある性格だ。移籍後の2006年３月、筆者がお世話になっている『週刊サッカーダイジェスト』の京都担当記者がインタビュー取材した時、林が「赤沼さんによろしく言っておいてください」と伝言してくれたことは、記者冥利につきる思いで本当にうれしかった。

「今度は自分が千葉に恩返しをする番。点を取ること、勝ちにつながるプレーをしなくちゃいけない。２桁得点を目指したいし、千葉には５年ぶりの復帰なので自分のプレーを知らない人もいるだろうから、心に残るようなインパクトのあるプレーがしたい」
今年の１月、そう語った林だが、キャンプ前の負傷箇所が治ると体調不良に見舞われた。自分と同じ復帰組の茶野隆行、佐藤勇人、村井慎二がフクアリのピッチに立つ一方で、詳細は控えるが運動が悪化を招きかねない症状のためジョギングをするのが精一杯の苦しい時期もあった。全体練習をしているチームメイトを横目に１人先に帰っていく林の後ろ姿はとても寂しい感じで、声をかけるのもはばかられるほどだった。
ようやく今季初出場を果たした福岡戦の試合後、決定的な場面のシュートを外したことを反省していた林は、「けがや体調不良もあって出遅れたので、今日が僕にとってはやっとシーズンスタートという感じ」と話した。苦しい日々を乗り越えた林が、彼らしいインパクトのあるプレー、そしてゴールで千葉を勝利に導く日が待ち遠しい。

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2010.05.11 Reported by 赤沼圭子