「中倉さん、ほらあれ」。福岡空港のラウンジでバッタリ会ったサポーターの指さす方向に目をやると、そこは飛行機の運航状況を示すボードが。そして「1時間20分遅れ」と映し出された文字が目に飛び込んできた。次の瞬間に頭に浮かんだのは2004年12月12日の出来事。あの時も搭乗を予定していた飛行機が機材故障のために大幅に遅れ、出発カウンターで「これでは間に合わない、何とかしろ」と大騒ぎをして、結局、他社便への乗り換えを手配してもらったのを思い出す。
あれから6年。さすがに年月は人を大人にするもので(汗)、今回は極めて冷静に窓口と交渉。急遽、成田行きの飛行機に変更してもらい、成田空港から京成線、東武野田線を乗り継いで柏にやってきた。陸路も大幅にダイヤが乱れていると聞いていたので、成田空港からの移動が心配だったが、混乱の残るJR線をよそに、京成線と東武野田線は完全復旧。意外とスムーズに日立柏サッカー場までやってきた。
6年前のあの日と同じように、日立柏サッカー場のホーム側ゴール裏は真黄色。圧倒的なアウェイ感を感じながら記者席に座る。あの日、そんな空気などお構いなしに記者席で完全にサポーターモードになってメインスタンドの柏サポーターから白い目で見られ、J's GOAL編集部のスタッフからは「ちゃんと福岡に帰れたんだろうか」と心配されてしまったが(汗)、今日は冷静にと自分に言い聞かせる。あれから6年、私は大人になったのだ。
アウェイ側ゴール裏も、あの日と同じようにネイビーブルーに染まる。けれど、切羽詰まった表情はどこにも見られない。むしろ笑顔を浮かべるサポーターが多い。あるサポーターは話す。「こんなに楽しい気分で柏に来られるとは思ってもいなかった」。難しいと思われた開幕から続くJ1昇格有力候補との戦いで2連勝という結果を残していることはもちろん、チームが変わろうとする姿勢を、その戦いの中で感じ取っているからだろう。完全アウェイは大歓迎。この空気の中で戦えることを楽しみながら、あの日とは違った結果を手に入れる。誰もがそう思っている。
さて、いざ試合が始まってみると、柏のプレッシャーは想像以上。ある程度はボールを持たせてくれるのだが、ここぞというところでは決して譲ってはくれない。チーム全体で覆いかぶさるようにプレッシャーをかけてくる柏の圧力は記者席にまで伝わってくる。
しかし、福岡もひるまない。球際で互角に渡り合い、個の力で押し切られそうなところは組織で守り、ゴール前では体を張る。そして、スピードあふれるショートカウンターを仕掛けてゴールに迫る。どちらに転んでもおかしくない試合。息をつく暇もないまま試合は続く。
試合を分けたのは81分のたったひとつのプレー。福岡は敗れた。結果だけを見れば、あの日と同じ。けれど、変化を遂げようとする強い意思。それをピッチで表現してサポーターに伝えようとする思い。自分たちの「攻撃的な守備」は見せることはできなかったが、それでも、今シーズンのテーマである「アグレッシブでスピーディなサッカー」は90分間に渡って表現できた。それは確実にサポーターに届いた。「よし、次だ、次」。敗戦にも拘わらず、次の試合に向かってポジティブな気持ちになれたのは、随分と久しぶりのことだ。
結果がどう転ぼうと、この日の試合内容で福岡の立ち位置が決まると思っていた。そして、この日の内容と、試合後に監督・選手が口にした言葉は、福岡が新たな歴史に向かって歩き始めていることを示すには十分だった。
けれど、サッカーの神様は疑い深い。これからも、ありとあらゆる手を使って福岡を試すだろう。簡単に乗り越えられるものもあれば、力足りずに立ち止まらなければいけないこともあるだろう。それでも、福岡は前に向かって歩き続ける。そして、そんなチームとともにサポーターは最後まで戦ってくれる。そんな思いを胸に抱く。その思いは6年前とは全く違うものだった。
注)
2004年12月12日は、日立柏サッカー場でJ1・J2入れ替え戦第2戦が行われた日。第1戦で柏に0−2で敗れた福岡は、アウェイで勝利することでJ1昇格を目指したが、結果は0−2の完敗。福岡はJ1昇格を果たせず、柏がJ1残留を決めた。
以上
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2010.03.23 Reported by 中倉一志
J’s GOALニュース
一覧へ【J2日記】福岡:変化の予感(10.03.23)
(C)中倉一志
思いの丈を乗せてチームに声援を送る。チームとともに戦う姿がそこにはある。
(C)中倉一志
結果は6年前と変わらなかったが、確実に福岡は変わりつつある姿を見せた。そんなチームと一緒にJ1昇格を目指してサポーターは今シーズンもリーグ戦を戦う。
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