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ルヴァン 準々決勝 第1戦
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【2009Jユースサンスタートニックカップ:準々決勝 東京Vvs広島/横浜FMvsG大阪】レポート:試合に勝ったG大阪、自らに勝った横浜FM。東京Vは広島に敗戦も価値ある経験(09.12.21)

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12月20日(日)2009Jユースサンスタートニックカップ 準々決勝
2009Jユースサンスタートニックカップ特集サイト
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横浜FM 1 - 2 G大阪(14:01KICK OFF/ベアスタ/200人)
得点者:5'松本 翔(横浜FM)、23'関 皓平(G大阪)、80'吉川 陽(G大阪)

「止めて下さい」
試合後、一部の観客が発したG大阪の2点目に対する不満の声に対して、横浜FMのキャプテン・中田航平は大きな声で言った。その一言を聞いて「凄い」と思った。彼が言うのなら納得するしかないと思わせる言葉だった。

80分のG大阪の決勝ゴールは2つの感情を刺激するゴールだった。直前のプレーで痛んだ横浜FMのGK・鈴木椋大はプレーを切るために自らボールを蹴り出そうとしたが、痛みのために完全に蹴り出すことができなかった。そして、ピッチ内を転がるボールをG大阪の選手がロングシュートでネットを揺らした。横浜FM側からすれば暗黙の了解でプレーを切り、シュートはしないと思う場面だが、G大阪側からすれば1−1で競り合っている中でGKがどれほど痛んでいるのかはっきり分からない状況ではピッチ内を転がるボールに反応することもありうる。ルール上は何も問題ないゴール。暗黙の了解の解釈の仕方が違うだけに誰もが納得できる裁きをこのシーンに下すことは誰にも出来ない。それが決勝ゴールになってしまっただけに大人だって判断に悩む。絶対に解決しないと思って残りの10分間を見ていた。終了直後にピッチに倒れ込む横浜FMの選手。G大阪の選手が喜ぶことなく、横浜FMの選手を労わっていた姿を見ても、両者が難しい感情の中にいたことが分かる。

立ち上がりは横浜FMがテンポのいいパス回しで主導権を取り、5分には樋川愛輔のダイナミックなロングパスが松本翔に通り、先制点が決まる。小気味よくパスが繋がるたびにサポーターが「オーレ」と声を出し、「オーレ」の声とともに主導権が続くかと思われた。しかし、サイドへのプレスを強めて主導権を奪い返そうとするG大阪が23分に関皓平のミドルシュートで追いつくと、徐々に横浜FMのリズムは失われていった。ボールを奪い返す出足も遅くなってG大阪のシュートシーンが増えていく。G大阪のFW原口拓人(2年)のドリブルをなかなか止められないから、カバーで守備のバランスが崩れやすくなったが、GKの鈴木を中心によく守り、何とか膠着状態を保っていた。今年のチームはクラブの本拠地であるMM(横浜みなとみらい21)のジュニアユースよりも横須賀市追浜にあるジュニアユース出身の選手が多く主力になっていて、「横須賀FM」なんて冗談が出そうなほど追浜の育成力が向上していることを証明している。1年を通じて結果を残してきたチームだっただけに、このチームから主導権を奪い返したG大阪の底力の凄さを感じさせられる展開でもあった。

そんなときにG大阪の勝ち越しゴール(80分)が決まった。その瞬間、多くの人が「えっ」と思った。しかし、レフリーはゲームを止めていなかったし、ルール上プレーは続いていた。ちょっとした齟齬が生んだ大きな決勝ゴール。しかし、横浜FMのキャプテンの中田はレフリーに抗議することなく、悔しさを心の中に押さえ込んで「やるしかねぇよ」とチームメイトに声を掛けた。ボールをセンターサークルに戻して横浜FMの選手はプレーを再開した。しかし、逆転することも延長戦に持ち込むことも出来ずに3分間のロスタイムが終わってピッチに倒れ込んで泣いた。

試合後、中田は「残り10分間、気持ちを切り替えてやるしかないと思ったから『やるしかねぇよ』と言いました。(試合後、一部の観客が発したG大阪の2点目に対する不満の声に対して)『止めて下さい』と言ったのはとっさに出た言葉です。サッカーにこういうことがあることが悔しいけれど、素直に受け止めようと思います」と言った。とっさの判断でこれだけのリーダーシップを取れるのは素晴らしく凄い。G大阪相手という意味ではなく、人を育てるという仕事で横浜FMは勝利した。単にサッカーが上手い人間を輩出するのではなく、中田航平のようなキャプテンがいるということが育成の勝利だと思う。

両チームの選手のサッカー人生はここが頂点でもないし、ここで終わりでもない。G大阪の関皓平が言った「次は横浜FMの分も頑張りたい」という言葉と、横浜FMの中田が言った「内容はG大阪がよかった。素直に受け止めようと思う」という言葉で解決すると思う。大人が解決できない問題だったが、G大阪が相手を思いやり、横浜FMが受け止めることでサッカーというスポーツが素晴らしいということを両チームの選手が勝敗だけではない部分で表現してくれた。両チームの選手にとって、絶対に役立つ経験だったと思う。


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東京V 1 - 4 広島(11:02KICK OFF/ベアスタ/200人)
得点者:52'大崎 淳矢(広島)、57'中山 雄登(広島)、59'宗近 慧(広島)、66'新村 武玄(東京V)、82'宗近 慧(広島)

試合後に広島の森山佳郎監督が話しているが、チームはケガ人、病人、(練習場に降った)雪に苦しめられていた。先発した選手の中にも肋骨にひびが入っている選手や体調不良の選手がおり、「無理して戻ってもらった」という状況だった。しかし、試合が始まってみるとテクニックで上回っていると思われていた東京Vに対して広島は最初から主導権を取った。それが出来た理由のひとつは、やるべきことをサボらずにやり遂げる広島のプレースタイル。東京Vの選手は確かに上手いが、ファーストディフェンダーやセカンドボールへの対応ではもっと突き詰めることが出来る余地は残っていたと思う。前半に2回の決定機を作っていたが、本来ならもう少しそれを多くすることが出来ていたはずだった。しかし広島の守備陣は東京Vの選手が挑む1対1で焦れることなくしっかりと対応していた。東京Vは個の力で局面を打開するということが出来なかった。

膠着した状態で迎えた後半。ここで東京Vは自分たちに何が足りなかったのかを広島に教えられる。52分の失点は、ファールを受けてマイボールになったと思い込んだことで作った隙を突かれ、大崎淳矢に先制ゴールを許すことになってしまった。裏に出されたミスキック気味のボールが広島にとっていいボールになったという不運もあったが、レフェリーが笛を吹くまでに思い込みでプレーを止めることの危険性を、大きな代償を払って改めて教えられることになってしまった。そして、57分、59分と続けて失点してしまうのだが、57分の失点は不必要なファールで与えたFK、59分は集中力が切れたように見えたマークミスによるCKからの失点だった。

東京Vは66分に1点を返して2点差に迫るが、広島は昨年の準々決勝の東京V戦の苦い経験があるから点差で浮かれることも必要以上に警戒しすぎることもなった。昨年は2−0から2−3にひっくり返されて敗れているが、今年は82分にしっかりと追加点を決めてトラウマを追い払った。4ゴールの内、3ゴールがセットプレーだった広島。単純なミスが少なく、粘り強く頑張るチームという表現が適切かどうか分からないが、広島は外連味(けれんみ)のない、いいチームだった。

上手さが自慢だった東京Vは、それに溺れたということはないが自らのよさを消してしまった。判定に感情を左右された選手がいたことも勿体無いことだった。単純に個を比べれば東京Vに分があったが、それでも勝てなかったことを冨樫剛一監督は「『サッカーだなぁ』と思う」と話した。しかし、東京Vの選手のサッカー人生は続く。彼らは、苦しい状況のクラブを自分たちが支えようという自覚がある。ジュニアユースの監督だった冨樫監督に「2015年にJリーグで優勝するために」という話を聞かされてきた。トップに昇格する選手だけでなく、大学に進学する選手も東京Vにプロ選手として戻ってきてチームを支えたいと思っている。東京Vのプライドを取り戻そうという気持ちの強さを感じる。この経験が上手さにプラスするべきものの重要性を感じることになれば悪い負けにはならないだろう。

以上

2009.12.21 Reported by 松尾潤
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