「小さいころからの夢であったプロ選手になれたことを本当にうれしく思います。まずは試合に出ることが目標。来シーズンが始まるまで時間があるので、しっかりとトレーニングを積んで開幕から試合に出られるようにしたいと思っています。アビスパの勝利のために貢献できるように頑張っていきたいです」。
　香椎浜ふ頭にあるアビスパ福岡本社で仮契約を済ませてロビーに出てきた宮路洋輔は、隠しきれない喜びを表情に浮かべながら話した。２００８年からアビスパ福岡の「ＪＦＡ・Ｊリーグ特別指定選手」としてトレーニングに参加していたが、来シーズンから、いよいよプロとしての一歩を踏み出すことになる。

父親の影響を受けて、本庄サッカースポーツ少年団（宮崎県）でサッカーを始めたのは小学校３年生の時。その経歴を改めて調べてみると、いまさらながら、彼がサッカーの王道を歩んできたことが分かる。
宮崎鵬翔高校時代は、１年時から３年時まで、高円宮杯全日本ユース、全国高校総体、全国高校選手権の高校主要大会のすべてに出場。全日本ユースでは、ベスト８、ベスト４、ベスト１６、高校選手権では高校２年時にベスト８に進出するなど、鵬翔高校の黄金時代を築いた。
進学した福岡大学でも１年時からレギュラーポジションを獲得。ここでも大学の２大タイトルである、総理大臣杯全日本大学サッカートーナメント、全日本大学サッカー選手権（以下、インカレ）の全てに出場。今年の８月に行われた総理大臣杯で優勝を果たしたのは記憶に新しいが、同じく総理大臣杯で１年時に準優勝、２年時にベスト４。インカレではベスト８に２度進出している。既に大学最後のインカレへの出場を決めているが、同一年度に総理大臣杯、インカレの両方を制した大学はなく、その快挙を果たすべくトレーニングを重ねている。

当然のことながら周囲の期待も大きい。ここまで宮路を含めて３４人のＪリーガーを輩出している乾真寛　福岡大学サッカー部監督（福岡大学スポーツ科学部教授）は話す。
「福岡大学を代表する選手であると同時に、今年の大学日本一になったチームのキャプテン。影響力もあると思う。福岡大学だけではなく、大学サッカー界を代表して、アビスパの新たな再生の基礎を作るような存在になってほしい。ポジション的にはDF、もしくはボランチというところで期待されているが、どちらもチーム全体をまとめるポジション。チームを立て直すために、遠慮せずにリーダーシップを発揮してほしい」

そして、宮路の加入は、地域で生まれ育った選手を、地域ぐるみでさらに成長させるという点でも大きな意味を持つ。「地元のチームから育ってきた選手が、強化指定選手を経てさらに成長し、所属するチームで大きな実績を作ってアビスパに入ってくる。そういう流れを作ってきたつもりだが、その象徴として宮路が加入することは意味のあること」（田部和良ＧＭ・アビスパ福岡）。もちろん、チームが期待するのは即戦力としての実力だ。
「大学日本一になったことや、ユニバ代表候補に選出されたことなど、この１年間で、本来持っている資質に経験を加えた進化中の選手。センターバックのポジションを基本としながら、試合展開によっては、そのひとつ前のポジションもできる、そんな選手として、もっともっと伸びていってほしい。来季もチームは２６、２７名体制。のんびりなんて言ってはいられない」（同）

「チーム全体をまとめるコーチング、ラインコントロールを見てほしい」と本人が話すように、リーダーシップと統率力を持ったプレーヤー。体の強さはもちろんだが、雁の巣球技場でのトレーニングを見ていると、非常にクレバーで、マルチプレーヤーとしての資質が高いように見える。表情ひとつ変えずに激しく相手を潰しに行くのもいい。目標とするプレーヤーは宮本恒靖（神戸）。そして、「レベスタは、ファン・サポーターの方たちの声援がとても熱いスタジアム。早くあのピッチに立ちたいとずっと思っていました」と開幕スタメンを狙う。
２００７年に再びＪ２に降格して以来、不本意な戦いが続くアビスパだが、来シーズンは再生を目指す新たなスタートの年。新たな歴史を築く一員としての活躍を期待したい。

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2009.10.29 Reported by 中倉一志