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ルヴァン 準々決勝 第1戦
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【第89回天皇杯2回戦 川崎F vs R山口】レポート:鄭大世の自身初となるヘディングだけのハットトリックもあり、川崎Fが6ゴールで快勝。(09.10.12)

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10月11日(日) 第89回天皇杯2回戦
川崎F 6 - 1 R山口 (13:00/等々力/4,855人)
得点者:22' 鄭 大世(川崎F)、23' 柏原 渉(R山口)、46' 鄭 大世(川崎F)、54' 鄭 大世(川崎F)、59' レナチーニョ(川崎F)、77' レナチーニョ(川崎F)、88' 井川 祐輔(川崎F)
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ロッカーへと引き上げてきたレノファ山口の安田忠臣は、右腕を巻きつけるようにして顔を覆っていた。あふれ出る涙を必死でこらえようと表情をゆがめていた。その安田のプレーをきっかけに、一時は同点に追いつくゴールを決めた柏原渉も「遠くから来てくれた方に申し訳ないという気持ちがありましたし、なによりも悔しかった」と涙の理由を口にしていた。

川崎Fにしてみれば優勝への一つのステップに過ぎないのかもしれないが、一生に一度あるかないかというJ1クラブとの公式戦は、R山口に高いモチベーションを与えていた。どんな選手がいて、どんな戦いをするのか。セオリーどおりに行けば、堅守速攻の試合運びになるのだろうと始まった試合は、その予想に反して進んだ。気持ちは前に。川崎Fを上回る運動量で攻撃を遅らせると、R山口はすばやく自陣に守備ブロックを作った。サイドバックで先発した久木野聡は「前半、タテ方向に勝負をしたかったんですが、タテを切られていて行けませんでした」と反省するしかなった。

川崎FにしてみればR山口の守備陣形が整う前にテンポ良く攻め崩したいところだが、この日先発の黒津勝と鄭大世の2トップの息が思うように合わない。鄭にしてみれば自分にボールを集めてもらい、そこを手がかりに周りの選手のフォローによって攻撃の糸口を作りたかったはず。しかし「前半はコンビネーションのところで良くなかった。役割分担がうまくできていなかったと思います」と反省する鄭に対し、黒津も位置関係に問題はなかったと前置きしつつ「前半はうまくボールが収まりませんでした」と課題を口にしていた。
もちろん急造2トップのコンビネーションのズレは大きいのだが、と同時に複数の選手で鄭を囲い込み、思うように起点を作らせなかったR山口の徹底した対応も川崎Fを苦しめた一因だった。最終ラインと中盤のラインをきれいに整え、どこにボールが入っても即座に対応できる態勢を整えたR山口に対し、川崎Fは攻めあぐねる時間が長く続いた。

流れの中で守られている時こそ、セットプレーが有効になる。日本代表招集中の中村憲剛に代わりキッカーを務めた木村祐志は、その正確なキックでターゲットとなった鄭を狙い続けていた。6分のFKの場面を皮切りに14分にもFKで鄭に合わせる。これらのシュートが枠に飛ぶ事はなかったが、鄭にフリーで合わせ続けられていれば破綻は時間の問題だった。
前半22分のCKの場面。鄭をターゲットにした木村のキックに対し、鄭がフリーの状態で合わせた。激しいマークに苛立ちを見せる場面もあった鄭の、その鬱憤を晴らす会心のゴールとなる。この時点で決まる可能性もあった試合が緊迫感を維持したのは、先制点の直後に川崎Fが喫した同点ゴールがあったからだ。23分、R山口の安田へのクサビのパスは一旦はクリアされるが、これが意図しない形で柏原に渡り、GKとの1対1に。

「先に動いてしまった。しっかり1対1で先に動かないように対応しないとダメでした」と反省するのはゴールマウスを守っていた杉山力裕。一方、落ち着いてゴールを決めた柏原は「後ろからディフェンスが来ていたんですが、落ち着いて決められました。あれが決まってよかったです」とホッとした表情で語っていた。

前半を終えて1-1。「やる気を与えてしまった」(鄭)という状況で後半を迎えるが、ハードワークしてきたR山口の気持ちを折る鄭の勝ち越しゴールが後半開始早々の46分に決まり、試合の大勢は決した。技術の差を運動量でカバーしてきたR山口は、その運動量の低下と共に防戦一方となり、鄭にセットプレーから頭だけでハットトリックを許す事となった。試合の方は、その後レナチーニョが2ゴール。試合終了間際には、試合中にセンターバックからサイドバックへとポジションを代えた井川祐輔が6点目のゴールを決めた。6失点のR山口は後半ロスタイムに、交代出場の中川心平があわやというヘディングシュートを放つが、杉山が気迫のセーブを見せてゴールを死守。試合は結果的に6-1で決着する事となった。

試合後、アマチュアチームらしく川崎Fサポーターにも挨拶したR山口の選手に対し、スタジアムからは万雷の拍手が沸き起こり、Jリーグでは見かける事のなくなった相手チームへのコールが贈られた。またそれに応えるようにR山口サポーターからの川崎Fサポーターに返礼のコールが始まると、それにも拍手が沸き起こった。それら美しい出来事の全ては、予定調和的な結末があったから。ただ、点を取った柏原を筆頭にほぼ全ての選手がサッカー以外の仕事を持ち、自らの生活をサッカー以外のところで成り立たせているアマチュアチームの健闘に、素直な気持ちで拍手した川崎Fサポーターも多かったのだろうと思う。

「これから先、J1のチームとやるのは多分かなり難しいと思う。今日はそれができるということで、うれしかった」と話す柏原の言葉はR山口のチーム関係者の全てが共有する感情を代弁するものだった。だからこそ関塚隆監督はそこに難しさを感じ「レノファ山口も、山口県でJリーグ入りを目指しているチームということで、そういう情熱、志のあるチームが全国に広がっています。そういう意味では我々にとってはやりづらい対戦(Jクラブが2回戦から登場)がスタートしたなという気持ちでした」と率直に下位リーグの相手と戦う難しさを口にしていた。

川崎Fに限らず、Jクラブにとっては下位リーグ所属チームとの対戦は、勝って当然という試合である事も相まって、できれば回避したいものである。ただ、関塚監督が述べているようにJリーグへの情熱や志をもつチームにとっては、対戦するだけで「再び、ここへ」との思いを強くさせる経験であり、サッカーを全国に浸透させるという意味においても意義深い事であるのは間違いない。

柏原の「いずれ、Jの名前が付くところに行かないとダメだと思っていますし、そのためにもこの試合を糧にしないとダメだと思います」との思いは結実するのか。川崎Fが天皇杯というタイトルに向け、その一歩を踏み出したのと同様、R山口はJFL入りを目指す過酷な戦いに向けて気持ちを新たにした。試合後の清涼感と共に、両チームにとって意味のある試合になったのではないかと思う。

以上


2009.10.12 Reported by 江藤高志
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