サッカーの取材を本格的に始めてから今年で11年目。これまで随分といろんな場所へと足を運んだ。改めて数えてみると、取材のために訪れた場所は34都道府県。個人的に出かけて行った場所を合わせれば、実に39都道府県を制覇(?)したことになる。そして、その数は8月にもうひとつ増える。その多くはサッカーに関わっていなければ決して行かなかったであろう場所。知らない土地に足を踏み入れるたびに、サッカーに関わることは、単にボールを追いかけることだけではないことを実感する。
交通機関も飛行機以外に様々なものを使う。何しろ、しがないフリーの身。最優先されるのは費用が最も安価なことだからだ。深夜バスで移動を経験したのは、この仕事を始めてから。フェリーで雑魚寝しながら目的地へ向かうこともある。好意に甘えさせてもらって、友人の車に便上させてもらって高速道路をひたすら走り続けることもあれば、福岡市内なら可能な限り自転車で駆けつける。「青春18切符」だけは未経験。半世紀を過ぎた体が過酷な旅に耐えきれる自信が持てないからだ。けれど、どんな行程をたどろうが、どれも意外と快適。それぞれの交通機関には、それぞれの交通機関の楽しみ方があり、ウイスキーの小瓶を口に運びながら長旅を楽しむのも悪くない。
実を言うと、私は旅行にはあまり興味がない。正確にいえば、観光名所と呼ばれる場所の人混みが嫌いなのだ。したがって、初めての土地を訪れても名所と呼ばれるところにはあまり足が向かない。ただ、知らない土地で強烈に惹かれるものがある。それは、その町の匂いというか、空気感というか、その町の生活感のようなもの。地域間の対立構造がないと言われている日本にも、当然のように、その土地には、その土地の文化や個性が存在し、それを強烈に主張している。かつて東京に住んでいた頃は、日本中が東京と同じ感覚であるなどと極めて傲慢な考えを持っていたが、あちこちへ足を運べば、それがとんでもない誤解だったことが分かる。
そうした空気感は1日、2日で理解できるものではないが、それでも少しでも触れたくて、必ず商店街へと繰り出す。そして、地元の人たちが普通に生活している空間を一緒に歩く。自分の感覚で気になった店にぷらっと入り、買い物をし、お茶を飲み、食事をする。夜は夜はで、ぶらりと出かけて、決して観光客などやって来ないようなこじんまりとした赤暖簾をくぐる。馴染みの客ばかりの店で、女将さんと常連さんが地元の言葉でやり取りしているのを肴に喉を潤す。タイミングが合えば、常連さんたちの話の輪に入って地元のことを聞くのも楽しい。文化の違いに時には驚き、時には感心する。それも旅の楽しみのひとつだろう。
そんな私が最も気に入っている町のひとつが松山だ。私が育った古き良き時代の昭和の匂いが、いまもまだたっぷりと残っているからだ。最大の商店街である大街道、銀天町を歩いているだけで、ここに住む人たちの温かさが伝わってくるような気持ちになる。創業以来、季節にかかわらず「鍋焼きうどん」と「いなりずし」しかメニューにない「ことり」と「アサヒ」。いまや都会では見られなくなった純喫茶。おばあちゃんの味を引き継いで「釜揚げたらいうどん」だけを提供する「小田吉」の親父さんのうんちく話。そして、少し足を延ばして地元の人たちが集まる温泉施設に入るのもいい。どこも温かく、心を癒してくれる。
松山に限らず、どんな土地にも新しい発見があり、何かほっとされられるものがある。そんな思いで歩いているときに、アウェイ用のレプリカユニフォームを着た人が歩いているのを見つけると、みんな同じ気持ちなんだなと嬉しくなる。そもそもの目的はおらが町のチームの応援。旅を楽しみに来たわけではない。でも、そこで偶然見つけた小さな喜び。それはチームの応援のためにアウェイに駆けつけた者へのサッカーの神様のプレゼントかもしれない。
そういえば松山にはやり残したことがある。それは松山市駅前で見つけた赤暖簾。帰りの時間が差し迫っていいために立ち寄ることが出来なかった。今年、松山に行くのは天皇杯を含めれば2度。今度は時間に余裕を持って訪ねよう。
以上
2009.07.22 Reported by 中倉一志
J’s GOALニュース
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(C)中倉一志
松山へは小倉から夜行フェリーを利用すると便利。割引サービスを利用すれば、2等寝台でも4000円弱、雑魚寝でよければ3000円弱で松山観光港まで行ける。船内での飲食も安価で助かる。
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松山と言えば道後温泉が有名だが、地元の人たちが利用する温泉節に足を運ぶのもいい。写真は松山市駅から電車で10分ほど行ったところにある「久米之癒(くめのゆ)」。ゆったりと上質の温泉が楽しめる。
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大街道、銀天町商店街で、土曜日に行われている「土曜夜市」。商店街中に屋台が出て賑わう。時間の都合さえつけば、是非、足を運びたい。松山の町の温かさが伝わってくる。
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