「中倉さん、聞いてくださいよ。ここに来る途中で切符切られたんだけどね」
宮崎キャンプの練習試合の日、福岡から車で応援に駆けつけたサポーターが話しかけてきた。どうやら、先を急ぐあまり高速度でスピード違反を犯したらしい。場所は八代(熊本)に差し掛かったあたり。車を降りていくと、ナンバープレートを確認していた警察官に、こう言われたそうだ。『福岡からですか。うちの高橋泰を取っていったところじゃないですか』。なかなか、素敵な警察官だ(笑)
さて、今年で2年目を迎える熊本、鳥栖との3チームによる九州ダービー。実は正直な気持ちを告白すると、3チームによる九州ダービーが始まる前は、熊本との試合をダービーと言われてもピンとこない自分がいた。私の自宅からKK WING(熊本県民総合運動公園陸上競技場)に行くためには、バスとJR特急を乗り継いで約3時間。ちなみに、これは我が家から新大阪に着くまでに要する時間とほぼ同じだ。しかも、熊本と福岡では、生活圏も商業圏も全く違う。地理的、時間的な問題から、どうしてもダービーという感覚が起こらなかった。
しかし、2008年5月6日。私の中の全てが変わった。場所はレベルファイブスタジアム( http://www.j-league.or.jp/SS/jpn/j2/200802000312103_W0201_J.html )。その原因となったのは、当時熊本に在籍していた高橋泰だった。
挨拶代わりの一発は28分の同点ゴール。そして33分、10,822人の観客の度肝を抜くゴールを決める。ゴールまでは約30メートル。その右足から放たれた無回転の直接FKは壁の上を超え、鋭い弾道を描いてゴールネットに突き刺さった。さらに、両チームが1点ずつを加えて迎えた72分、自陣からのクリアボールを受けた高橋は、追いすがる福岡DFを振り切ってゴールをゲット。ハットトリックを達成するとともに福岡に引導を渡した。
「次はやられてたまるか」。その高橋のプレーが私の心に火をつけた。そして熊本は強く意識せざるを得ないチームになった。福岡の意地と誇りにかけて九州のチームには負けられない。対戦成績や順位、互いの力関係がどうあろうとも、何があっても勝たなければいけない相手。それは熊本との試合を明確に九州ダービーと認識した瞬間だった。
そして今シーズン、その高橋は福岡に所属して熊本を迎える。特別な思いは彼の心の中にも渦巻く。
「俺、ツンツンしたプレーヤーだったんですよ」。以前、インタビュー取材の時に高橋はそう漏らした。広島に在籍していた頃、自分自身のことを振り返ることが出来ずに、ただ不満ばかりを募らせた。ところが、移籍した大宮、千葉でも1年しかプレーが出来ず、自分に足りないことがたくさんあることに気づく。だが時は既に遅し。高橋はJリーガーとしての立場を失った。
そんな時、プレーの場を与えてくれたのが熊本だった。そこでJリーグを目指して必死にプレーする仲間の姿を見て、高橋はサッカーの原点に立ち返る。そして、試合に出場し続けることで自分の持てる力を表現できるようになっていく。「自分のサッカー人生にとって最も濃密な3年間。熊本には本当に感謝している」。熊本での活躍はいまさら説明するまでもないだろう。その熊本を離れて、今シーズンから福岡に戦いの場所を移した。それはプロとしての決断。しかし、熊本に対する感謝の気持ちは変わらない。
その感謝の気持ちは、自分が新たな場所で更なる成功を収める姿を見せることで表現するしかない。まして、古巣との直接対決に負けるわけにはいかない。それが自分の新たなサッカー人生を切り開いてくれた熊本に対する恩返しだからだ。
さて、2年目の九州ダービーは12日、福岡と熊本の間で幕を開ける。チームの意地と誇りに加え、様々な思いがぶつかり合う試合は、ダービーの名にふさわしい試合になることは間違いない。互いの順位も、現在の状況も、力関係も関係ない。少しの油断や、少しの驕りは命取り。相手にひるむようなことがあれば、それは即敗戦につながる。勝利を手にするのは、90分間に渡って、ただひたすらに勝利を求める気持ちの強いチームだ。そして、12日にそれを示すのは福岡。私はそう信じている。
以上
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2009.04.07 Reported by 中倉一志
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