11月26日（水） 第88回天皇杯5回戦
磐田 1 - 3 Ｇ大阪　（19:00／ヤマハ／2,648人）
得点者：0' 西紀寛（磐田）、15' 佐々木勇人（Ｇ大阪）、55' 山口智（Ｇ大阪）、74' 山崎雅人（Ｇ大阪）

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　J1残留のために完全なターンオーバーを行った磐田と、来季のACL出場権を獲得するために天皇杯にかけるG大阪。試合結果には、勝負にこだわる姿勢の差が表われたが、後半の途中までは磐田サポーターにとっても十分に楽しめるゲームだった。
　その楽しみとは、もちろん今季限りでの引退を発表した名波浩。前回の柏戦からスタメンを10人入れ替えた磐田は、システム的にもいつもとまったく変えて4-2-3-1の形を採用。4バックは右から山本脩斗、大井健太郎、茶野隆行、森下俊。ボランチは成岡翔と河村崇大。そして1トップに中山雅史を置き、その両サイドに太田吉彰（右）と西紀寛（左）、注目の名波はトップ下の位置に入った。
　対するG大阪は、上海（AFCアワードの受賞式）から戻ったばかりの遠藤保仁をベンチに置き、2列目は右に佐々木勇人、左に倉田秋として、2トップはルーカスと播戸竜二。ケガ人以外はリーグ戦と変わらないメンバーでこの試合に臨んだ。

　この試合最大の見せ場は、キックオフ直後に生まれた。試合が始まって30秒を過ぎたあたり、中盤右で名波がボールを受けたところで、右サイドバックとして公式戦に初出場した山本が果敢にライン際をダッシュ。すると、山本の動きに背を向けていた名波から、ピッタリのタイミングでループパスが出され、山本はスピードをまったく落とすことなく裏に抜け出し、深い位置からクロスを送る。するとニアに飛び込んだ中山がオトリになって逆サイドにボールが抜け、左から飛び込んだ西がダイレクトで決めて、磐田があっという間に先制点を奪った。
　名波の絶妙なパスで相手の裏を取り、中山がニアでつぶれ役となって味方のゴールをアシストする。古くからの磐田サポーターなら、何度も目に焼き付けてきた光景だった。
　その後も名波は、随所に彼らしさを見せた。22分に右サイドで太田に出した縦パスは、体勢を崩しながらも左足のアウトサイドキックでタイミング、強さとも完璧なボール。35分には中盤でボディコンタクトを受けながらも優雅な動きでボールをキープし、サイドを変えて山本がフリーで持てる状況を作って、そこからのチャンスメイクをお膳立てした。また、パスを出すぞ出すぞというキックフェイントを見せて相手にタックルするタイミングを与えず、それによって時間を作って味方が良いポジションに入るのを待ってからピタリとパスを合わせる技も、名波ならではのもの。後半の序盤までは、そうした味わい深いプレーを何度も見せてくれた。

　磐田としては1-0の状況をなるべく長くしておきたかったが、前半15分に佐々木のミドルシュートで同点に追いつかれてしまう。この場面では、対面の山本の寄せが甘く、急造4バックの粗（アラ）が表われてしまった。
　ゲームを支配するという面でも前半はほぼ互角だったが、後半はG大阪のパス回しがより高い位置で行なわれるようになり、磐田はジリジリと押し込まれてG大阪ペースに傾いていく。その中で、名波にも疲労が目立ち始めて、磐田はポゼッションという面でも苦しくなってきた。
　そして後半10分には、CKの2次攻撃からの佐々木のクロスを山口智がきっちりと頭で決めてG大阪が逆転。ここでは一度跳ね返したところで1人が倒れ、磐田のマークにズレが生じてしまった。
　その後、磐田は28分に10番・成岡の名波のように美しいスルーパスから中山が裏を取って決定的なシュートを放つが、これは左ポストに当たってゴールならず。同点に追いつくチャンスを逃した直後の29分には、単純なロングボールからDFとGKの連係ミスを付かれて山崎雅人に3点目を決められてしまう。これでほぼ試合は決まり、その直後に名波は藤井貴と交代してピッチを退いた。

　試合後、勝った西野朗監督は試合内容に関して渋い表情を見せたが、遠藤に無理させることなく勝てたことに安堵を示した。逆に遠藤自身は、名波と同じピッチに立つことを望んでいたが、チームが早めに逆転したことによって、その願いはかなわなかった。
　両チームともさまざまな思いが交錯する中で、G大阪はベスト8に進んでACL出場に望みとつなぎ、磐田サポーターは名波の左足の記憶を胸に刻みつけた。

以上