6月17日(日) 2007 J2リーグ戦 第22節
湘南 4 - 1 鳥栖 (13:03/平塚/3,935人)
得点者:'16 藤田祥史(鳥栖)、'47 原竜太(湘南)、'50 石原直樹(湘南)、'53 斉藤俊秀(湘南)、'89 永里源気(湘南)
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「点を取ったらガクッと落ちた」
およそ1年前の昨年6月のことだ。ホームで迎えた湘南戦の試合後、山口貴之は鳥栖に乗り込んできた相手の印象をこんなふうに語ったものだ。湘南にとって菅野将晃監督の初陣でもあったこの日、前半に2得点を挙げた鳥栖は後半の追撃も許さず、2-0で勝利している。逆に連敗の最中で喘いでいたアウェイチームは、残念なことに失点による士気の乱れをもピッチ上の相手にいとも容易く見透かされていたわけだ。
しかし指揮官が就任して1年、現在のチームにあの日の面影はない。湘南が前半に1点の先制を許しながら、怒涛の逆転劇で鳥栖をねじ伏せたのだった。
「前半の闘いを続けよう」そう菅野監督がハーフタイムに声をかけたように、前半の主導権はホーム・湘南の手中にあった。左サイドバックに抜擢されJ初ピッチを踏んだ大卒ルーキーの山口貴弘が、加藤望と絡み積極的にサイドを崩しにかかれば、この日右サイドバックに入った田村雄三もタイミングよく前に顔を出し効果的なクロスを入れた。シーズン当初はダイナミックなサイドチェンジが陰を潜めていた湘南だが、片方のサイドでつくりつつ加藤やアジエルを経由して巧みに振り分けることで、約70mの幅を存分に活用している。
また中盤でも、坂本紘司を中心に相手ボランチに対するプレッシャーを絶やさない。プレスバックをはじめ、2トップの連動性ある動きも相変わらずだ。「自分には相手よりも多く走るということしかないので、それだけは貫こうと思っていた」とは試合後の山口の弁だが、つまるところ全員が自身のタスクをまっとうしていたわけだ。坂本が見せたダイアゴナルのフリーランも、惜しくもファウルに水を差されたものの効果的だったことを付け加えておきたい。
対する鳥栖は、相手にポゼッションを譲りながらもラインをコンパクトに保ち、水際で持ちこたえていた。時折りゴール前を狙う山口の動き出しも幾度か危険な匂いを放っている。そして16分、そのベテランが中盤の奪い合いからボールを受け、先制の起点となった。湘南のストロングポイントと表裏一体のスペースを突いた山口はゴール前にパスを供給、レオナルドを経由し、稼ぎ頭の藤田祥史が今季9得点目を見舞ったのである。このとき湘南も、石原直樹が前線から猛然と戻り対応に入っているが、こぼれてきた数少ないチャンスを鳥栖は逃さなかった。
主導権を握りながらもゴールに結べず後手を踏んだ湘南は、まるでキックオフの笛が鬨(とき)の声のごとく、後半開始早々から畳みかける。まずは47分、左サイドを崩し、加藤からアジエルへと繋ぐ。持ち前の巧みなドリブルでペナルティを陥れた攻撃の要は、狭い局面でキープしラストパスを供給、走りこんだ原竜太が同点弾を左足でねじ込んだ。そしてこの反撃の狼煙からわずか3分後、ふたたび得点機は訪れる。中盤の北島義生から右サイドへ展開し、田村から前線の原へと繋ぐ。原はキープするや中央の坂本へ送り、アジエルとのワンツーで抜け出した坂本のラストパスに石原が反応、右足を振りぬいた。「今日は直樹がいくよ」と、試合前に指揮官が期待を寄せていたストライカーが6試合ぶりのゴールを決め、湘南が後半開始5分で逆転に成功したのだった。
「ハーフタイムに話したことをやるまえに失点してしまった」と、岸野靖之監督は試合後に唇を噛んでいる。事実、修正を施す間すら与えぬまま、ホームチームはさらに攻撃を強めた。53分、加藤のコーナーキックを受けた原がゴール前で粘り、詰めていた斉藤俊秀が右足できっちりと沈めたのである。一方の鳥栖も、反撃すべく54分、57分と立て続けに3枚のカードを切ったが、ポゼッションを高める相手に効果的な策は得られない。相手の背後を狙うFWの動きも、山口ら湘南のDFラインに塞がれた。さらに、70分過ぎには3枚のうちの1枚だった尹晶煥が相手のファウルによって負傷退場を余儀なくされ、10人での闘いを強いられるという不運にも遭った。89分に途中出場の湘南・永里源気によるミドルが飛び出すと、もはや鳥栖の選手たちは膝に手をつきうなだれるしかなかった。
札幌戦に次ぐ後半早々の失点に、しかし鳥栖の村主博正は「後半立ち上がりの失点は自分たちの課題だが、これは修正できること。意思統一ができていたことをポジティブに捉え、つぎに繋げたい」と前を向いた。16連戦の最後は飾れなかったが、コンディションをあらためホームの山形戦に臨みたい。
一方の湘南は前半を最小失点に抑え、後半の逆転勝利を導いた。菅野監督の目指すポゼッションは高まり、緩急もコントロールしている。中盤の要である坂本の負傷は心配だが、ベテランの加藤が戦前に口にしたステップアップがチームとして着実に図られていることを裏付ける勝利だったといえるだろう。単独4位に抜け出した湘南は、「もっとできる」と引き締める指揮官のもと手綱を緩めることなく、次節の徳島戦に備える。
以上
2007.06.18 Reported by 隈元大吾
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