第84回全国高校サッカー選手権大会 決勝

【国立競技場】
鹿児島実業（鹿児島） 1-2 野洲（滋賀） （14：05キックオフ/31,782人）
得点者：23分 荒堀謙次（野洲）、79分 迫田亮介（鹿児島実業）、107分 瀧川 陽 （野洲）

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そのゴールはとても美しく、迷いがなく、野洲サッカーらしいものだった。延長後半７分、左サイドからＤＦ田中雄大がロングフィードでサイドを変えると、乾貴士がドリブルで中央へ切れ込み、ヒールキックで平原研にパス。平原がダイレクトでスルーパスを出すと、右サイドをあがっていた中川真吾がクロスを入れる。ファーサイドで待っていたのは、またも瀧川陽だった。

「中へ行けば、サイドにスペースができる」（乾）。「ヒールもスルーパスも予測していた。瀧川も見えていました。時間がなかったのでＰＫはいやだと思って上がりました」（中川）。「パスがつながって、合わせるだけだった」（瀧川）。時計の針が残り３分を切ったとき、ピッチにいた野洲の選手たちが描いたゴールへの道筋は、完全に一致していた。

「立ち上がりの前半15分、ラインを下げずにセカンドボールを拾って前に出ろ」山本佳司監督は、そう口にして選手を送り出した。「これまで鹿児島実業と試合をしたチームは、猛攻を耐えようとして敗れた。だからこそ前に行け。疾風怒濤の攻撃を真っ向から受け止めろ」（山本監督）と言葉を続けて。

その言葉どおり、激しく厳しい鹿児島実業のプレスに、思うように細かいパスサッカーを展開できず苦しいたちが上がりとなるが、田中、内野貴志、荒堀謙次の３バックとGK下西要が体を張ってゴールを死守すると、前半23分、直接FKからのこぼれ球を金本竜市がファーサイドへ。荒堀がヘッドで押し込み先制点。ここまで無失点の王者のゴールをこじあけた。「（鹿児島実業が）無失点できていたから１点奪えば（気持ちが）落ちるだろう」と山本監督。しかし、鹿児島実業は揺るがない。サイドの豊満貴之、永岩貞亮を起点に猛攻を仕掛けていく。中盤での激しいボールの奪い合いと、ぶつかり合いに、３万人を超える観衆が息を呑む。後半34分、野洲DFのクリアボールに素早く反応した西岡謙太がクロスを上げ、ゴール正面で迫田亮介が頭で押し込み同点に追いつく。土壇場で、試合が振り出しに戻った。2年連続の延長戦となった決勝。スタミナで勝る鹿児島実業に、全員で耐えた野洲。そして延長後半７分に、決勝点が鹿児島実業ゴールに突き刺さった。

「自分たちのサッカーが頂点に立った」と声を震わせた青木孝太。決勝ゴールをあげた瀧川も、主将としてチームを引っ張ってきた金本の目にも大粒の涙が光っていた。山本監督は、王者を相手に「大敗して無言で撤収するかもしれない」と前日にポツリとこぼしていた。自分たちが貫いてきた個人技と、細かいパスをつなぐ野洲サッカーは、名門鹿児島実業を相手にしても、まったく引くことはなかった。「誰にも真似できないサッカー。これで高校サッカーを変えるというのが証明できたかな」と瀧川。「自分たちが3年間やってきたことのプライド。それが間違っていなかったことを証明できた」と金本は笑顔でバスに乗り込んだ。野洲が貫いたサッカーは、高校サッカーの新たな１ページに刻まれていく。

野洲が使っている練習ボールは、どれもペイントがはげて真っ白に近い。聞けばまだ3ヶ月しか使っていないという。「技術は死ぬほど練習しないと、あそこまでできない」と山本監督はよく話していた。真っ白なボールはその証。陽が暮れるグラウンドで時間を惜しむかのように、ずっとボールを蹴っていた。アップのときも、試合直前でも野洲イレブンの近くにはいつもボールが転がっていた。「高校サッカーを変えたい」。山本監督の野望は、毎日の努力があるからこそ口に出来るものだ。その外見や発する言動から風当たりの強いこともある。けれど試合後に「ちょい悪でセクシーな魅力ある選手を輩出していきたい」と笑った山本監督。日本一になることは通過点でしかない。その先にはずっと大きな夢がある。

新たな高校サッカーの先駆者として山本監督と野洲サッカー部の挑戦は、来週、新人戦で幕を開ける。

以上

2006.01.09 Reported by 青柳舞子