コラム
2015/11/25(水)16:02
【J2番記者】福岡 全ての想いを胸にプレーオフに挑む
明治安田生命J2リーグ最終節のFC岐阜戦。一瞬、手にかかったかと思われたJ1自動昇格の権利は、他会場で戦っていたジュビロ磐田の劇的な勝利により掴み取ることはできなかった。だが、ミックスゾーンに現われた選手たちの表情に落胆の色はない。むしろ、やるべきことをやりつくした満足感のようなものさえ漂う。そして、自分たちがJ1昇格に値するチームであること、それを証明するためにプレーオフを必ず制するという自信のようなものさえ感じられた。
ここまでの戦いを見れば、それは十分に頷けるものだ。前半戦を9勝6分6敗の7位で折り返したアビスパ福岡だったが、後半に入ると一気に加速。15勝4分2敗の成績は、総得点、総失点も含めて後半戦のトップ。第31節からは12戦無敗(11勝1分)、8連勝でリーグを締めくくった。その成績は、圧倒的な強さを発揮して前半戦を駆け抜けた大宮アルディージャさえも上回るもの。過去3年間、J2の下位に低迷していたチームは大きく成長し、J1昇格にふさわしいチームになったことを印象付けた。
躍進の要因が守備の再構築にあることに疑いの余地はない。失点数は昨シーズンの60から37に激減。無失点試合は21を数えた。その安定した守備をベースに24勝中13勝が1-0のスコア。1点差で勝利した試合は1-0の試合を含めて15試合にものぼる。開幕直後は3試合で7失点を喫して3連敗と最悪のスタート。順位も最下位に沈んだが、井原 正巳監督は徹底して守備意識を高めて堅守のチームを作り上げて来た。
そのベースにあるのはハードワークだ。井原監督は、運動量、攻守の切り替えのスピード、球際やセカンドボールの争い、1対1の局面など、サッカーの原点とも呼べるべき点で相手を上回ることを徹底。紙一重の試合を細部で上回ることで勝点を重ねた。相手を丸裸にしてしまう緻密なスカウティングや、自分たちの特長を最大限に活かす割り切った戦い方も勝点を積み重ねた要因のひとつだが、それも、チームのベースとして相手よりもハードワークする姿勢があったからに他ならない。
結果に一喜一憂しないメンタル面の安定も、今シーズンの特長のひとつだ。開幕戦から最終節までの42試合で、ミックスゾーンに現われた選手たちは、ただの一度も勝利に喜ぶ姿を見せることも、敗戦に悔しさをにじませることもなかった。目の前の試合に勝つことに徹底したこだわりを見せた半面、常に自分たちの目標を達成するために何をやるべきかということから目を離すことはなかった。選手たちが盛んに口にしていたのは「もっと良くなる」という言葉。そのために何をすべきかということを、どんな時でも見つめ続けた。
そして、一人ひとりが責任感を持って自分の役割を全うした姿も印象的だった。そんなチームをキャプテンの城後 寿は次のように話す。
「キャプテンとして何かをしてきたのかと言えば、そんなことはない。けれども、自分が何もしなくてよかったということは、チームに非常にまとまりがあって、一人ひとりが向上心を持ち、誰ひとり輪を乱すことなく、チームとして1年間戦えたという証」
その背景に、一昨年の経営危機を救ってくれた多くの人たちへの感謝の気持ちがあることは想像に難くない。クラブ改革を積極的に推し進めるクラブフロント。クラブを支えてくれる行政と地元企業の数々。どんな時も熱い声援を送り続けるファン・サポーター。福岡に関わる全ての人たちへの感謝を、選手たちは事あるごとに口にしていた。
福岡は今週末から、J1昇格に向けた最後の戦いに挑む。プレーオフは一発勝負ならではの難しさがある。立場を守らなくてはならない3位と失うものは何もなく捨て身で挑んでくる4位以下のチームとの間には、メンタル面にも違いがあるだろう。だが、福岡に迷いはない。これまでと同じように目の前の一戦に勝つことだけに集中し、リーグ戦を駆け抜けた自信を胸に、しかし相手を尊重して、謙虚に、チャレンジャーとして戦う構えを見せる。
「自分たちの目標はJ1昇格。最後まで、全てが終わるまで、この仲間と監督、コーチングスタッフと一緒に戦って、最後に目標を掴み取りたい。受け身にならずに、いつも監督が言っているように、謙虚に戦うということを頭の中にしっかりと入れて臨みたい」(城後)
J1昇格まであと2勝。福岡は全ての想いを胸にプレーオフに挑む。
[文:中倉 一志]
1957年、福岡県生まれ。北海道大学卒業後、某生命保険会社の総合職として勤務したが、サッカーへの想いを捨てきれずにフリーライターに転身。生まれ故郷の福岡にこだわり、アビスパ福岡を徹底して追いかける日々を送っている。