コラム
2015/2/20(土)20:26
佐藤 寿人(広島) エースを輝かせた揺るぎない信頼関係【クローズアッププレーヤー】
前半からニアサイドは、十分に警戒されていたという。
「相手のDFにニア来るよ、ニア来るよって、ずっと言われてて。でもたとえ警戒されていても相手にとって一番危険なのはニアなんで。どれだけ危険な位置に入っていけるか。そこでタイミングを合わせてボールを引き出せるかどうか。それが一番だと思っています」
じつに佐藤 寿人らしいゴールだった。後半立ち上がりの51分、右サイドで高い位置を取った塩谷 司がボールを受けると、佐藤は鋭い動き出しでゴール前へと飛び込んだ。塩谷のシュート性のクロスに懸命に足を延ばし、左足でわずかに触れると、G大阪ゴールへとボールを押し込んだのだ。
「ああいう形がなかなか少なくなってきているけど、(ニアで合わせるのは)自分の特徴でもあるので、そういったものをこの試合で出せたのは良かったと思います」
前半はほとんどチャンスがなく、得点直後に交代したため、これがこの日の唯一のシュートシーンだった。少ないチャンスを確実に仕留め、チームに歓喜を呼び込む。まさに、エースの仕事である。
昨シーズンJ1通算最多得点記録に並ぶ157ゴールを達成した佐藤がJリーグ史に名を刻む偉大なるストライカーのひとりであるのは間違いない。しかし今シーズン、長年、君臨してきた広島のエースの座が安泰というわけではなかった。昨シーズンブレイクを果たし、リオ五輪予選でも活躍した浅野 拓磨の急成長があるからだ。
佐藤か浅野か。広島の1トップを巡る争いは、サッカーファンにとって興味深いトピックだろう。しかし、佐藤はいたって冷静だ。培ってきた経験値、確固たるゴールへの信念、そして、なにより日々の積み重ねこそが、佐藤のスタンスを揺るぎないものとしているのだ。
ゴールを演出した塩谷は言う。
「あの形は何度も練習してきたし、シュート性のクロスをディフェンスとGKの間に入れるのは、ずっと寿人さんに求められてきたもの。練習でもなかなか合わなかったんですけど、この舞台で決めてくれたのはさすがとしか言いようがない」
一方の佐藤は、塩谷に感謝の言葉を忘れない。
「シオが移籍してからずっとやってきたこと。まあ、僕が言うのもなんですけど、凄く上手くなってますね(笑)。塩谷さまさまですよ」
長年かけて築いてきたチームメイトとの信頼関係は、決して揺らぐことはない。佐藤を信じてパスを送る。仲間を信じてゴール前に走り出す。その関係性が保たれる限り、今年も佐藤は多くのゴールを生み出していくはずだ。
[文:原山 裕平]