明治安田生命J1リーグでは2015年より、選手の走行距離、走行スピード、位置情報などのトラッキングデータを取得している。今回はそれらのデータから特徴を読み解き、各チームの動きや走りに関する特色を紹介していく。
※第26節終了時点(2023年9月3日時点)のデータを使用
●走行距離/スプリント回数
上表は現在のJ1順位表の並びに1試合平均の走行距離とスプリント回数を掲載したものである。成績下位に走行距離の多いチームが目立つが、神戸、横浜FM、名古屋のTOP3はいずれもリーグ平均より多い走行距離を記録し、もっとも少ない福岡は8位に位置するなど、それぞれのチームスタイルによる違いであることが読み取れる。
スプリント回数に注目すると、3位の名古屋がもっとも多い回数を記録している。攻撃時のスプリント回数も1位となっており、鋭いカウンター戦術を中心に勝点を積み上げてきた今季の名古屋の戦術が、この数字からも見て取れる。上位チームは軒並み攻撃時のスプリント回数が多い傾向にあるが、C大阪は例外だ。比較的少ないスプリントで攻撃を行い、クロスからの得点を得意のパターンとして好成績を残している。試合ごとの相手とのスプリント回数の差の平均では、鹿島が圧倒的な数字を残していることがわかる。スプリント回数も6位と多く、強度の高い走りで相手を上回る姿勢を体現しているといえる。
●急加速回数ランキング
上表は「急加速」に関するデータである。スプリントは時速25km以上の速さや、その速度域に達するまでの時間と距離も必要となるが、サッカーは短時間での加速、緩急をつけたプレーも重要なスポーツといえる。もっとも急加速回数が多いチームは、走行距離1位、スプリント回数でも4位の鳥栖。全体的に走力を重視したスタイルを取っていることがわかる。また、特徴的なのはスプリント回数が最下位ながら、急加速回数では3位につけている新潟だ。表には掲載していないが、攻撃時の急加速回数は1位であり、ゆったりとした丁寧なパス回しから、一瞬のスピードで相手守備網をかいくぐる戦術が数字として表れている。
選手別の急加速回数データを確認すると、名古屋の森下 龍矢が他を圧倒した数値でリーグ1位の回数を残している。ボールを落ち着かせた状態から一気に縦へ仕掛け、サイドを駆け上がるプレーは国内随一だ。その他、特徴的な選手として8位に位置する神戸の大迫 勇也が挙げられる。スプリント回数は全選手中99位、平均トップスピードは178位とどちらも高くないが、機を見た急加速を生かしたプレーを見せ、トップスコアラーとしてリーグをけん引中だ。
●裏抜け数ランキング
続いては「裏抜け」に関する選手のランキング。相手守備陣の最終ラインを攻撃側の選手が時速14km以上の速度で超えたオフザボールの動きを「裏抜け」と定義している。これにより、ボールを中心としたプレー情報だけでは表し切れない傾向を知ることが可能となる。裏抜け数で1位となったのは札幌の浅野 雄也。自慢の快足と、絶妙なタイミングで飛び出す攻撃センスの高さを生かして多くのチャンスを創出している。90分換算でも高い数値を残し、リーグ屈指の「ラインブレーカー」であることが数字でも裏付けられる。また、「裏抜けがうまい選手」として定評がある浦和の興梠 慎三も90分換算で多くの裏抜けを記録しており、今季もその武器は衰えを見せていないことがスタッツに表れている。
近年はサイドバックの積極的な攻撃参加もスタンダードな戦術のひとつとなっている。サイドバックでの出場選手に限定した裏抜け数では、浦和の酒井 宏樹が唯一100回を超えている。5位にはチームメイトの明本 考浩もランクインしており、浦和のチームスタイルが表されている結果といえるだろう。
●ハイプレス試行率ランキング
上図は、相手の攻撃機会に対してハイプレスを行った割合(ハイプレス試行率)のランキングである。ハイプレス試行率1位は横浜FMで、続いて鳥栖が2位の数値となっている。ハイプレスをかわされた際に相手にシュートまで持ち込まれた割合を被シュート率としているが、この2チームは被シュート率が高くなってしまっており、ハイプレスで奪えなかった後の守備に課題を抱えているといえる。守備成功はハイプレス状況時のプレーから5秒以内に相手の攻撃が終了し、守備側チームの攻撃に切り替わったケースをカウントしている。その守備成功率の1位は広島で、広島は被シュート率も低く抑えている。京都、浦和、札幌も守備成功率と被シュート率の両方で結果を出しており、ハイプレス守備を確立させているといえる。
文章/データ提供:データスタジアム株式会社