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コラム

川端 暁彦の千態万状Jリーグ

2017/4/24 17:04

2位浮上の横浜FC、炙りの指揮官率いる「ダークホースの本命候補」(#54)

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「ダークホースの本命候補」。奇妙な日本語が頭に浮かんできたのは、まさに試合中だった。なんとも意味不明なフレーズではあるのだが、現状の横浜FCの立ち位置を表すのには、意外に適切な言葉かもしれない。

全体の5分の1強に当たる第9節までを消化した明治安田生命J2リーグにおいて、横浜FCの順位は上から2番目の好位置となった。もっとも、1位・東京Vから15位・千葉までが連勝と連敗で順位逆転の可能性がある勝点6の範囲に収まる混戦模様。これは千葉の新助っ人FWラリベイが「本当に力が拮抗しているリーグ」と形容していたとおり。全体的な底上げが進む中で、本当にどこが勝ってもおかしくないリーグになりつつある。そう遠くないうちに、近年の明治安田生命J1リーグのような「どこが落ちてもおかしくないリーグ」までいきそうな予感すらある。

混戦を極めるJ2において、一際印象的なパフォーマンスを見せる横浜FC。千葉戦での圧勝劇はチームの地力を感じさせるものがあった
混戦を極めるJ2において、一際印象的なパフォーマンスを見せる横浜FC。千葉戦での圧勝劇はチームの地力を感じさせるものがあった

そんな混戦リーグの中で、横浜FCが印象的なチームパフォーマンスを見せながら、徐々に存在感を増してきている。前節・千葉戦では、前半から相手の攻勢を受ける「最悪に近い内容」(MF佐藤 謙介)ながら、後半から攻勢に転じて4-0の圧勝を収めてみせた。本当に強いチームは流れが悪いときに強さを出せるもの。前半の劣勢を水際のディフェンスで個々が奮戦してしのぎ、ハーフタイムの戦術的修正から一気呵成の圧勝劇につなげた流れは、単純に寄り切るようなゲーム以上に、チームの地力を感じさせるものだった。

チームの指揮を執る中田 仁司監督は55歳のベテランであり、横浜FCの監督となるのは3シーズン目であり、名古屋監督も1回務めている。ただし、シーズンの開幕から指揮を執るのが今年が初めてという少々異色のキャリアの持ち主である。「今まではいつも途中から。しかも(下部リーグへ)落ちそうになってからだったからね」と笑って過去を振り返りつつ、前シーズンから引き継ぎ、キャンプからチームの指導にあたったことで「今回は土台から作っていけている」喜びと手ごたえを感じていると言う。

今季は開幕から指揮を執る中田監督。クラブの強化育成を担当していただけに、チームのことは誰よりも把握しているだろう
今季は開幕から指揮を執る中田監督。クラブの強化育成を担当していただけに、チームのことは誰よりも把握しているだろう

監督就任前はクラブの強化育成テクニカルダイレクターであり、選手たちは中田監督が選んで連れてきているという流れがあるのも強み。自分が選んだ選手たちであり、「どんな選手かはみんな分かっている」状態からのスタートだから、普通に就任する監督よりもその点では少々アドバンテージもあったかもしれない。

選手たちに対しては「俺はウソをつく気はない。だから厳しいことも言うよ」と宣言。実際、時には「2、3日は顔も見たくなくなるであろうくらいの相当キツい言葉」をぶつけることも辞さずに接してきたと言う。自然と“怒られ役”のようになってしまった選手も出てきたそうで、その代表格は田所 諒。中田監督にとっては(ユース部門の責任者だった)C大阪U-18時代から知る選手でもあり、厳しい言葉をぶつけて成長を促してきた。そんな田所が今季は不動の左サイドバックとして欠かせぬ戦力となっており、「本当に良くなった。怒られたことをどんどん吸収しながら、すっかり成長してしまって、気付くと全然(田所を)怒れていないんだ」と指揮官が少し寂しそう(?)に語るほど。かつて柿谷 曜一朗(C大阪)を徳島で蘇生させた指導者の手腕は、横浜でも健在のようだ。

そんな中田監督に指導され、今や欠かせぬ存在となった田所。育成に携わった中田監督の確かな手腕は健在だ
そんな中田監督に指導され、今や欠かせぬ存在となった田所。育成に携わった中田監督の確かな手腕は健在だ

中田監督はクラブを寿司屋にたとえて、「(横浜FCは)古いネタをどんどん見切って、新しくて高いネタを次々に仕入れてやっていくような店じゃない」としつつ、「でもネタはやり方次第、組み合わせ次第でうんと輝くと思っている」と続ける。そして監督やコーチは醤油やガリ、あるいはバーナーだと言う。

「たとえば、カズ(三浦 知良)に対して何のサポートもしないで、ネタそのままに出したら厳しいかもしれないね。でもじっくり炙ったうえで、もみじおろしを添えてあげれば、これがまた美味いんだ」(中田監督)

J2の序盤戦を大いにかき回した“ダークホース”。横浜FCに貼られる評価はまだそのくらいだろう。ただ、その域にとどまらないかもしれない。実際に試合を観た人であれば、そんな可能性を感じ始めているのではないだろうか。千葉戦前、中田監督は「目標は優勝と言っているんだから。こんな試合数で一喜一憂しているようでは、先はないよ」と笑っていた。自ら「年輪の力。それだけ」と語る豊富な経験を持つ“バーナー”に炙られたチームがどこまで伸びていくか。ファンにとっては、何とも楽しみなシーズンとなりそうだ。