チェアマンになって大きく変わったことの一つはメディア関係の方々との接点が増えたことだ。時に緊張もするし、構えもする。しかし、意気投合することもあれば、多くのことを学ぶ機会であるのも事実だ。
天童市にあるモンテディオ山形の練習場やクラブハウスを訪問してから仙台に移動して山形・仙台エリアのメディア関係者とお会いした際のことだ。フリーライターの頼野 亜唯子(よりの あいこ)さんとお会いした。頼野さんは、もともと旅行雑誌のライターだった頃、ベガルタ仙台の特集を担当したことが縁でサッカーライターになったのだ。東北つながりということもあり、今ではベガルタ仙台だけでなく、モンテディオ山形も担当しているそうだ。名刺交換をした際に、頼野さんから「サッカーと将棋は相性がいいのです。」という話を聞いた。私が先ほどまで滞在していた天童市は、将棋の駒の生産地として有名なのは知っていたので、「そうですよね。」と軽く受け流す返事をしてしまったのだが、頼野さんから聞いた話は意外なものだった。
頼野さん曰く、「将棋はサッカーと非常によく似ている」のだそうだ。私は将棋をしないのでその意味がよく分からなかったのだが、よくよく聞いてみると将棋には「守りを固めてカウンターを仕掛ける」戦術もあれば、「サイドからピンポイントでクロスを上げる」戦法もあったりするのだという。
さらに頼野さんから、「ナリキン!」というサッカー漫画を紹介された。将棋の戦略を余すところなく活かしたサッカー漫画だという。私は、頼野さんとの会話の後もしばらく漫画のことが頭から離れずにいた。そして、 ついには6巻をまとめて購入してしまった。
ホーネット福岡というプロチーム(ちなみにホーネットは「スズメ蜂」の意味。)を舞台に繰り広げられる作戦はこんな感じだ。
まずは、ホーネット福岡は「矢倉囲い(やぐらがこい)」の陣形で守りを固めるのだが、矢倉囲いはサイドからの攻撃に弱いので「居飛車(いびしゃ)」 戦法で脇を固め、隙があれば「棒銀(ぼうぎん)」戦術でカウンターを仕掛けるのだ。しかし、相手のサタン鳥栖は矢倉囲いで守る相手に有効な、破壊力抜群で波状攻撃を特徴とする「雀刺し(すずめざし)」攻撃で応酬して来るのだ。
将棋が分からない人には何のことだか、さっぱり分からないと思うが、これが、漫画を読むと意外と将棋とサッカーの共通点が見えてきたりする。ピッチを細分化したうえで、 選手の個性を見極め、先を読みながら戦術を組み立てていくサッカーの監督の思考回路は、まるで棋士そのものと重なるではないか。
先日のキリンチャレンジカップ・対キプロス戦では、SAMURAI BLUEの右サイドバック内田 篤人が得点を挙げた。彼の姿は、将棋でいえば飛び出したら戻らず、裏を狙われやすい「香車」とは違い、攻守のスプリントを繰り返し、相手陣内に入ると竜に変わり自在に攻撃参加もする「飛車」のように見えてしまう。
頼野さん、サッカーの新たな面白さを教えてくれてありがとう。そしてスポーツとしての将棋の側面もとても興味深かったです。将棋ファンの方にも、ぜひスタジアムに来て欲しいものです。
頼野さんとお会いした数日後に福岡に出向いた。「雁の巣レクレーションセンター球技場」でアビスパ福岡の練習を視察したのだが、一生懸命トレーニングに励む選手たちの顔を見て、思わず将棋の駒が浮かんでしまったのはご愛嬌ということにしていただきたい。