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コラム

川端 暁彦の千態万状Jリーグ

2017/1/18 10:50

新たなスタートを切るJリーグが高校サッカーから学ぶべきこと(#51)

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第95回全国高校サッカー選手権大会が12月30日から1月9日の日程で関東各地にて開催された。決勝戦では村井 満チェアマンが選手たちに優勝旗などを渡す場面も観られたため、「なんでチェアマンが?」という疑問を持った方もいるそうだが、村井氏はJリーグのチェアマンであると同時に日本サッカー協会の副会長でもある。会長不在ならば、その職をこなすのは別段おかしなことではない。

FC東京への加入が内定している青森山田の廣末。これまでもたくさんの選手が高校サッカーからJリーグに巣立っていった
FC東京への加入が内定している青森山田の廣末。これまでもたくさんの選手が高校サッカーからJリーグに巣立っていった

もっとも、高校サッカーとJリーグという中には水と油の関係性であるかのように解釈する向きもあるので、そうした違和感を覚えた人もいたのかもしれない。この大会から巣立っていった選手が数え切れないほどJリーグで活躍し、今大会からも11名が来季からJリーグ入りするのだから、この二つを相容れないものと見ること自体がおかしな話ではあるのだが。

一方で、同じ「サッカー」というスポーツの大会ながら、明確に違うものもある。客層だ。今年も浦和美園駅から埼玉スタジアム2002へと歩を進める中で特に感じたのだが周りを歩く人々の色はJリーグの試合とは明らかに異なり、日本代表戦ともまた違う。年齢層がグッと低いし、初めて埼スタに来たといった雰囲気の方も多い。そもそも「スタジアムでサッカーを観る」ということ自体が初めてという方も結構いたのではないだろうか。

高校サッカー選手権はそこから出てくる「選手」にばかり目線がいってしまうが、潜在的なサッカーファンの掘り起こし、耕していくという効果も少なからずある。「学校」や「郷里」というくくりの中で「サッカー」に対しては大して興味のなかった層もスタジアムへ足を運んでくる。そこから一足飛びにサッカーファンになるかと言えば別問題だが、次にスタジアムへ行きたいと思ったとき、そういう誘いを受けたときのハードルは自然と下がることだろう。

新たなサッカーファンを開拓する貴重な場所になっている高校サッカー
新たなサッカーファンを開拓する貴重な場所になっている高校サッカー

入口は多ければ多いほどいいわけで、Jリーグとこの大会の協調というのはもっとあってもいいようにも思う。しばしば起きているJリーグの試合と選手権都道府県予選決勝が日程的バッティングしている問題も、もう少し調整できるはず。ある年などは自分が選手権予選の県決勝を観ているまさにその時間にJ2の試合が隣のスタジアムで行われていた。せめて時間だけでもズレていれば「ついでに観ていく」という選択肢も生まれたはずで、これは何とももったいなかった。もちろん放送の都合などもあるので必ず調整できるわけでないことは百も承知しているのだが、努力自体はもっとあっていいのではないだろうか。

高校サッカーはJリーグでプレーしていた選手たちに多様なセカンドキャリアを提供しているという一面もある。優勝した青森山田高校では、かつてC大阪や札幌で活躍した千葉 貴仁がコーチとして辣腕をふるっていたし、聖和学園高校の加見 成司監督(元名古屋)のように地道にチームを築いてきた指揮官もおり、全国各地にそうした指導者はひしめいている。

Jリーグのアカデミー(ユース組織)と高校サッカーの競合を問題視する人もいるが、Jクラブの存在に刺激を受けながら高校サッカーもこの20年で大きく変わってきた。優勝した青森山田はそうした新世代の指導を象徴するようなチームだが、黒田 剛監督はチームを預かってから22年をかけ、コーチングスタッフの体制やグラウンド作り、中等部からの一貫指導といった体制を整えてきて、今日に至って本当に強いチームを作り上げてみせた。

青森山田の黒田監督は22年をかけ、今日に至る強いチームを作り上げた
青森山田の黒田監督は22年をかけ、今日に至る強いチームを作り上げた

では、Jのアカデミーに22年間チームを預かるような体制があるかと言えば、これはまるでないのが現実だろう。2011年から始まった高円宮杯プレミアリーグを通じ、青森山田は前年度の反省を翌年にフィードバックする作業を繰り返しながら強化を進めた。それは黒田監督に継続してチームを預ける体制があったからだが、この当時のリーグに参加していたJクラブの11チームの内、現在も同じ監督というチームは「ゼロ」。たった6シーズン前だが、3人・4人と監督交代を繰り返しているチームもある。対して高校サッカーの9チーム中6チームが同じ監督である。

もちろん、高校サッカーには高校サッカーの課題もある。ただ、少なからぬ数のJクラブのフロントが本来じっくり腰を据えてやるべき育成の仕事に対して短兵急な「成果」を求めるばかりになってはいないかという懸念は尽きない。あるいはそもそも、腰を据えて育成に取り組む志を持った指導者を登用しているのかという問題もあるだろう。育成年代の監督は単なる「ポスト」ではない。高校サッカーはこの20年、Jリーグから多くの刺激と学びを得て、そこで育った人材も招きながら進歩してきた。2017年、新たな年を迎えて新たなスタートを切ることになるJリーグだが、逆方向の「学び」も、もう少しあってもいいのではないだろうか。