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コラム

Jリーグ副理事長 原博実が試合解説“イイ時間帯ですね。”

2016/12/14 12:00

明治安田生命Jリーグチャンピオンシップ決勝の振り返り(#13)

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明治安田生命Jリーグチャンピオンシップ(CS)は、アウェイゴールで上回った鹿島アントラーズが、浦和レッズを下して2009年以来8度目となるリーグ王者に輝いた。今回は熾烈を極めたこの決勝の2試合を局面、局面を切り取りながら、勝敗を左右したプレーを振り返る。

■鹿島のハイプレス
まず、鹿島の戦い方をピックアップしたい。この2試合に共通していたのは、前線からハイプレスを仕掛け、浦和の持ち味であるパス回しを封印しようとしていたこと。後ろでじっくりとパスを回してリズムを作り、前の5人へ縦パスを入れるというのが浦和の特徴の一つだけど、鹿島はその特徴を消すべく、浦和の最終ラインへ圧力をかけ続けていた。鹿島の選手全体が連動したハイプレスは見事だったと思う。浦和はいつものようにボールを回しリズムを作る事ができず、結果、浦和らしいサッカーというものが終始できずに終わってしまった印象がある。

■鹿島のボランチの位置
一方、第1戦と2戦で変えていた部分もある。第1戦は守備の際、永木 亮太が柏木 陽介にマンマーク気味に対応し、パスの出所を封じるとともに、小笠原 満男が最終ラインに入って、2シャドーをケアしていた。攻撃時に4-1-5となる浦和に対して5バックとなり数的同数を確保するこのやり方は、勝利を収めた1stステージの対戦でも採用しており、同様の対策を鹿島は敷いてきた。

ビハインドを負った第2戦では、小笠原は最終ラインにまで戻らずに中盤の位置でのプレーを保っていた。これはもちろん2点が必要な状況であり、相手に合わせるというよりも、4-4-2のシステムを保って、自分たちからアクションを起こそうというものだったと思う。2試合ともに同様のスタイルだった浦和に対し、鹿島は第1戦と第2戦で戦い方を変えて、浦和を上回ろうとする姿勢を見せていた。

■PK時の両者の心理
第1戦の決勝ゴールとなったPKの場面には興味深いシーンがあった。キッカーを務めた阿部 勇樹はまさに名前の通りに勇気をもって真ん中に蹴りこんだ。この大一番でGKは必ずどちらかに飛ぶという確信があったのだろう(飛ばないで決められた時のGKの心理を考え)。それでも真ん中に蹴るというのは簡単なことではないし、低いボールであればGKの残り足に当たって弾かれる可能性もあったが、しっかりと真ん中の上部を狙って蹴りこんだ。GKとの駆け引きを制したメンタルと確かな技術。阿部の能力の高さを示した一撃だったのは間違いない。

■運命を分けるビッグプレー
第2戦でも先制したのは浦和だった。興梠 慎三の見事なボレーだったけど、その前の段階で鹿島の対応に隙があった。

きっかけとなったのはスローイン。この時、永木と山本 脩斗のマークの受け渡しが上手くいかず、高木 俊幸にサイドのスペースを使われてしまった。結果、センターバックの昌子 源が外に引っ張り出される事になり、手薄となったゴール前でやられている。第1戦では、中盤が最終ラインにまで戻るやり方だったけど、第2戦では中盤が最終ラインにまで戻らないという約束事があったのか、この場面では山本に任せた永木と、永木が付いてくるだろうと思っていた山本との意識の乖離があったことが想像つく。その直後にも小笠原が武藤の対応を山本に任せて、致命的なピンチを招いてしまったシーンがあった。これも同様に鹿島の左サイドでのマークの受け渡しのミスが原因だった。

もしこのシュートも決まっていれば、そのまま敗戦に追い込まれていたかもしれない。そう考えると、このシーンこそが勝敗を分けた分水嶺になったと思うが、よく見ると武藤に抜かれてピンチを招いた昌子の素早い戻りだけでなく、永木も全速力でゴール前に戻ってきて、スライディングでブロックを試みているのが分かる。

このふたりの対応があったからこそ、武藤は角度がない位置だったにもかかわらず、クロスではなくシュートしか選択肢がなかった。際どいシュートではあったにせよ、入る確率は決して高くなかった。もし、昌子、永木のどちらかでもあきらめていたら、クロスを入れられて追加点を許していたかもしれない。この2人の体を張ったタックルこそ、まさに運命を分けるビッグプレーだったと思う。

■鹿島の2点に隠されたドラマ
鹿島が同点に追いついた場面にも、じつは運命を分かつプレーがあった。自陣でボールを奪った小笠原が前方にパスを出そうとしたところを、高木がスライディングタックルでこれを防ぐ。ところがそのこぼれ球が永木→ファン ソッコとつながり、そこからのフィードが遠藤康へとつながったのだ。仮に小笠原のパスがカットされずに通っていれば、タラレバの話ではあるものの、この同点ゴールは生まれなかったのかもしれない。

またゴールの場面では、金崎 夢生の果敢なダイビングヘッドもさることながら、猛然とダッシュしてニアサイドに飛び込んでいった柴崎 岳の動きも見逃せない。ニアに相手の意識を集中させたからこそ、ファーの金崎はフリーとなった。決して目立ちはしないけど、柴崎が見せたファインプレーだったと言えるよね。

そして鹿島が奪った逆転ゴールの場面。ここにも運命のいたずらと言えるようなドラマがあった。鈴木 優磨からボールを奪った浦和がカウンターで鹿島ゴールに迫る。前線でボールを受けた柏木 陽介のパスから、攻め上がってきた阿部がミドルシュートを放つかと思われたシーン。ところが阿部はシュートを打たずにパスを選択。これが相手に奪われカウンターに転じられるところだった。なんとか奪い返したものの、再び阿部のパスが狙われてカウンターを浴びてしまう。これが鈴木のPK奪取とつながった。

ミスを犯した鈴木が、自ら名誉挽回どころか、チームに優勝をもたらす決定的な仕事をこなしたところにこの一連のプレーのドラマ性が浮かび上がるが、浦和とすれば大事に行き過ぎ、シュートで終われなかったのが大きく響いた。もしかしたら阿部には、1-1でもタイトルを獲得できるという守りの心理が働いたのかもしれない。そうしたメンタルの部分がこのプレーの背景にはあったんじゃないかな。

■最後に日程の話しを
最後に、話しは少しそれるけど、CS決勝の前に韓国でAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝の第1戦を視察してきた。両者気迫のこもった非常に激しい試合内容で、ACL優勝への価値が高まってきているのだと改めて感じたが、仮に浦和がこのACL決勝に進んでいたら、11月19日(第1戦)と26日(第2戦)に行われたので、CS決勝と合わせるとハードな日程になっていたのだと考えていた。2ndステージ戦 最終節から1か月近くも空いてしまったことにはこうした事情があった。ちなみにCS決勝第2戦の笛を吹いた佐藤 隆治主審は、ACL決勝第2戦でもレフェリーを務めている。ハードスケジュールの中、2試合を通じて厳格なレフェリングをこなした佐藤主審の仕事ぶりに対しても、称賛を送りたい。

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