今季の明治安田生命J1リーグも残すは1試合となった。遥か西方のバーレーン王国に3週間ほど行っていた身としては完全に浦島太郎である。スカパー!オンデマンドを駆使して遅れを取り戻そうと努力しているが、J2も気になるお年頃のため、絶望的に時間が足りない。ともあれ、11月3日がJ1の最終節である。
とにかくこのタイミングが早い。昨季までならここからクライマックスだったはずだが、今季はもう2ndステージの優勝まで決まってしまっている。この狙いは何かと言えば、この直後に組まれている日本代表の11月シリーズ(FIFAワールドカップアジア最終予選2試合を戦う)でリーグ戦が分断されるのを避け、そのシリーズ終了後にチャンピオンシップを持ってくることで、より最終決戦たるチャンピオンシップを盛り上げるということにある。来季からは通年リーグのみとなるので、これは最後のチャンピオンシップでもある(もっとも、2004年にも私は「最後のチャンピオンシップ」という原稿を書いた覚えがあるのだが……)。
この3週間、中東の島国バーレーンでバカンスを満喫していたわけではない。19歳以下のアジア王者を決するAFC U-19選手権を取材し、日本の初優勝という快挙を見届けてきた。Jリーグの未来を担うべき若武者たちの躍動は純粋に嬉しかったし、また頼もしくもあった。とはいえ、この勝利をもって「日本の育成がうまくいった」と断じるのは時期尚早を通り越して、ナンセンスに近いだろう。
無論、チームとしてうまく戦ったのは間違いない。ただ、日本サッカー協会の西野 朗技術委員長が「一発勝負の結果だけで(育成の成功や失敗を)言うのはどうか」と語ったように、妙な結果至上主義に陥ることは、勝った今だからこそ厳に避けておきたい。敗北後の結果主義は謙虚さや改革マインドという美徳を招くことも大いにあるが、勝利後の結果主義は傲慢さや保守マインドの醸成を促しかねない。「勝った勝った」の万歳ムードは、大会後の3日間くらいでいいだろう。そろそろ切り替えるタイミングだ。
当然ながら、前回大会敗退からの2年間で断行された施策がすべて無意味だったということを言いたいわけではない。たとえば各クラブのU-23チームのJ3参戦を認めたことは、間違いなくU-19日本代表にとってポジティブに作用した。高卒1年目の選手が出場機会を失って試合勘不足に陥るのはこの年代の代表チームにおける常識のようなものだった。ただ今回はG大阪とC大阪の選手たちがトップチームでの出場機会に乏しい選手たちでありながら、パフォーマンスを落としていなかった。この点は大きかったし、異論も少なくなかったU-23チーム参戦を認めた英断の賜物だろう。
これは逆に言えば、トップチームで試合に絡んでいる選手の絶対数はまだまだ少ないということでもある。彼らが本当の意味でトップレベルの試合に出てきて、世界舞台で活躍し、そして前世代を上回る力を見せたときに初めて「育成の成功」は言える。現時点でそれを言ってしまうのは、やはりまだ早い。「チームとしての成功」と、より根本的な部分での「育成の成功」はリンクする部分こそあれど、決して同一のものではない。この二つは分けておかないと、大事なものを見誤ることになる。
帰国早々となる11月3日の最終節にU-19代表選手が出場するケースは恐らくまれだろう。チャンピオンシップで躍動する選手は出てきてほしいのだが(川崎FのMF三好 康児ら候補者はいる)、世代としての勝負は来季からということになるのかもしれない。ルヴァンカップには新たに東京五輪世代に該当する彼らの出場を促す規定が追加され、未来を担う彼らの雄姿をピッチで観る機会はより増えるはず。
5月には10年ぶりの出場となるU-20ワールドカップもある。世界舞台に彼らが出ていくことで、より明確に「育成の課題」も見えてくるだろうし、「育成の成果」もまたハッキリしてくるだろう。バーレーンでのアジア初制覇は紛れもない快挙だ。奮戦した選手たちのことは思い切り称えてあげたいとも思う。ただ、それによって何か大事なことが忘れられてしまうのだとしたら、大いに問題だ。そのことはしっかり肝に銘じつつ、今季残り試合、および来季のリーグ戦やカップ戦において、新世代が躍動するのを楽しみに待ちたい。