10月15日(土)の埼玉スタジアム2002。両者一歩も譲らなった激闘はPK戦にまでもつれ込んだ。初代ルヴァンカップのチャンピオンとなった浦和レッズ。今回はそのルヴァンカップ決勝について振り返っていきたい。
■浦和のスターティングメンバー
前回のコラムで触れたように、浦和がどういうメンバーで来るかがこの試合のポイントだと見ていた。みなさんご存知の通り、代表帰りの3選手に加え、故障を抱えていた阿部 勇樹もスタメンで起用してきたよね。状態の良かった準決勝のメンバーではなく、いわば“鉄板のスタメン”だった。ペトロヴィッチ監督らしい起用法と言えたけど、タイトルから遠ざかっていたことによるプレッシャーだったのか、13年ぶりのリーグカップタイトルを目の前にし、チーム全体として堅さがあったように思えた。いつもの浦和らしさみたいなところが少なかったように感じる。
■G大阪の序盤の姿勢
一方のガンバ大阪は昨年の決勝で受け身に回って鹿島アントラーズに0-3と完敗を喫したことに加え、2週間前のリーグ戦で浦和に立ち上がりの隙を突かれたのをきっかけに0-4と敗れている。その反省を生かしたのだろう。次の映像でも見ても分かるけど、試合開始からハイプレスを仕掛けて、主導権を握ろうという姿勢が見えた。こうして圧力をかけていったことで、浦和のパス回しを封じ、リズムを作らせない戦い方が功を奏していたように思う。
遠藤 保仁をトップ下にして、今野 泰幸と井手口 陽介の2ボランチを採用したのも良かったよね。この2人が広範囲をケアすることで、浦和の特長であるサイドアタックも上手く封じることができていた。17分の先制点も、いい形でボールを奪って鋭いカウンターから決めたもの。G大阪にとっては狙い通りの展開に持ち込めていたと思う。
■勝負の綾
この試合、ポイントとなる勝負の綾が2つあったと思う。1つ目はアデミウソンの交代のタイミング。66分という早い段階で長沢 駿と代えたわけだけど、これが浦和の対応を楽にさせてしまった気がする。先制点の場面を見ても分かるように、アデミウソンにはスピードがあり裏へ抜ける一発もある。浦和としては、たとえアデミウソンに疲れがあったとしても「縦への一発」というカードをG大阪が持っていたほうが嫌だったと思う。
そしてもう一つは76分の浦和のコーナーキックのゴールに繋がる選手交代だ。コーナーキックのタイミングで浦和は高木 俊幸に代えて李 忠成を投入した。その少し前にも武藤 雄樹からズラタンに代わっていて、浦和には高さという武器が備わっていた。ゴールシーンを振り返って見ると、これにG大阪はやや混乱してしまった気がする。G大阪はコーナーキックをマンツーマンで対応しているけど、誰が誰に付くか、その役割分担の変更を強いられることになってしまったからね。
前半のコーナーキックの場面と比較してみればよく分かる。前半のコーナーキックの時は選手のマークが以下の通りだった。
興梠 慎三は今野 泰幸、
武藤 雄樹は藤春 廣輝、
槙野 智章は金 正也、
阿部 勇樹は米倉 恒貴、そして遠藤 航を丹羽 大輝がマークしていた。一方、李のゴール場面では、
興梠 慎三は井手口 陽介、
ズラタンは金 正也、
槙野 智章は今野 泰幸、
李 忠成は米倉 恒貴、
遠藤 航は丹羽 大輝がマークするという方法に代わっている。
同じ選手に付いたのは丹羽だけで、他の選手はすべて違う選手に対応する必要があった。結果的に途中から入ったズラタンがつぶれて、同じく交代で入った李がゴールを決めている。文字だけで見ると、李に付いた米倉がマークを外したということになるが、決して米倉だけの責任ではなく、チームとして上手く対応できなかったのが、問題だったと思う。その意味で、結果論だけど李の投入のタイミングは浦和にとってはベストだったと言える。
これは映像も載せるけど、交代の場面をよく見ると、李が「早く代えてくれ」と第4審判にアピールしているのが分かるよね。自分が決めたいという李らしさを象徴している場面だけど、浦和とすればキッカーを務める高木を残しておくという選択肢もあったはず。李もその予感があったから、アピールしたのだろうけど、結果的のこの主張がゴールにつながったわけだから、李のファインプレーとも言える行動だったよね。
■まとめ
浦和は決して良くない状態だったにもかかわらず、粘り強く戦って見事に13年ぶりのリーグカップタイトルを勝ち取った。一方、G大阪も相手の良さを打ち消しながら、一瞬の隙を突く戦い方で最後まで浦和を追い詰めた。終始、緊張感に包まれた好ゲームだったよね。
そんな素晴らしい試合だったけど、あえてひとつ、提言したい事がある。それは、少し映像でも見せるけど、両チームともにここぞという場面で時間をかけてしまったり、スピードダウンしてしまうプレーが見受けられたこと。もちろん一発勝負の試合でなかなかリスクをかけられない心理も理解できるし、疲れがあったことも想像がつく。それでも、ここが勝負どころという時には、一気にゴールにつながるような動きを示してほしい。
世界のトップクラスは、ここぞとういう場面では、必ずアグレッシブにゴールに向かうプレーを選択するよね。そういうプレーこそが、Jリーグをより魅力的なリーグにするために重要なことだと思うんだ。注目度の高い試合だったわけだから、もっとそうしたプレーを見せてほしかったという想いはあるよね。
最後にこの大会で採用されたアディショナルアシスタントレフェリー(AAR)についても触れておこう。延長後半のアディショナルタイムに呉屋 大翔が、あわやゴールかという惜しいシュートを放ったけど、この場面でもAARがしっかりと確認していたから、G大阪側から抗議もなかったし、PK戦の場面でも両サイドに立つことで、GKが早く動かないための抑止力となっていた。AARは天皇杯でも採用されるので、彼らの果たす役割にも注目していただきたい。