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2016/10/20 13:00

トラッキングデータから守備のスタイルを考察

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2015年から取得を開始したトラッキングデータによって、両チームの走行距離やスプリント回数をリアルタイムに計測できるようになった。また、試合中の全選手のポジショニングを記録しているため、移動距離やスピードだけではなくさまざまな角度からチームのスタイルを分析することができる。

今回は各チームの守備のスタイルのうち、「縦コンパクトネス」と「最終ラインの高さ」についてトラッキングデータから分析した結果を紹介する。それぞれの用語の定義は以下の通り。

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データ

なお、ボールがゴールラインの近くにある場合やセットプレーで始まる攻撃の場合などは、選手のポジショニングが偏ったものになるため、今回の集計からは除外している。

さて、明治安田生命J1リーグ 2ndステージ 第11節までのトラッキングデータから集計した各チームの「縦コンパクトネス」と「最終ラインの高さ」の平均値は、以下の通りとなった。

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まず、「縦コンパクトネス」の距離が最も短かったのは、ヴァンフォーレ甲府の25.8m。2位の柏レイソルよりも1m以上短く、最も長かった鹿島アントラーズとは実に5m以上の差となった。チーム全体で狭い陣形を保って守備をしていることがうかがえる数字である。

ただ、最前線に1人残して9人でブロックを作るという守り方もあるので、「この距離が長い=悪い」というわけではなく、あくまでスタイルとして見てほしい。

次に「最終ラインの高さ」が最も高かったのは、ジュビロ磐田の32.8m。こちらも2位の川崎フロンターレに1mの差をつけており、他のチームと比べると明確なスタイルの差が感じられる。

続いて、「縦コンパクトネス」と「最終ラインの高さ」の2つを以下のようにマッピングした。

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ヴァンフォーレ甲府が他のチームと大きく離れていて、「縦コンパクトネス」の距離が短く最終ラインが低いことが一目で分かる。逆に、鹿島アントラーズとヴィッセル神戸の2チームは位置が似通っており、「縦コンパクトネス」の距離が長く最終ラインが(やや)高いという傾向があることが分かる。

また、1試合ごとの数値からも興味深い傾向が見てとれる。

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上の表は、各チームの「縦コンパクトネス」を1試合ごとに計算し、「縦コンパクトネス」の距離が長かった上位10試合の数値と、その試合結果をまとめたものである。

試合結果を見ると、実に10試合中9試合で「縦コンパクトネス」の距離が長かったチームの「負け」となっている。「縦コンパクトネスの距離が長いと勝ちにくい傾向がある」と言えるかもしれない。

もう1つ、極端な例ではあるが、「縦コンパクトネス」の距離が短く最終ラインが高かった試合を見てみよう。「縦コンパクトネス」が25m以下かつ「最終ラインの高さ」が30m以上という条件にしたところ、該当した11試合の結果は以下の通りとなった。

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データ

勝敗の内訳としては6勝1分4敗ということで、単純に勝利に直結するデータとは言い切れない。一方で、上位5試合(全て「勝ち」)の中に昇格組のジュビロ磐田が2015年の年間勝点1位のサンフレッチェ広島と2位の浦和レッズを破った2試合が含まれていることは興味深い。チーム全体の意思統一とハードワークなしにはこの数字を記録するのは難しく、選手にとっても監督にとっても「プラン通り」のゲームであったことがデータにも表れているのではないだろうか。

(参考)
1stステージ 第2節 浦和レッズvsジュビロ磐田 監督コメント
1stステージ 第9節 ジュビロ磐田vsサンフレッチェ広島 選手コメント

このように、トラッキングデータを分析することによって、チームのスタイルや狙いの一端が垣間見れる。繰り返しになるが、これらの数値はチームのやり方次第で変化するものであり、試合展開や対戦相手との力関係にも影響されるため、単純に「~であるほど良い」というものではないことを強調しておきたい。

今回紹介した「縦コンパクトネス」と「最終ラインの高さ」はボールがないところでの動きがメインになるため、放送で試合を見ている際にはなかなか気づきにくい部分だが、スタジアムでJリーグを観戦する際にはこういった点にも注目すると、サッカーをより深く楽しめるかもしれない。

(文章/データ提供:データスタジアム株式会社)