10月8日から10日にかけて、全国各地でJユースカップの1回戦が行われた。1試合が16日に残っているため、32強中31強が出そろったことになる。
この大会はJリーグに加盟しているJ1~J3までの各クラブのU-18チーム(つまり高校生年代のチーム)に、各地域の予選を勝ち抜いた日本クラブユース連盟所属の4チームを加えた54チームにて争われる。方式は完全ノックアウト。いわゆる和製英語で言うところのトーナメント制で、負ければ終わりの一発勝負を重ねていく典型的なカップ戦だ。全国各地での分散開催となっている点を含めて、天皇杯をイメージしてもらえるといいかもしれない。
こうした大会で外せない魅力はやはり、ジャイアント・キリング。巨人を倒すべく、戦力的に落ちるチームが知恵と勇気をもって挑み、巨人もまた倒されまいとして工夫を凝らす。そもそも番狂わせの起きやすいサッカーというスポーツの競技的な特性も合わさり、カップ戦にはカップ戦ならではのダイナミズムがある。
とりわけ、普段の低いカテゴリーのリーグに属しているチームにとっては、その力をアピールする絶好機。毎年の試合後、「モチベーションは高いです」「本当に気持ちは入っていました」。そんなコメントを聞くことができる。そうした気迫と意欲を持つ下のカテゴリーのチームを迎え撃つ側も、これはこれで貴重な経験である。対策を練り込まれる中で、それを破る強さなり上手さなりが求められるからだ。彼らが将来、プロのステージに立ったとき、国内であれ、アジアであれ、当然こうした“非対称戦”を経験する可能性はあるのだから。
10月10日、ヴェルディグラウンドにて水戸ユースが東京Vユースに挑んだ試合は、そんな大会を象徴するゲームとなった。試合前の時点で水戸側の鼻息はすでに荒い。彼らの所属する茨城県1部リーグの日程はほぼ終わっており(未消化試合が一つ残っている)、実質的にはこの大会がチームにとってシーズン最後の戦い。3年生にとっては特別な思い入れがある試合である。主将のMF金井 亮太など東京Vの支部チームに在籍していた経験のある選手も複数おり、ヴェルディグラウンドはかつて憧れていた「特別」な場所である。「(1回戦の相手が)ヴェルディに決まった瞬間、『やってやろう!』と思っていた」(金井)。
水戸側は力関係に差があることを踏まえた戦術を採用し、この試合に臨んだ。クラブOBの樹森 大介監督が「普段は逆なんですが」と苦笑いを浮かべたとおり、県リーグではむしろボールを支配して押し込む立場。それだけに付け焼き刃とも言える作戦だったが、Jユース屈指の名門クラブを向こうに回してのアウェイマッチというシチュエーションが彼らに特別な闘志を与えていた。「(東京Vが)繋いでくるのは分かっていたので、練習からサイドは空けて真ん中を絞ることを徹底していた」(DF金塚 海)。
加えて大きかったのは、「日頃からトップチームとの練習試合を組ませてもらっていたこと」(樹森監督)。試合前には「いくら(東京Vが)強いと言ってもトップチームほどではないぞ」と言って送り出せた意味は大きかった。試合は徹底して東京Vの攻めを封殺した水戸が後半にMF瀧田 隆希のミドルシュート、DF出口 宙呂の見事な抜け出しからゴールを奪い、2-0の完勝。ジャイアント・キリングには違いないが、しかし偶発的な勝利という印象はない、見事な試合運びだった。
今年の高校3年生は関東近県や県内の遠隔地などから8名の寮生を集めるなど強化に取り組んできた世代。トップ昇格選手に加えて、大学でサッカーを続ける選手ばかりとのことで「4年後」の帰還を期待できる選手も少なくない。そうした世代が最後の大会でインパクトを残しつつあることは、クラブにとっても大きな意味のあることに違いない。
今年の1回戦はV・ファーレン長崎U-18がプリンスリーグ東北を制したベガルタ仙台ユースを土俵際まで追い詰めるなど、後発のJクラブの善戦が目立った。どうしても「世界に比べると……」などと言われてしまいがちなJクラブのアカデミーだが、浮き沈みはあれども徐々に裾野を広げながら地盤を強くしていっていることを感じることも着実に増えている。育成部門の成熟には10年、20年単位での継続した投資と我慢が絶対に必要で、一朝一夕での成果を求めるべきでもないだろう。
当然ながら、経営とのバランスを含めての難しさは絶対にある(それは日本に限らず、欧州でもあることだ)。ただ、全国各地、50を超えて大きく広がったJクラブとそのアカデミー組織が適切な投資を受けて力を蓄えていくことは、地域のレベル向上にも繋がり、やがてはよりハイレベルな選手を輩出していくことにも結びつく。確かに全体を見渡せば「まだまだ」の点も多く、改革も改良も必要だろう。ただ、決して前に進んでいないわけではない。Jユースカップの1回戦で起きたジャイアント・キリングを観ながら、そんなことを思った。