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コラム

川端 暁彦の千態万状Jリーグ

2016/9/28 12:49

すべては子どもたちの成長のために。JFAとJリーグが狙う指導者の国際感覚醸成(♯45)

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来年のFIFA U-17ワールドカップに向けたアジア最終予選を兼ねるAFC U-16選手権の準々決勝で、U-16日本代表は同UAE代表を1-0で撃破。4強進出を決めるとともに、世界切符も獲得してみせた。試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、選手たちは「今まで体感したことのない気持ちがあふれてきた。鳥肌が立ちました(DF喜田 陽=C大阪U-18)と喜びを爆発させ、4年ぶりの世界大会出場決定に沸き立った。

FIFA U-17ワールドカップへの出場を決めたU-16日本代表
FIFA U-17ワールドカップへの出場を決めたU-16日本代表

その様子をスタンドから見守っていたのが、JFA/Jリーグ協働プログラムの一環として日本から現地インドへと赴いていた22名のJ各クラブアカデミー(育成組織)のスタッフたち。彼らは「世界を懸けた真剣勝負を現地で観て感じてほしい」(Jリーグ強化アカデミー部・茂木 剛史氏)という狙いを込めて、派遣されてきた。

その一人にC大阪のU-15チームで監督を務める大畑 開氏がいる。04年から10年以上にわたってC大阪の育成に関わってきた“叩き上げ”で、U-15監督就任して3年目を迎える。今大会にはC大阪から6名の選手が代表として参加。直接の教え子も5名いるという中で、「ついつい何か(コーチングを)したくなってしまう」と笑いつつ、「アジアの予選を現地で観るのは初めて。なかなかできない経験をさせていただいています」とピッチに熱視線を送っていた。

育成年代の各年代別のリーグ戦が整備される中で、一つの弊害として指摘されるようになっているのが、「“ヒマな時期”がなくなった」ということだ。単純にオフシーズンという意味ではなく、毎週末に試合が行われることが当たり前になる中で、指導者はその準備に追われるようになり、学ぶ期間を作ったり、視察に出かけたりすることが以前より難しくなっている。チームでの海外遠征もリーグ戦の日程の合間を縫ったり、関係各所との調整力が求められるなど、なかなか難しくなっている一面がある。年代別日本代表合宿や国際大会などに行っても、各クラブの指導者が視察に来ていることは珍しいのだが、それもスケジュール表を見るだけで難しいのだなということが分かる。

「自分の目で観て感じてもらいたい」。Jリーグ原 副理事長は、Jクラブの育成部門に国際感覚を植え付けていく重要性を唱えた
「自分の目で観て感じてもらいたい」。Jリーグ原 副理事長は、Jクラブの育成部門に国際感覚を植え付けていく重要性を唱えた

Jリーグの原 博実副理事長は、「現場のコーチがこういうところ(国際大会)を観に来ることがなかなかできない現状はある」とした上で、「現場のコーチがアジアを自分の目で観て感じてもらいたい。国内のJクラブアカデミー同士の試合だと、どうしても似たような試合になるが、国際試合は違う。先日の『2016 Jリーグ U-17チャレンジカップ』(イラン、韓国、南アフリカからチームを招待)でもそうだった。その辺りは本で学ぶだけでなく、実際にやってみて、観てみないと分からないところはある」と、実際に国際試合で肌を合わせることと、指導者を海外へ派遣することの両軸で、Jクラブの育成部門に国際感覚を植え付けていきたいという考えだ。

これは日本サッカー協会側にとっても願ったり叶ったりの部分。西野 朗技術委員長は「結局、代表チームだけでやろうとしていてもダメ」とした上で、「こういうアジア予選の試合を(Jクラブのアカデミーの指導者に)観てもらうことで感じてもらえれば。(課題や成果を)どんどん共有していきたい」とコメントし、あらためてJFA/Jリーグ協働プログラムの意義を強調していた。

こうした機会は単に「協会やJリーグ」から「個々の指導者」へという方向性だけでなく、指導者同士の交流の場という意味合いもある。C大阪U-15の大畑監督は「やっぱりクラブごとに色がある。違うサッカー観もある中で、(ディスカッションなどを通じて)いろいろと刺激になる」と言う。一方、FC東京強化部の宮沢 正史氏は「TVではなく生で試合を観ることで分かることは多い。(インドの環境面について)僕らも来て本当にビックリしたし、この中でやっている選手たちの凄さも見えた。チームの一体感も感じられて、『森山さんの作ってきたチーム』らしさというのもすごく感じて、とても勉強になった」とした上で、「他の指導者の方たちからもたくさん吸収して帰りたいし、(FC東京のクラブ内の)現場にしっかり繋げていけるようにしたい」と意欲を語った。

国際感覚を持ったJクラブの指導者を育てることは、国際競争力を持った選手を育てることにリンクしていくはずだ
国際感覚を持ったJクラブの指導者を育てることは、国際競争力を持った選手を育てることにリンクしていくはずだ

幸いにも世界切符を手にしたことで、来年はU-17ワールドカップという舞台を通じて「学び」を得るチャンスも出てくることだろう。教え子や身近に観ている選手たちが、国の威信を懸けて戦う国際舞台でどういう反応を示し、どんな課題を露呈し、どこが通用するのかを、Jリーグの現場の指導者や強化部門にいる人々が生で体感する意味は決して小さくない。

ここで得たものを国内の「日常」へいかに反映していくかは別の課題だが、少なくともアジア予選という場について「百聞は一見にしかず」(宮沢氏)であることを体感してもらえただけでも意味はある。すべては「子どもたちの成長のための施策をどうするか」(西野技術委員長)ということに尽きるわけで、こうした試みを重ねていく意義は決して小さなものではない。国際感覚を持ったJクラブの指導者を育てていくことは、国際競争力を持った選手を育てることに必ず繋がっていくのだから。