ホーム&アウェイによるノックアウト方式のカップ戦には、通常のリーグ戦とは異なる戦い方が求められる。負けたら終わりというメンタル的な厳しさに加え、ホームとアウェイの2試合をトータルで考えた戦略も必要だ。今回は、ルヴァンカップ準々決勝第2戦、横浜F・マリノスvs大宮アルディージャの試合を観戦したので、その試合を振り返りたい。
■第2戦に臨む両クラブの心理
ホームでの第1戦を2-1でモノにした大宮は、引き分け以上で勝ち上がれるという状況だった。しかし、0-1で敗れれば、アウェイゴール により敗退が決まってしまう。この状況を踏まえれば引き分け狙いの戦い方を選ぶ可能性も考えられたけど、大宮は序盤からアグレッシブな姿勢を見せていた。試合前に渋谷(洋樹)監督と話す機会があったんだけど「うちは引き分け狙いの戦い方はできないんですよ」と言っていた。その言葉通りに大宮は、あくまで勝って上に進むという戦い方を示していた。
一方の横浜FMにとっては「なんとか生き延びた」という感覚があったんじゃないかな。第1戦のスコアは1-2だったけど、内容的には4点、5点取られてもおかしくなかったからね。そうした試合だったにもかかわらず、失点を2つに抑え、しかもアウェイゴールまで奪ってみせた。第2戦を1-0で勝てばいいという状況に持ち込めたことが、彼らを勢いづかせていたように思う。
■心理を表したプレー内容
逃げ切るのではなく先に点を取ってより優位な状況に持ち込もうとした大宮と、まずは1点を奪って立場を逆転したいと考えていた横浜FM。そうした両者の心理状況が、立ち上がりから試合をヒートアップさせた要因だったと思う。
特に前半からチャンスを作っていたのは大宮のほうだったよね。前から積極的にボールを取りに行き、奪ったボールを素早く展開して横浜FMゴールに迫っていた。横浜FMも前線の伊藤 翔がよく動いて、なんとかボールを引き出そうと試みていた。前半から攻守が目まぐるしく入れ替わるオープンな展開になったように、勝利への執着心を前面に押し出したテンションの高い試合になっていたよね。
■スタジアムが生み出した効果
そうした両チームの心理だけでなく、この試合が盛り上がったのには外的要因も働いていたように思う。まずはスタジアム。ニッパツ三ツ沢球技場は、決してキャパシティが大きいわけではないけど、小ぢんまりとしている分、会場全体の一体感が感じられるスタジアムだ。ピッチが近いから、お客さんの反応も良かったね。反応が大きければ選手たちも乗ってくる。スタンドとピッチが一体化したことで、よりエキサイティングな戦いが生み出されたんじゃないかな。
■主審の西村さん
エキサイティングな試合が生み出された要因として、もうひとつ忘れていけないのはこの試合のレフェリング。笛を吹いたのは、西村雄一主審だったけど、際どい接触プレーに対してほとんど笛を吹かず、試合を流していたんだよね。見ていて、あまりプレーを止めない様に心がけているような感じだった。倒れるたびに笛が鳴っては、試合が途切れ途切れになって流れが失われてしまう。それでは観るほうも間延びするし、プレーの激しさも損なわれてしまう。
齋藤 学は何度倒されてもファウルをもらえないから、だったらとばかりに自らも激しくボールを奪い返しに行くシーンがあった。齋藤だけじゃなく、ピッチのいたるところで激しい球際の攻防が生まれていた。こういうプレーこそがサッカーの本質だよね。選手の意識が高まるし、お客さんも盛り上がる。
■齋藤学
齋藤に関して言えば、今の日本で彼以上にドリブルを仕掛けられる選手はあまりいないよね。映像見ると分かるけど、カイケの決勝点も、齋藤の仕掛けがきっかけだったよね。この場面では上手く周りを使ったけど、このようにひとりで行くのだけではなく、相手を引き付けて周囲を生かすプレーも出来るので、相手にとっては非常にやっかいな選手。ドリブルの切れはもちろん、シュート、パスの精度を上げてより多く得点に絡める選手になって欲しいと思っている。
敗れた大宮も悪くはなかった。主軸の家長(昭博)をはじめ、メンバーが変わったなかでも、多くのチャンスを作ったし、特に後半は1点を追いかける展開の中で、アグレッシブな戦いを貫いていた。マテウスもようやくフィットしてきて、今後につながる試合になったと思う。
だけど、そんななかでも横浜FMが逃げ切れたのは、ベテランの存在があったからだろう。とりわけ中澤 佑二は今なお横浜FMの最終ラインに欠かせない存在として、質の高いパフォーマンスを示していた。これまでに培ってきた豊富な経験値がこの重要な一戦でモノを言ったんだ。
■まとめ
スコアは1-0だったけど、終始テンションが高く、実に見応えのある一戦だった。両チームの勝利にかける想いが手に取るように伝わって来たし、それはタイムアップの笛が鳴った瞬間のエリク モンバエルツ監督のリアクションを見てもよくわかる。普段はあまり感情を表に出さないタイプの指揮官が、まるで優勝したかのように喜びを爆発させていた。2試合トータル、180分の戦いを経てつかんだ勝利なのだから、喜びも格別なんだろう。
冒頭に書いた試合に臨む両チームの心理や、ひとつの試合で生きるか死ぬかの醍醐味を味わえるのは、カップ戦ならではだよね。勝った横浜FMは準決勝でG大阪と、もう一つの山では浦和とFC東京が対戦する。いずれも質の高いタレントを備えた強豪クラブであり、意地とプライドがぶつかり合う激しい試合が期待できそうだ。リーグ戦ももちろん重要だけど、カップ戦にはカップ戦の魅力がある。その面白みを味わっていただくためにも、ぜひみなさんには、ルヴァンカップ準決勝の会場に足を運んでいただきたいですね。
JリーグYBCルヴァンカップ決勝は10月15日(土)13:05からフジテレビ系列で全国生放送!