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コラム

Jリーグ副理事長 原博実が試合解説“イイ時間帯ですね。”

2016/7/5 17:12

鹿島アントラーズ 1stステージ優勝の要因【明治安田J1 1st 第15節 浦和vs鹿島、第16節 神戸vs鹿島】(♯2)

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明治安田生命J1リーグ 1stステージは、鹿島アントラーズの優勝で幕を閉じました。とりわけ終盤に強さを見せた鹿島は、最終節を前に川崎Fをとらえて首位に浮上。リーグ最少失点の堅守と前線の高い決定力を武器に他チームを圧倒し、見事に頂点に立ちました。

私が視察した試合について映像を交えながら解説していくこのコラム、第2回目となる今回はカギとなった終盤の2試合をピックアップし、鹿島が優勝できた要因に迫りたいと思います。

【1st 第15節 浦和戦】
ひとつ目は第15節の浦和戦です。この試合を迎えるにあたり、鹿島にはここで負けたら終わりという意識が備わっていたと思います。なぜなら浦和は、この時点で消化試合数が少なく、その後の勝点計算を考慮すれば、鹿島は浦和に届かなくなる可能性が高かったからです。そんな浦和を鹿島は、実によく研究して試合に臨んでいたと思います。もうご存知の方も多いかもしれませんが、浦和は3-4-2-1の布陣ながら攻撃時には両ウイングバックが高い位置を取り、ほぼ5トップのような陣形になります。それが分かる映像を少しお見せします。

■小笠原の驚異的な守備力
対する鹿島は4バックのため、自陣ゴール近くでは数的不利に陥ってしまう。そこで鹿島は本来ボランチの小笠原 満男を最終ラインまで下がらせて、そのディスアドバンテージを解消する策を取ったのです。浦和対策としてよく見られるのは、同じ3-4-2-1を採用し、ミラーゲームに持ち込むこと。しかし、鹿島はあくまで普段の4-4-2を保ったままでした。守備の場面では小笠原のポジションを最終ラインへ動かすことで、例えば縦パスを受けに落ちてくる浦和の選手へ鹿島のセンターバックが躊躇無く出ていくなど、浦和の特長を打ち消すことに成功しました。次の映像を見ていただくと分かりますが、この試合の小笠原の守備での対応は素晴らしいものがありました。

■小笠原と柴崎のポジショニング
浦和の特長とは後方でボールを動かしながら、数的優位を生かした前線が相手の守備陣形のギャップを突くこと。とりわけスペースが生まれやすいのは両サイドとなりますが、この試合では人数を揃えた鹿島の最終ラインを揺さぶることができず、なかなかそこにスペースを作りだすことができませんでした。そのため浦和は出しどころを見いだせず、長いボールに頼るケースが多くなったのです。また、ボランチの小笠原が前にいる時には、もう一人のボランチである柴崎 岳がしっかりと最終ラインに入り、同様に浦和の特徴を消すように対応していました。

■鹿島の鋭いカウンター攻撃
一方でボールを奪えば、前線のスピードを生かすシンプルな攻撃を仕掛けていきます。金崎 夢生や土居 聖真、カイオといったタレントの個の力によるところが大きいとはいえ、後方からのサポートも怠らず、前半から決定的なチャンスをいくつか作り出していました。鹿島の狙いが凝縮された場面は前半の終わりごろに見られました。相手のクロスボールに対応したのは最終ラインまで戻った小笠原。これをヘディングで遠藤 康につなぎ、土居がつぶされながらも柴崎へと落とす。そして柴崎は絶妙なスルーパスを通し、金崎の決定的なシュートを導き出しました。

不運にも金崎のシュートはポストに阻まれましたが、セカンドボールに反応したのは長い距離を走ってゴール前にまで詰めていた遠藤です。このシュートも枠をとらえきれなかったとはいえ、小笠原の守備を起点とし、複数の選手が絡んでの鋭いカウンターは見ごたえは十分。これが入っていたら、間違いなく今季のベストゴールのひとつに数えられたでしょう。そのシーンがこちらです。

この試合の結果はご存知の通り、鹿島の2-0の完勝に終わりましたが、得点のなかった前半から攻守両面で鹿島の狙いが見事にはまっていました。この大一番に向けて入念に準備し、最高のパフォーマンスを示した鹿島こそ、やはり優勝に値するチームだったと思います。一方で鹿島だけでなく、浦和の選手たちも十分なパフォーマンスを見せていたと思います。球際の激しい攻防は実にエキサイティングでしたし、5万人を超えたスタジアムの雰囲気も含め、たとえ両チームのファンでなくても、「お金を払ってでも見に行きたい試合」だったのではないでしょうか。Jリーグでもこういう戦いをどんどんやってほしい。そう思わせる一戦でもありました。

【1st 第16節 神戸戦】
ふたつ目に挙げたいのは第16節の神戸戦です。この試合で仮に鹿島が敗れ、川崎Fが福岡に勝利すれば、川崎Fの優勝が決まってしまう。そうした状況が重圧になったのか、この日の前半の鹿島はあまり良い戦いができていませんでした。ピッチコンディションの問題もあったかもしれません。カイオはトラップミスを連発し、明らかに苛立つ姿も見られました。そうした嫌な流れのなかで、24分に失点。CKからやられたこの場面では、映像を見ても分かる通り、植田 直通がマークについていた北本 久仁衛に入れ替わられてしまったことが原因となりました。北本の経験が上回ったシーンと言えますが、植田にとってはかなりショックだったでしょう。ヘディングに自信がある選手が、逆にヘディングでやられてしまったのだから、このまま引きずってしまってもおかしくない。私はそういうふうに思っていました。

■いい時間帯の得点
前半終了間際にも致命的なピンチが訪れます。45分、神戸のカウンターの場面。ゴール前の微妙なタイミングのズレにより難を逃れたものの、仮にここで決められていたら鹿島の優勝はなかったかもしれない。それほど重要な局面でした。

しかし、鹿島はそのカウンターを防いで得たスローインの流れから、土居が金崎とのワンツーで抜け出し、同点ゴールを叩き込んだのです。ともすれば0-2となる可能性があったなか、たったひとつのチャンスをものにして前半のうちに追いついてしまう。神戸の対応の甘さもあったとはいえ、そこを逃さない鹿島のしたたかさが光った得点でした。

まさに「いい時間帯」で生まれたこの得点が、試合の流れをすべて変えたといっても過言ではありません。後半は見違えるように鹿島の一方的なペースとなり、50分に遠藤の逆転ゴールが生まれたのも必然だったでしょう。その後は鹿島らしく、上手く試合を流して2-1の逆転勝利。これで川崎Fを交わして首位に立った鹿島は、最終節でも福岡に快勝を収め、見事にステージ優勝を達成しました。

天王山となった浦和戦を素晴らしい内容でモノにし、続く神戸戦は悪いながらもしっかりと耐え、ひとつのゴールで戦況を一変させる。とりわけ神戸戦では2点目を許さなかったことと、前半に追いついたことが大きかった。その意味で神戸戦の前半は、鹿島が優勝を成し遂げるための大きな分水嶺となったと思います。

■総括
まだ1stステージを制しただけとはいえ、鹿島にとっては、2009年以来のリーグ戦での優勝となりました。当時はまだオズワルド オリヴェイラ監督が率いていた時代。その優勝の味を知っているのは今のメンバーでは小笠原と曽ヶ端 準、2ndステージから鳥栖でプレーする青木 剛くらいでしょう。

優勝から遠ざかる間、クラブは柴崎をはじめ、昌子 源や植田など若手を積極起用し、いわば世代交代を推し進めていました。もっとも前任者のトニーニョ セレーゾ監督は、三冠を成し遂げるなど黄金期を作った第一次政権とは異なり、第二次政権ではうまくマネジメントできていなかったように感じます。ところが、石井 正忠監督に代わったとたんに、チームが好転し、昨年のJリーグヤマザキナビスコカップ制覇、そして今回の1stステージ優勝と、再び黄金期の到来を予感させています。世代交代を実現し、結果を出せるチームへと昇華させる。その流れを導いたのが長年クラブに携わってきた石井監督というのは、実に感慨深いことです。

攻撃面に目を向ければ金崎の存在はやはり大きいですし、パートナーを組む土居との連携も非常に機能していると感じます。守備では若い2人のセンターバックの活躍さることながら、今季は曽ヶ端が非常に安定したパフォーマンスを見せ続けていました。昨季までの曽ヶ端は、好セーブがある一方で集中を欠いたミスもという印象でしたが、今季は高い集中力を保ち、まさに守護神としてチームを支えています。これには新加入の櫛引 政敏の存在が大きいと感じます。若く能力の高いGKの加入が、長くゴールマウスを守り続けてきた曽ヶ端に刺激と緊張感を与えたのでしょう。ベテランと若手が切磋琢磨し、チーム内での競争が激化していく。強いチームに必要な環境が、鹿島には確実に備わっているのです。

また、ステージ優勝を成し遂げたとはいえ、まだ何も手にしていないという感覚があるのも鹿島らしさではないでしょうか。彼らの視線はさらなる高みに向いているだけに、2ndステージでも優勝争いをけん引する存在になるのは間違いないでしょう。

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