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コラム

Jリーグ副理事長 原博実が試合解説“イイ時間帯ですね。”

2016/6/10 17:40

試合の流れを変えたポジショニングの違い【明治安田J1 1st 第7節 福岡vs名古屋】(♯1)

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みなさん、こんにちは。Jリーグの原博実です。今回からコラムを連載させていただくことになりました。題して「いい時間帯ですね。」私のサッカー解説を聴いたことがある方にはお馴染みかもしれません。

このコラムは実際に私が視察した試合について映像を交えながら解説していきます。この試合にはこんなポイントや見方があったんだということを感じてもらえたらと思っています。サッカーの楽しさや、面白さをいろんな方面からみなさんに伝えたいと考えています。今まで以上にJリーグを好きになっていただければと思っています。

では一緒にいい時間を過ごしましょう。

さて、第1回目となる今回の対象試合は6月2日(木)熊本地震の影響で延期されていた明治安田生命J1リーグ第7節のアビスパ福岡vs名古屋グランパスです。結果はスコアレスドローに終わったのですが、両チームともに下位に低迷しており、ここで勝たなければという強い意気込みをもってこの試合に臨んでいました。

■福岡の狙い
ホーム福岡は前節広島に0-4と完敗。守備を見直してきていたのは明らかでした。名古屋はシモビッチを1トップに置いた4-2-3-1。これに対して福岡は4バックで対応していました。とりわけケアしていたのはシモビッチ。彼は背が高いけれど、胸や足もとでのボール扱いが上手いから、後方からのロングボールをゴールに背を向けながら巧みにコントロールし、起点を作れる。福岡とすればシモビッチに自由にプレーさせないのがポイントでした。

次の映像を見て分かる通り、この日の福岡はロングボールを蹴られた際に末吉(隼也)がシモビッチの前にポジションを取ることで、簡単に起点を作らせないように対応していました。実際に空中で競るのは他の選手だったのですが、シモビッチがコントロールしようとするスペースに末吉が入いることによって、彼は明らかに自由を奪われていました。

一方で福岡は攻撃面の狙いも明確でした。センターバックのキム・ヒョヌンと濱田に加え、ボランチのダニルソンが(ディフェンスラインまで)下がってきて3人でボールを回しながら名古屋のプレスをいなし、隙を見て坂田(大輔)とウェリントンの2トップへと長いボールを送りこむ。ウェリントンがヘッドで反らして坂田が背後に飛び出したり、坂田がサイドのスペースに流れてフィードを受けることで、名古屋の最終ラインを横に動かして中央のスペースを間延びさせることに成功していました。

■名古屋の守備のポジショニング
ただし、福岡の狙いがよりはまった背景には、セカンドボールを拾う際の名古屋のポジショニングの悪さがあったように思います。次の映像を見てください。立ち上がりの場面、福岡のロングボールをセンターバックのオーマンが跳ね返したにもかかわらず、そのセカンドボールを亀川に奪われてそのまま危険なシーンを招いています。本来は右サイドハーフの野田(隆之介)がセカンドボールを拾える体勢と位置にいなければいけなかったのに、ファーストポジションが少しずれていた結果、ピンチを招いてしまいました。このシーンだけでなく、名古屋がセカンドボールを拾えない場面が目立ったのは、長いボールを蹴られた際のポジショニングが原因でした。

■前線からのプレス
名古屋がセカンドボールを拾う事ができなかったのは前線からプレスが中途半端になっていたからです。

次の映像を見てください。確かにシモビッチとトップ下の矢田(旭)は献身的に前からボールを追っています。この動きに連動してボランチの田口(泰士)とイ スンヒも福岡MFへのパスを狙い、かなり前目にポジションを取っています。

しかし実際には、福岡は名古屋のMFの頭上を越えるロングボール蹴ってきました。福岡の2トップへのロングボールに対して最終ラインで跳ね返しても、中盤との距離が広いからセカンドボールは拾えません。そのボールを前半はほとんど福岡の選手が拾っていました。それが前半福岡ペースになった大きな原因です。セットプレーも含めて何度も危険な場面を作られてしまったのは、最初のポジショニングが悪かったのが原因だと思います。

■名古屋の攻撃時のポジショニング
一方で攻撃でもポジショニングの悪さが機能不全を招いていたように思います。次の映像を見てください。田口がボールを持つとチャンスが生まれそうな気配が漂うのですが、受け手である2列目の位置取りが悪く、田口が出し所を見出せません。とりわけ両サイドハーフが中に早く入りすぎるきらいがあり、自ら攻撃エリアを狭くしてしまった印象があります。左サイドを務めた杉森(考起)はまだ若いのですがテクニックとスピードがあり、将来性豊かな選手です。しかし、上手い選手は往々にして足元でもらいたがる向きがあります。サイドのスペースに飛び出して受ければよい場面でも、早く中に入って行く場面がありました。これでは相手は怖くありません。杉森がより成長するには、ポジショニングの重要性をもっと理解して欲しい。

ブラジル・ワールドカップにも帯同した期待の選手です。この日はリーグ初スタメン。失敗を怖れずに、どんどんトライして欲しい。得点もアシストも出来て、相手に嫌がられる選手になって欲しいと期待しています。

■後半の名古屋の対応
後半に入り、大きく二つの点で名古屋が前半の課題を上手く修正していました。一点目は、福岡のウェリントンへのボールに対し、ボランチがウェリントンの前に入ることで簡単に起点を作らせないようにしていたことです。これは福岡のシモビッチへの対応と同じです。次の映像を見るとその事が良く分かります。

二点目は、前線からボールを追うことを自重し、ディフェンスの陣形をコンパクトにすることによって、最終ラインと中盤のスペースを埋め、セカンドボールを拾えるようになったことです。そこから素早い攻撃を仕掛けることで、途中出場の永井(謙佑)のスピードを生かす場面も生まれました。

名古屋が守備を修正してきたことにより、後半の福岡はほとんどチャンスがなくなりました。決定機は終了間際の城後(寿)のオーバーヘッドくらいです。これは一瞬入ったかと思うような惜しいシーンでしたが、いずれにせよ前半より攻撃の形は作れなくなっていたのは間違いないでしょう。

結局試合は両チームともに決め手を欠いて0-0の引き分けに終わりました。ゴールが入らなかったという点は残念でしたが、ちょっとしたポジショニングの違いで、試合の流れが大きく変わったという意味では大変面白い試合でした。

結局重要なのはポジショニングです。シンプルなことなのですが、ポジショニングのミスで、試合の流れは大きく変わってしまうということもあります。

試合を観戦する際にはどうしてもボールがあるところにだけ目が行きがちですが、結果を左右するポイントはむしろボールのないところにあります。皆さんも観戦の際には、ぜひともピッチ全体に目を配らせ、ボールが来る前のポジショニングや、駆け引きにも注目してもらいたいと思います。

最後に名古屋の田口について一言触れておきたいと思います。名古屋は後半から守備が良くなったとはいえ、前線が中に行き過ぎてしまう傾向はさほど改善されませんでした。田口がボールを持っても出しどころに困る場面が何度かありました。彼はパスセンスが高く運動量豊富だし、シュート力もあります。後半に何度かインターセプトを見せたように、守備力も備えています。

キャプテンとしての重責も担い、名古屋の中心選手であるのは間違いありません。でも、彼にはもっとリーダーシップを発揮してもらいたいと思います。パスの出し所がないなら、「もっと外に開け」と指示することも必要だし、足元ではなくスペースに飛び出せと指示することも必要です。(中村)憲剛だったり、(中村)俊輔だったり、ヤット(遠藤保仁)なんかは、もっと味方の選手に的確な要求をしています。彼はそれが出来る選手だと期待しています。0-0でしたが、なかなか見所の多い試合でした。

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