物事というのは、たいてい計画どおりには進まない。人生と同じだ。プランを練るのも大切だが、それ以上に重要なのは、うまくいかないときに、どう立て直すか。それに尽きる――。
唐突ですが、イビチャ オシムさんの言葉です。人間、苦境に立たされたときほど本性が現れる、とも言いますが、物事がうまくないときに、どう立ち居振る舞うかが、その人の値打ちを決めるのかもしれませんね。勝負事は「食うか、食われるか」の弱肉強食。原則的に「Win―Win」の関係なんてことにはなりません。よほどの強者でもない限り、結構な確率で敗者になるわけです。そこから、どうやって立ち直るか。修正力、反発力、復元力が大事ということでしょうか。
そこで興味深いのが昇格組のジュビロ磐田です。1stステージの戦績は5勝4分4敗。したたかに勝点を積み上げ、7位(暫定)につけています。目標は「勝点40」ですから、すでにその半分を稼いだ計算になります。そして、何より際立つのはリーグ戦で「連敗がない」ことでしょうか。つまり、負けた試合のあとに必ず勝点を拾っているわけです。その内訳は以下のとおり。
1・1節●0-1名古屋(H) → 2節○2-1浦和(A)
2・7節●1-5横浜FM(H) → 8節○1-0鳥栖(A)
3・10節●1-4神戸(A) → 11節△1-1鹿島(H)
4・12節●1-2G大阪(A)→ 13節○3-1甲府(H)
いきなり開幕戦(それもホーム戦)を落とし、続く2つの黒星はいずれも大敗。普通なら凹んでも不思議のない状況でしょうか。しかも、負けたあとの相手が浦和や鹿島ですから、勝点を拾うのは簡単ではありませんね。とくに、大敗した後は「自信を失う→失敗を恐れる→受けに回る」という負の連鎖に陥りやすいものです。そこで技術や戦術の見直しも大切ですが、いかに選手たちを「その気」(ポジティブ)にさせるか。指導者の人心掌握術が、モノを言うところでしょうか。
「やられたときに、どう修正するか。次節にどれくらい反省材料として生かせるか。また、精神的にそれ(敗北・失敗)を引きずらない立ち居振る舞いを見せられるか。それが大切です」
J1ホーム通算200勝を飾った甲府戦のあと、名波 浩監督はこう話していました。冒頭の「オシムさんの言葉」と同じですね。甲府戦の勝因として(1)非常に気持ちの入った練習(2)オンとオフの切り替え(3)クラブハウスを含む、オフ・ザ・ピッチでの振る舞い――が非常に良かったことを挙げています。チーム全体が前を向いて(ポジティブに)取り組んでいたと。選手一人ひとりの性格や精神状態に応じて、適切な「声掛け」を繰り返す名波監督らしい「診断」でしょうか。
しぶとく、粘り強く、ガマン強く――それが、うち(磐田)の強み。
今季、名波監督がたびたび口にするフレーズです。何やらアトレティコ(スペイン)を率いるシメオネ監督の発言みたいですが。理想者主義者や戦術至上主義者にありがちな「仏つくって魂入れず」みたいなチームづくりはしないわけです。本人いわく「何だかんだ言って、最後は根性だから」と。筋金入りの戦術オタクで、勝つための「理」をしっかり練り上げ、それをチームに落とし込む手腕も凄いのですが、何より人(の心)を動かすのは「理より情」ということを心得ているわけですね。
「逃げるな」「臆病になるな」
これまた、名波監督の決まり文句でしょうか。2節で強者の浦和を破った試合前のミーティングでホワイトボードにこう書き殴って選手たちを鼓舞しています。また、前半に4点を失った横浜FM戦のハーフタイムでは「俺は逃げも隠れもしない。お前たちも、やるからにはプロらしく、ひたむきなプレーを見せろ。志を見せつけろ!」と言って後半のピッチへ送り出しています。球際、対人で戦う覚悟、最後までゴールに向かっていく姿勢を貫くこと――それだけは、どうしても譲れないと。
仏の顔(スタイル)は似ていなくても、魂(勝者の精神)は同じ――。倒されるたびに立ち上がる不屈のジュビロは、どんな相手にとっても破りがたいチームでしょうか。たとえ負けても、落ち込むことなどありませんね。名波ジュビロは「負けるたびに強くなる」という正のサイクルにあるわけですから。とにかく、負けた「あと」のジュビロにご注目あれ。