明治安田生命J2リーグ 第7節の北海道コンサドーレ札幌戦で、ファジアーノ岡山は今季初黒星を喫した。赤嶺 真吾と豊川 雄太の加入によってグレードアップした攻撃陣は第6節を終えてリーグ最多の11得点を奪取していたが、今季初の無得点。J2に昇格して8年目のシーズンにして未だ勝利を収めたことのない札幌の地で、岡山は今年も苦汁を舐めることになった。
ただ、敗北はいつか訪れる。今後に向けて課題が浮き彫りになったという意味で、札幌での敗戦はポジティブにも受け取れた。長年、シティライトスタジアムに通うサポーターから「今年は面白い」との声がよく聞こえてくるほど躍動感ある攻撃は、ただし相手に自軍でブロックを作られると停滞感が生まれるのが現状だ。
プレシーズンから力を入れて取り組んできたセットプレーは成果を挙げているものの、アタッキングサードで具体的にチャンスを作り出していく連係、連動はまだ発展途上にある。ただ、そこはこれからのチームの伸びしろとも言え、豊川は「これからできるようになっていくのが面白いところでもありますからね」と語って札幌ドームを後にした。
『勝負の年』と位置付ける2016年のシーズンを、岡山は地に足を付けて歩んでいる。長澤 徹監督が就任し、岩政 大樹と加地 亮が加入した昨季に、「変わってはいけないこと」と「変わっていかないといけないこと」の取捨選択をしながら歩んできたことでチームのベースはできあがった。そして今季、前線にタレントが加入して得点力不足の解消に光明が差し込んでいる。前述したように課題も多くあるが、キャプテンの岩政はここまでの戦いを振り返り「現実的にJ1を目指せる力があることは示せている」と自負している。
ただ、主将は「喜んでいる場合じゃない」と続け、「まだ勝点は10くらい。僕らは60、70、80と取っていかなければいけないんだから」と冷静に先を見据えている。J1に昇格したことのないクラブではあるが、経験豊富な選手たちがどっしりと構えている今年のチームにはまったく浮ついた雰囲気がない。リオ五輪本大会のメンバー入りを目指す矢島 慎也と豊川の向上心もチーム全体に活力を与えている。今年のチームは、良いバランス、良い精神状態で、「J1昇格」という明確な目標に向かって歩んでいる。
一方で、もう一つの岡山の大きな挑戦、平均入場者数1万人を目指す『challenge 1』プロジェクトは苦しいスタートを切った。ホームゲーム4試合を終えて平均入場者数は8,155人。1万人に到達した試合は一度もなく、「ホームでは2勝2引き分けですけど、フロントは全敗です。これは本当に重く受け止めないといけないと思っています」と、事業部の岡本 龍平さんは危機感を募らせている。
もっとも、7千人台を割った試合も一度もなく、着実にベースアップはできている。『お誘いプロジェクト(シーズンパスホルダー・個人スポンサー・ファンクラブ会員の方が、前売券または当日券をお持ちの方と一緒に来場された場合、誘った方と誘われた方それぞれにピンバッジをプレゼントする企画)』には多くの人たちが参加し、固定のファン・サポーターも増えつつある。「この街には1万人に来てもらえるポテンシャルがある」と岡本さんは感じているが、もっと多くの県民・市民を巻き込んだ大きなうねりを生み出していかなければ1万人の大台には届かない。「木村(正明社長)がよく『チームとフロントは競争』と言うんですけど、今は完全にチームに引っ張ってもらっている状態。同じような曲線を描いて上がっていけるようにしていかないと」と岡本さんは言う。フロントは思案しながら、駆け回る日々を送っている。
09年にJ2へ参入して以降、岡山は地道にコツコツと土台を固めてきた。2016年はこれを踏み台にして一気に高く飛び上がるべく、チームはさらに足場を強固なモノにしながら1試合1試合を大事に戦い、フロントは背中を押すパワーを膨らませるために躍起だ。これからシーズン中盤戦。「1万人に向けても、J1に向けても、険しい道は続いていく。もっと機運が高まる試合をしていきたい」と岩政。チームとフロントが目標に向かって本気で突き進んでいく姿勢が岡山の街全体に伝染していけば――。シーズン終盤に『J1昇格』が現実のものとして見えてくるだろう。
[文:寺田 弘幸]
1980年生まれ。広島県広島市出身。三浦知良に憧れるサッカー小僧、久保竜彦に魅了されるサポーターを経て、07年にライターに転身して「EL GOLAZO」で広島と岡山を担当。三度の飯よりスタジアムで臨場感を感じることが活力の源。