プロとは、いかに勝つか。いや、それ以上に、どう負けるかが大事――。ドイツ・ブンデスリーガの超名門バイエルン・ミュンヘンのゼネラルマネジャーを務めるウリ・ヘーネス氏の言葉です。勝負事に絶対はなく、どんな強者も常に勝てるわけじゃない。しかも、サッカーはほかのボールゲームと比べて、ジャイアントキリングが起こりやすいスポーツとも言われています。どんなチームも勝つことだけを「売り物」にはできない、ということでしょうか。
どう、負けるか。言い換えれば、たとえ負けても、観ている人たちの心に強く訴える「何か」を、また観に来ようと思わせる「何か」を残せるかどうか。それがプロってものでしょう――とヘーネス氏は言っているわけですね。もちろん、その「何か」は観る人によって違うのでしょう。ただ、多くの人たちの共感、賛同を得やすい「何か」があるような気もします。ただの妄想、思い込みを承知で言えば「勇気」や「根気」が、その一つかもしれません。
逃げない勇気、諦めない根気。これが各々の技術やチーム戦術と密接にリンクすると、凄いことになる。湘南ベルマーレはその好例でしょうか。昨冬の移籍市場でキャプテンの永木 亮太(→鹿島アントラーズ)と遠藤 航(→浦和レッズ)に加え、GKの秋元 陽太(→FC東京)や古林 将太(→名古屋グランパス)といった中心選手が次々とクラブを離れました。今季の湘南は大丈夫だろうか?――そうした声が曺 貴裁監督の耳にも入ってきたそうです。
3戦して2分け1敗。結果だけを見れば「やはり」と思われるでしょうが、内容は「あっぱれ」なものです。昨日はサンフレッチェ広島と2-2、先週末は川崎フロンターレと4-4。昨季のチャンピオンにも、J1随一の攻撃力を誇る相手にも、堂々と渡り合いました。どちらも土壇場で追いつかれる残念な結末でしたが、強者の技術やパスワークを恐れず、勇敢に球を奪いに行き、速攻へ転じれば、ドンドン人数をかけてゴールに迫る。失敗しても、諦めずに、根気よく闘い続けました。
とにかく、コンパクトでアグレッシブ。現代サッカーの「グローバル基準」に忠実というあたりもまた、心憎いですね。日本代表のヴァヒド・ハリルホジッチ監督がやろうとしているサッカーもこれでしょう。湘南の激しいデュエル(球際の闘い)にも、ご満足いただけるかと。昨日の広島から奪った2点は、いずれも高密度で連動するプレスから生まれました。一人ひとりが鎖のようにつながって敵を追い込み、獲物(球)を狩る。日本代表じゃあ、めったに見られませんね(失礼!)
湘南の「勇気」を象徴するシーンの一つに川崎F戦の4点目がありました。3バックの一角を担う岡本 拓也選手が、後ろから一気にゴール前へ駆け上がってのフィニッシュ。精密なクロスの送り手も同じ3バックの左を務める三竿 雄斗選手でした。守備者の攻め上がりに眉をひそめる指導者もいるでしょう。途中で球を失ったら後ろに穴が開くわけですから。しかし、曺監督は違います。選手の判断で行くなら、それを尊重してやりたい。彼らの勇気を殺(そ)ぐようなやり方はしたくない――と。
選手よりもまず、指導者が「勇気」をもっている。湘南がチャレンジする集団であり続ける理由でしょう。勝ち負けだけに重きを置けば、できるだけリスクは避けたいものです。でも、みんながリスクヘッジを志向すれば、リスクの取れるチームには「希少価値」が生まれるでしょう。それが売り物になるということですね。どう負けるか――。それが大事と分かっているから、主力を失っても決して勇気を手放さない。新加入のパウリーニョまで、すっかり湘南イズムを心得ています。
「みんなが勇気を出し、果敢に闘う姿を見せたい」