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2016/3/10 12:08

“角番”清水は1年でJ1へ復帰できるのか(#9)

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Jリーグを大相撲の番付で喩えてみると、J1は大関、J2は関脇、J3は小結ということになるかもしれない。「J1は横綱ではないか」とのご指摘があるかもしれないが、横綱まで上り詰めると番付が下がることはなく、衰えれば引退するしかない。J1で隆盛を極めたチームであっても、たった1年間の成績が悪ければ降格してしまう。よって、Jリーグに横綱は存在しない。

Jリーグ開幕から23年間、J1の座を守り続けていた清水エスパルスが初めてJ2に降格した。それは、地元テレビのニュース速報で流れるほど衝撃的な出来事だった。サッカーどころとしてのプライドがズタズタにされてしまったことは想像に難くない。

ただ、先の喩えに戻すと、大関は一気に関脇に陥落するわけではない。大関として負け越しをした次の場所には「角番」という文字が大関の頭につく。清水は、今まさにその状況であるのではないだろうか。いわば“角番J1チーム”。“真のJ2チーム”と言い切れない部分もある。

今季の開幕戦は1万5453人の観客動員を記録。サポーターの「J1復帰」への強い想いが数字に表れた。
今季の開幕戦は1万5453人の観客動員を記録。サポーターの「J1復帰」への強い想いが数字に表れた。

なぜなら今年の清水は、昨年のチームと比べてもほとんど戦力ダウンがなかった。結果が出なかったとはいえ、今季もJ1相当の戦力でシーズンを戦うことができるからだ。しかも、これまで先輩たちが築き上げた歴史を途絶えさせてしまったことに対して「責任を感じている」と残った選手たちだ。また、GK西部 洋平のようにかつて所属していたチームの危機に「恩返しをしたい」と復帰した選手もいる。「J1復帰」への強い想いは、サポーターも同様だ。開幕戦の1万5453人という観客動員は、昨季開幕戦と比べると確かに少ないが、例えば2012年のホーム開幕戦が1万3231人だったのと比べると、サポーターの関心が下がっているわけではないことが窺える。

だが、“角番J1チーム”として難しい戦いを強いられることも予想できた。それが、開幕の愛媛FC戦で早速現実のものとなった。愛媛の木山 隆之監督が試合後「勝点1だったとしても、3に匹敵するくらいの価値がある」と話したように、守勢に回った相手の術中にはまりスコアレスドローに終わっている。「ボールを回せるが、ただ回しているだけという感じになっていた」とFW大前 元紀が話すように、シュートまではなかなか持っていけない。J2で245試合を指揮してきた経験豊富な小林 伸二監督でさえ「ここまで引くとは」と驚きを隠せないほどだ。「エスパルスは追われる側なので、今日のように相手が引いてくる試合は増えてくる」とDF犬飼 智也は難しさを語る。「清水から勝点を奪う」という相手の強烈な意気込みを、ほぼ毎試合のように受けなければならないだろう。

「勝点80以上」をノルマに掲げる小林監督。角番脱出のためには勝ち続けるしかない。
「勝点80以上」をノルマに掲げる小林監督。角番脱出のためには勝ち続けるしかない。

また「勝って当然」という周囲からの重圧もある。目の肥えたサポーターを満足させるには、勝ち続けるしかない。小林監督は「勝点80以上」をノルマに掲げており、おおよそ1試合平均で勝点2が必要となる。引き分けが続くというだけでも、相当なプレッシャーとなるだろう。

第2節の長崎戦では初のアウェイゲームを戦った。結果はFW大前の2得点などで、3-0とJ2初勝利を挙げた。とある長崎のサポーターが「ホームでこんな負け方をするのは記憶にない」と嘆くほどの快勝劇。昨季の課題であった守備にも改善が見られ、まだ2戦ながらひとつも得点を許していない。上々のスタートを切ることができたと言える。

エース大前の活躍もあり、第2節の長崎戦でJ2初勝利。この勢いを持続していきたいところだ。
エース大前の活躍もあり、第2節の長崎戦でJ2初勝利。この勢いを持続していきたいところだ。

それでも「余裕だ」と思うのはもちろん早計だ。「決定機は他にもあったし、守備の部分でもまだまだ足りない部分があった」と西部が話すように、快勝とは言え完璧ではない。個の能力の高さは証明されたものの、チームとしての完成度はまだまだ。そもそも、長崎がガチガチに守りを固めるチームではなかったため、引いた相手をどう崩すのかという課題は解消されたわけではない。さらには、無失点に抑えられたのは、西部の好セーブに助けられた部分もある。この勢いは大事にしなければいけないが、42試合という長丁場の戦いでは、想像もつかないことが起こるものだ。「この勝点3は大きいが、これで緩まないようにしなければいけない」と長崎戦の直後に西部はチームを引き締めている。

大関は角番で迎える場所に勝ち越せば、晴れて角番を脱出することができる。逆に、負け越せば関脇へ陥落する。再び大関に復帰するには、ハードルがより高くなる。清水にとっての“角番”で迎える今季。「鉄は熱いうちに打て」ではないが、昨季の悔しさがまだ薄れていない今季こそが、J1復帰の最大のチャンスとなる。

[文:田中 芳樹]
1980年、兵庫県神戸市生まれ。ライターとして全くの未経験ながら、2012年Jリーグ開幕の日に静岡市清水区三保の練習場近くに移住し、「EL GOLAZO」の清水担当として活動を開始。現在は清水エスパルスのオフィシャルサイトなどにも携わる。趣味はお遍路と落語。