つうかあの仲――そんな「二人羽織」が面白い。今シーズンからFC東京のフロントラインで新たにタッグを組むことになった前田 遼一、阿部 拓馬両選手です。かたやベテラン(前田=34歳)、かたや働き盛り(阿部=28歳)の組み合わせ。互いにプロとして十分なキャリアをもちながら、新鮮味にあふれているところがいいですね。ある作家さんの口説き文句じゃないですが「やっと会えたね」みたい喜びがプレーから伝わってくる感じ。とにかく、相性抜群というわけです。
とくに背番号44(阿部)のパス・アンド・ムーブが楽しい。相方をポストに使った『阿部→前田→阿部』のタベーラ(壁パス)で密集地帯をすり抜けていく。先週、アウェイで1-2と敗れたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の全北現代(韓国)戦の1点が、その好例でしょう。昨夜、ホームでピンズオン(ベトナム)に逆転勝ち(3-1)したACL第2戦では途中出場で同点ゴールの起点となったほか、巧みな反転でPKを誘うなど、切れ味の鋭い動きをみせてくれました。
オフにヴァンフォーレ甲府から加入。新監督の城福(浩)さんが甲府を率いていた一昨シーズンに残留へ導く功労者の一人でした。印象深いのは189センチの盛田剛平選手との凸凹コンビ。最前線で不動のターゲットになる大兵(盛田)の周囲を、サテライトのように動き回る171センチの小兵(阿部)がひときわ輝いていました。FC東京の監督をやると決まった日から、城福さんにはピンと来ていたのかもしれません。前田と組ませたら、面白いはずだ――と。
前田選手は身長183センチ。大兵とまでは呼べませんが、ていねいなポストワークは健在です。ポストをめぐる、使う者と使われる者の思惑(企図や創意)が一致した関係であり、高さと速さといった互いの特徴(長所と短所)を補完しあう関係でもあります。こうなれば単純な足し算ではなく、掛け算のような力を持つことになるでしょう。いまや、1トップ全盛の時代。だから余計に2トップの「妙味」を感じるのかもしれません。
いわゆる、万能型(多様性)を問われるのが1トップの宿命。そうした流れの中で「一芸」の光る個性派が脇へ追いやられてしまうのは惜しい、と思っていたわけです。たとえば、阿部選手には両翼をこなす器用さを供えていますが、あのウナギのような特技(すり抜け)はバイタルエリアで試みてこそ、千金の価値があるシロモノかと。その異能を十全に生かす最善の選択肢は、やはり、ポスト役を相方に迎えた2トップの一角。そういう選手は日本に少なくないでしょう。
巧い、速い、高い、強い――。そんな三拍子も、四拍子もそろったストライカーなど、いるのかどうか。実在しても、いくらお金を積めば来てくれるのか。本来、1トップの適材は世界的にもレアでしょう。だから「ゼロトップ」や「ファルソ9」(偽9番)といったアイディア(苦肉の策?)も生まれてくるわけで……。チーム事情から1トップを立派にこなす日本人ストライカーには頭が下がります。どうか、彼らを「陸の孤島」にしておかない工夫をしていただければと。
遠くの親戚より、近くの他人(血縁より地縁)なんて言いますしね。ともかく、味方がすぐそこにいる関係が2トップの強みでしょう。独りでは難しくても、2人なら「大きなこと」ができる――。ターゲット(前田)とフォロワー(阿部)の新たな「地縁」にも、その兆しアリでしょうか。ちなみに阿部の地元は練習場のある東京・小平市。2つの地縁をめぐる新生東京のこれからが楽しみです。開幕戦(黒星スタート)? 良薬は口に苦し――と言いますから、心配するには及びません。