12月5日、明治安田生命Jリーグチャンピオンシップが終幕を迎えた。万博記念競技場の死闘からエディオンスタジアム広島でのフィナーレに至る過程は何とも美々しいもので、その場に居合わせた一人として率直に感動させてもらった。全力を尽くして戦い抜いた両チームの選手と、熱い声と熱をピッチに注ぎ込んだ両チームのサポーターに、この場を借りてあらためて敬意を表しつつ、同時に感謝したい。素敵な試合をありがとうございました。
年間1位のチームが決勝にシードされる新方式のチャンピオンシップは、結果として日程面の優位を感じさせる内容でもあった。負ければ1年間で積み上げたすべてを失うという「1位ゆえのプレッシャー」は確かにあったのだと思うが(特に第2戦の前半はそれを感じたが)、それでも体力面でのアドバンテージは確かにあった。18チーム制におけるJ1リーグ史上最多勝点を記録している今季の広島の「チーム力」を思えば、順当な勝利だったとも言えるかもしれない。あえて単純に言ってしまえば、「広島は本当に強かった」という話である。驚きに満ちた試合展開ではあったけれども、広島が勝ったこと自体にサプライズの要素はなかった。
広島の強さの源泉として、一つ指摘されるべきは的確な選手補強だろう。毎年主力選手が流出するという憂き目にあいつつも、今季もその穴を埋める補強が冴えていた。特にドウグラスである。正直に言えば、前年にJ2の京都で5得点のドウグラスがシャドーのポジションであそこまで輝く(リーグ戦21得点!)とは思ってもいなかった。だが、広島の目利きには見えていたのだろう。柴﨑 晃誠、柏 好文といった昨季獲得してきた選手も印象的だったし、DF佐々木 翔の補強は特にCSで生きた。ハイレベルな強化部の存在を感じさせる、そういうシーズンだった。
もう一つ挙げるべきは、森保 一監督の若手選手に対するマネジメントだろう。今年の春に広島の練習場・吉田公園サッカー場を訪ねたのだが、通常の全体練習に加えて控えの若手選手たちにもう一つのトレーニングを課しているのが印象的だった。Jリーグの多くのクラブは若手の余剰人員を抱え込みたがる傾向があり、まったく出番のないまま1年を過ごす若手選手が非常に多い。毎週公式戦がある主力選手たちが調整重視の練習をこなしていくのは当然なのだが、出番のない若手までも「調整メニューのみをこなして終了」というチームが少なくないのが現状である。
だが広島ではスタッフがすさまじい情熱を注ぎ込みながらの「若手練習」が積極的にセッティングされており、その「ゆるさ」はないのだ。コーチングスタッフの負担は自然と大きくなっているはずだが、現役時代そのままのハードワーカーである森保監督を筆頭に、それを苦にしないスタッフがそろっていることも広島の底力と言えるだろう。若手に個人練習を課すチームは少なくないが、出番のない選手に対して本当に必要なのは、戦術理解を高めながら個人能力も上げられるようなトレーニングである(そうでないと、ポジションを奪うのは難しい)。今季のベストヤングプレーヤー賞に輝いたFW浅野 拓磨も、そうしてもまれる中で成長してきた選手だ。
元クロアチア代表のベテランMFミキッチは「僕らの控え組のクオリティは本当に高いんだ。(練習ゲームで)Aチームが負けてしまうことも珍しくないからね」と、強さの秘訣を解説してくれた。森﨑 和幸は優勝の要因として「11人だけでも、ベンチを含めた18人だけでもなくて、ベンチにも入れなかった選手たちが本当によく頑張り続けてくれたからです」と語った。控え組がモチベーションを落とさず、常にギラギラとAチームを脅かす。そのサイクルが強さの源泉にある。
4年で3度のリーグ優勝。ドイツにおけるバイエルン・ミュンヘンのような予算的に飛び抜けているクラブが残した数字ではないのだ。限られた予算の中でどういう選手を獲ってくるかという強化部の力と、集まってきた選手を鍛え抜く現場の力が合わさっているからこそ残せた結果。3度目の優勝という結末を呼び込んだのは、広島の「クラブ力」だった。