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コラム

北條 聡の一字休戦

2015/10/30 15:08

勝者こそ強者のファイナル 気になる『闘魂戦士』あり(♯27)

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ファイナル(決勝)と聞くと、やたらとドイツのことが頭に浮かんできてしまう。1970年代以降のメジャー大会でドイツのいるファイナルばかりを見てきたせいでしょうか。ワールドカップでは74大会から98年大会までの7大会で4度、EURO(欧州選手権)では72年から96年までの7大会で5度、決勝に駒を進めたファイナルの常連。かつて名古屋グランパスにも在籍したイングランドの名ストライカー、ガリー・リネカーさんが、こんな名言を残しています。

「フットボールはシンプルなゲームです。22人の男たちが90分間、ボールを追いかける。そして、最後に勝つのは常にドイツです」

いかにドイツの勝負強さが20世紀のサッカー人に刷り込まれていたか。それを物語るエピソードでしょうか。また『皇帝』と呼ばれたドイツの巨星フランツ・ベッケンバウアーの名言も忘れられませんね。いわく「強い者が勝つわけではない。勝った者が強いのだ」と。長丁場でトータルな強さを競い合うリーグ戦とは異なり、トーナメント戦は負けたら終わり。やり直しがきかない。たとえ不運に見舞われても、それを言い訳にしない「鉄の意志」が勝者に求められるのかもしれません。

ドイツは運の要素が強いと言われPK戦にめっぽう強いことでも有名ですね。ワールドカップにおけるPK戦は「4戦全勝」。幸運の二文字で片付けにくい感じでしょうか。かつての名ストライカーであるユルゲン・クリンスマンによれば「僕らがPK戦に強いのは、過去に二度も国を再建しなければならなかったからだ」と。そんなバカな――とツッコミを入れるのは野暮というもの。そこに何かしらの意味を汲み取るとすれば、致命的な敗北を喫した経験を持つ者の強み――でしょうか。

あんな思いは、二度と御免であると。順風満帆のエリートよりも、大きな挫折を味わった経験のある人の方が「ここ一番」では強いのかもしれない。必ずしも強者に見えないドイツが勝者になるストーリーを見続けてきたせいか、そうした「偏見」を持つに至ったわけです。思えば、近年のJリーグも華々しい『敗者の復活』をよく目にしますね。J2降格から驚異のV字回復で三冠王者に上り詰めた昨季のガンバ大阪は、その好例でしょうか。

08年大会で大分の初優勝に大きく貢献し、自身もニューヒーロー賞を受賞した金崎。
08年大会で大分の初優勝に大きく貢献し、自身もニューヒーロー賞を受賞した金崎。

そこで明日のヤマザキナビスコカップ決勝、気になる選手が一人。鹿島アントラーズの金崎 夢生選手です。大分トリニータ在籍時の2008年に同大会で初優勝の動力源となり、ニューヒーロー賞を獲得。それから7年、ファイナルの舞台に戻ってきました。将来を嘱望された若武者も26歳。20代を迎えてからのキャリアは必ずしも順風満帆ではなかったかもしれません。同世代の香川 真司選手や後続世代のタレント群が脚光を浴びる中、試行錯誤の日々。今季、ポルトガル2部のポルティモネンセからの期限付き移籍で鹿島アントラーズに加わりました。

開幕戦で先発フル出場し、2節から3戦連発とすべり出しは上々でした。しかし、そこから長いトンネルへ。石井 正忠コーチが新監督に昇格すると先発の座を追われました。この悪い流れを、自力でひっくり返したのが、7節のベガルタ仙台戦。途中出場で逆転勝利に貢献したのを契機に「逆襲」へ転じました。次節から2トップの一角に定着し、ここ8試合で5ゴール1アシストの大暴れ。現時点の鹿島において、最も危険なアタッカーと言ってもいいでしょうか。

紆余曲折を経て再び脚光を浴びつつある金崎。
紆余曲折を経て再び脚光を浴びつつある金崎。

持ち前のダイナミズムで前線を縦横に動き回り、敵を蹴散らすようにゴールへ迫る力強さは圧巻。柏レイソル戦でポストに激突しながらもゴールに押し込むなど、その見上げたガッツに心を鷲づかみにされた方も少なくないでしょう。思えば昔のドイツにもよくいました、この手の「闘魂戦士」が。ここ一番に必要な『ブレイブハート』が脈打つ鹿島の背番号33。紆余曲折を経て、再びたどり着いたファイナルの舞台で大仕事をやってのけるのでないか。そんな妄想がふくらむ、今日この頃――。