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J2番記者リレーコラム オフ・ザ・ピッチのネタ帳

2015/10/5 18:58

苦境を乗り越えJ1へ 千葉の救世主となり得るのは?(♯4)

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2010年からJ2リーグで戦うジェフユナイテッド千葉は、2012年にスタートしたJ1昇格プレーオフに3年連続で出場しているものの、J1昇格を果たせていない。今シーズンも積年の課題の『ここぞというところで1点を取る力』が不足し、勝ちきれない試合が多く苦戦。明治安田生命J2リーグ 第24節でジュビロ磐田に敗れると、ついにJ1昇格プレーオフ進出圏外の7位に順位を下げ、6位以上になかなか浮上できないでいた。第35節の愛媛FC戦に勝利し5位となったものの、7位のV・ファーレン長崎とはわずか勝点1差。予断を許さない状況が続いている。

4年連続のプレーオフ進出、さらにその先にあるJ1昇格に向け、厳しい状況にあるチームを救うのは誰か。ひとり目に挙げたいのが、FW松田 力だ。8月4日に名古屋グランパスから期限付き移籍で加入したこのストライカーは、なにより点を取ることと勝つへの強い執着心を見せる。千葉は得意な得点パターンや守備を崩しきることにこだわり過ぎ、チャンスの場面でもシュートをなかなか打たない試合が少なくない。だが、松田は「いつも心がけていることは前を向いてシュートを打つこと」と話すとおり、積極果敢にシュートを打つタイプだ。彼にとってプロ初の1試合複数得点となった第33節の栃木SC戦では、見る者の意表を突くような位置とタイミングから見事なループシュートを決めて『2点目』を奪っている。彼の思い切りのよさは千葉が越えられなかった壁を打破してくれそうだ。

今夏に名古屋から加入した松田はチームが勝つためになにをすべきかを常に考えられる選手だ
今夏に名古屋から加入した松田はチームが勝つためになにをすべきかを常に考えられる選手だ

また松田は守備意識も高く、前線からボールを追って献身的に走り、相手にプレッシャーをかけ続ける。追いつかれて1-1で引き分けた第31節 京都サンガF.C.戦の後日、自主練習を終えるとCBのキム ヒョヌンと話しあったという。「あの試合はディフェンスラインが下がっていたけど、僕たちが前から守備に行けていたら、ディフェンスラインも前に守備に行けていたのか」。チームが勝つためになにをすべきかを常に考えられる松田こそ、千葉の救世主となり得る存在と言っていいだろう。

『ここぞというところで1点を取る力』にはシュートの決定力はもちろん、決定機をお膳立てできるかどうかも重要だ。その役割を担えるのが、水野 晃樹だ。今シーズン、自ら売りこんで07年以来となる千葉でのプレーを選んだ水野だったが、レギュラーの座をなかなか勝ち取れないでいた。だが、スタメンで起用された天皇杯の1回戦と2回戦で得点に絡む活躍を見せると、第32節からスタメンに抜擢。左利きのプレースキッカーの中村 太亮が欠場すると、CKを利き足の右足だけでなく、左でも蹴り分けるなど、ゴールの確率を高めようと経験豊富な選手らしく様々なアイデアを発揮している。

自ら売り込んで千葉に復帰した水野は、ここへきてピッチ内外での存在感を高めている
自ら売り込んで千葉に復帰した水野は、ここへきてピッチ内外での存在感を高めている

さらにシステムが4-2-3-1から4-4-2に変更となると、本来はサイドハーフを本職とするが「僕がサイドに張っちゃうとサイドバックが上がって行くスペースがないので、そこは臨機応変に使い分けている。自分もサイドで仕掛けるところもあれば、中に入ってゲームを作る役目もしていかなきゃいけない。もう少しうまくコミュニケーションをとって、今よりもボールを触れる時間を長く、回数を多くできれば、攻撃でいろんなアイデアがもっと出てくると思う」と、中央に入って攻撃を組み立てる役割も担っている。

プライベートでは得意な手料理をチームメイトに振る舞うなど良き兄貴分でもある水野は、愛媛戦で決勝ゴールをアシスト。ピッチ内外で存在感を高めているだけに、残り試合での活躍を期待せずにはいられない。

08年の「フクアリの奇跡」を演出した谷澤。チームが苦しんでいる今こそ、輝きを放ってくれるはずだ
08年の「フクアリの奇跡」を演出した谷澤。チームが苦しんでいる今こそ、輝きを放ってくれるはずだ

そしてもうひとり、終盤戦の戦いで鍵を握りそうなのが谷澤 達也だ。今シーズンは開幕からスタメン出場を続けながらもなかなか得点できず、J公式戦で得点のない町田 也真人ともにチームメイトからイジられてきた。その町田が第21節で初得点をマークして先を越されてしまったが、第27節の徳島ヴォルティスでようやく今シーズン初ゴールをマーク。その一撃は、チームを1-0の勝利に導く貴重な決勝点だった。

調子が思うように上がらず、現在はベンチスタートが続くが、「シンプルにプレーする判断のスピードを上げないと、上位のチームはその隙を見逃さない。マイボールの時間をもっと有効に使っていきたい」とチームの攻撃のレベルアップを追求し続ける。思い起こされるのは大逆転のJ1残留を決めた2008年。2得点・1アシストで『フクアリの奇跡』を演出した谷澤は、チームが苦しんでいる今こそ、特大の輝きを放ってくれるはずだ。

文:赤沼 圭子
神奈川県川崎市在住。92年にサッカー雑誌の編集部員としてJリーグ取材を始め、95年にフリーとなる。オフィシャルイヤーブックの制作を契機に96年から千葉を中心に取材し、オフィシャル媒体やサッカー誌、J’sGOALなどに寄稿。